日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール

ほろ苦い一夏の思い出を描いたお洒落ミュージカル映画


映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』予告編

 

ラ・ラ・ランド』とも『シング・ストリート』とも違った、お洒落でガーリーなミュージカル映画。この映画を一言で表すと、お洒落!サントラから、衣装、演出、雰囲気に至るまで、センスに満ち溢れている。

ところどころ、1950年代末のフランスで始まった「ヌーヴェルヴァーグ」を思わせる映像で、ファッション共々スタイリッシュ!

 

『コーヒーをめぐる冒険』や『フランシス・ハ』のようにヌーヴェルヴァーグに影響を受けた感じがある。舞台はスコットランドグラスゴーにある街。拒食症で入院中のイヴは、一人ピアノに向かい曲を書いていた。ある日、彼女は、病院を抜け出し向かったライブハウスで、アコースティック・ギターを抱えたジェームズに出会い、さらにジェームズがギターを教えているキャシーとも知り合うようになる。2人の少女と1人の少年はバンドを組み、一緒に音楽を作り始める。

 

 

 とにかくイブのファッションがお洒落!サントラも雰囲気もお洒落!

 拒食症を患い、少しメンヘラ気味で芸術の才能に溢れたサブカル系女子のイブ。この映画の見どころの一つがイブのファッションだ。イブのファッションがお洒落で可愛い!雑誌で例えると、FUDGEやCLUELといった感じのセンスに満ちたファッション。こんな彼女が欲しいな...そして映画を彩る音楽もお洒落だし、雰囲気もお洒落。本当にセンスの塊みたいな映画だな。演出(アイリスアウトとか)や雰囲気がヌーヴェルヴァーグの雰囲気に近いなと見てて思った。

 

ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール 通常版 DVD

ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール 通常版 DVD

 

 

今年は印象派の展覧会が充実している~プーシキン美術館展とビュールレ・コレクション~

 今年は印象派の展覧会が充実している!

 今年はプーシキン美術館展と至上の印象派展ビュールレ・コレクションの展覧会がある。どちらもモネ、ルノワールといった印象派の絵画が充実している。

 

プーシキン美術館展は、フランス絵画コレクションで有名なモスクワのプーシキン美術館から珠玉の風景画が展示される。モネの『草上の昼食』、ルノワールの『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの木陰』やルソーの『馬を襲うジャガー』などの風景画がならぶ。

 

至上の印象派展ビュールレ・コレクションでもドガ、マネ、ルノワールゴッホゴーギャンセザンヌ、モネ、マティスピカソといった豪華な顔ぶれが並ぶ。特に印象派・ポスト印象派の作品は充実していて、絵画史上、最も有名な少女像ともいわれるルノワールの『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢』とセザンヌの『赤いチョッキの少年』が来日する。

 

どちらも見に行くのが楽しみだ。

 

 

この世で一番無駄な時間は食器を洗っている時間だと思う。

この世で一番もったいない時間ってなんだろ

貧富の差が広がる現代において、かろうじて平等と言えるのは、一日は24時間しかないということだろうか。時間は誰にとっても平等である。限られた時間をどう使うかが、人生を有意義に過ごすことに直結すると思う。

 

この世で一番無駄な時間は食器を洗っている時間だと思う。食器って洗っても、また明日には使って汚れる運命にある。それを毎日繰り返す。なんだかばからしくなって来ないだろうか。食器を洗っている時間に別の有意義なことが出来るだろう。読書であったり、何なりと。これがつもり重なると大変なことになるのではないのだろうか。だから食洗機を買って時間を節約したいものです。

トラウマに向き合うということ / 「七番目の男」 村上 春樹

「七番目の男」は村上春樹の短編の中でも最高傑作の一つだと思う

 

七番目の男」は『レキシントンの幽霊』に収録された短編で、村上春樹の短編の中でも印象に残る小説だ。「七番目の男」は、別の「鏡」という短編と同じスタイルを踏襲している。そのスタイルというのは、来客たちが自分の体験した怖い話を語り合うというものだ。その怪談を語り合う場で、主人公が七番目に話すから「七番目の男」。「七番目の男」が語りだすのはある台風の日に起こった奇妙な出来事と、その出来事が「七番目の男」の人生に引き起こした波紋。

 

「七番目の男」が語った内容はこんなものだ。

「七番目の男」は子どもの頃、海辺の町に住んでいた。彼にはKという仲の良い友人がいて、兄弟同然の仲だった。Kには障害があったが、絵の才能に溢れていて、コンクールで入賞することもたびたびあった。

彼らの住む町に台風が訪れたのは、ある年の九月のことだった。当然学校は休みで、各々家に閉じこもり、台風が過ぎ去るのを待っていた。突然雨も風も止み、空には青空が広がっていた。台風の目の中に入ったのだ。「七番目の男」は海に向かった。それを見かけたKが外に出てきてついてきた。台風がつくり出した非日常に夢中になる2人だったが、魔の手が忍び寄っていた。津波だ。

男はKに逃げるように叫んだが、Kは一向に気が付かない。男はKを助けようと思うが、それに反して体は逃げていた。Kを置き去りにして。

 

Kは波にさらわれてしまう。再び男の前に津波が姿を現した時、波の中にはKがいた。耳まで口を裂いて、笑っているKが。男は気を失い、それから一週間ほど寝込んでしまう。結局、Kの遺体は見つかることがなかった。

誰も男のことを責めなかったが、男の心には深い傷が残った。その心の傷の疼きに苦しみ、男は故郷を離れて暮らすようになる。あるときKが残した絵がきっかけとなり、男は過去のトラウマに向き合うことになる。そして、過去に向き合い男は救われたように見える。

 

人生には何が起こるか分からない。順風満帆な人生であっても、ちょっとした偶然で歯車が狂ってしまうと、簡単に損なわれてしまう。井戸のような深い穴にはまり込んでしまって、人生が台無しになってしまうこともある。

この『七番目の男』を読んでいると、人生の残酷さや頼りなさが思い浮かんできた。波に関連するけれど、東日本大震災では津波によって多くの命が失われた。壮絶な過去は人を蝕むものだ。この『七番目の男』は過去の苦しみに向き合い、苦しみから自分を解放する物語として読める。時間が過ぎ去っていくことで、どんな壮絶な出来事も「過去」になっていく。男は恐怖から目をそらすことをせずに向き合い乗り越えることが出来た。トラウマから逃げずに向き合い、トラウマを受け止めるということがこの『七番目の男』の主題のように思えた。

 

しかし僕は少し違和感を覚えた。最後の方では、男はKは自分の事を恨んでいなかったと解釈するようになった。

しかしそうだろうか?実際、Kは男のことを恨んでいたかもしれない。この話は男の独白で進行していくので、男は自分にとって都合のいいように過去を解釈しているというふうにも思える。Kからの呪縛から逃れるために、解釈を変えたのか。多かれ少なかれ人は、自己弁護しなければ過去の重みに耐えれないのではないかと考えさせられた。

 

 

いつの間にか安部公房『けものたちは故郷をめざす』が復刊していた件

いつの間にか復刊していた

 

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そのときの僕は 書店でフラフラしていて、なんとなく新潮文庫安部公房の辺りをみていた。『砂の女』、『箱男』、『他人の顔』、『けものたちは故郷をめざす』、『燃えつきた地図』と文庫本が棚に並んでいた。

 

ん、ん、ん。なにか違和感を覚えた。何かおかしいものを見たような気がする。もう一度棚を見てみた。安部公房のプレートが刺さっているあたりから順番に、『砂の女』、『箱男』、『他人の顔』、『けものたちは故郷をめざす』、『燃えつきた地図』...ん?ん?ん?最初はこの違和感が何から生じているのか分からなかった。しかし、落ち着いて棚を見ていると、違和感の正体に気づいた。あれれ、『けものたちは故郷をめざす』が棚にある!この『けものたちは故郷をめざす』という小説は長らく絶版になっていたのである。いつの間にか復刊している…就活に現を抜かしている間に復刊しているとは。驚きである。

 

というわけで、『けものたちは故郷をめざす』が復刊していた。しかも新しいカバーになって再登場。このペースで他の安部公房作品も復刊してほしいものだな。

 

けものたちは故郷をめざす (新潮文庫 あ 4-3)

けものたちは故郷をめざす (新潮文庫 あ 4-3)

 

 

ブックオフでひたすらに島田雅彦の絶版本を集める

ブックオフって意外にレアな本がある

 

ブックオフって意外と絶版になった純文学作品や、ミステリーを扱っていることに最近気づいた。ブックオフで買っても作家にお金が入らないので、本を買ったことはなかったけれど、絶版本を買うにはうってつけだなと思った。レアな本は、それこそ古めかしい古本屋や古本市でしか見つけることが出来ないのかなっと思っていた。案外、安部公房の『幽霊はここにいる・どれい狩り』みたいなバリバリの前衛文学も置いていたりしてる。

 

最近はまっているのが、ブックオフ島田雅彦の絶版本を探すことだ。島田雅彦は純文学のベテランで、芥川賞の選考委員もしている。島田雅彦自身は6度も芥川賞候補になっているが、結局芥川賞を取ることが出来なかった。なんで受賞できなかったのだろうと思う。受賞してもおかしくないのに。僕が島田雅彦を読みだしたころには、半分ぐらいは絶版になっていた。『彼岸先生』も絶版になっていたし、島田雅彦の最高傑作の一つと言われる無限カノンシリーズも絶版になっていた。

 

 

あるとき家の近くのブックオフに立ち寄ったところ、なんと探し求めていた『彼岸先生』が置いてあるではないか。これがきっかけでブックオフ島田雅彦の絶版本探しをするようになった。案外置いてあるもので、無限カノンシリーズの『彗星の住人』と『エトロフの恋』は見つかった。あとは『美しい魂』がそろえば無限カノンシリーズが揃う!他にも島田雅彦の絶版本が次々そろっていった。ネットで買うとすぐそろうのだけれども、宝探し感というか、実際に店舗で絶版本を見つけたいのである。まあ、早く復刊してほしいけれど。

 

 

彗星の住人―無限カノン〈1〉 (新潮文庫)

彗星の住人―無限カノン〈1〉 (新潮文庫)

 

 

 

美しい魂 (新潮文庫)

美しい魂 (新潮文庫)

 

 

 

エトロフの恋 (新潮文庫)

エトロフの恋 (新潮文庫)

 

 

意外と絶版になっている安部公房の小説

意外と絶版になっている安部公房の小説

砂の女

砂の女

 

 僕は安部公房が好きだ。人生で一番感銘を受けた本は何かと問われると、安部公房の『砂の女』と即答するぐらいには好きだ。安部公房との出会いのきっかけは、高校の教科書に掲載されていた「赤い繭」という短編だ。これまでに読んだことがないような世界が広がっていて、様々な隠喩が張り巡らされた小説に引き付けられた。それから、『壁』・『砂の女』・『箱男』と安部公房作品を読むようになった。圧倒的な描写力によって支えられた哲学的なストーリーに夢中になった。しかし、周りの友達は安部公房を知らないようで、「誰それ、美味しいの? 」といった感じだった。(実際はこんな感じではない)。そういえば、実際に安部公房が好きという人に会ったことがないな。アイドルの世界には安部公房好きな乃木坂46齋藤飛鳥がいるのだけれど、現実には安部公房好きな女子っていないよな。非常に残念である。安部公房を嗜む、理想の黒髪の乙女は何処?

 

話を本題に戻すと、時の流れは残酷なもので、ノーベル文学賞候補といわれた安部公房の作品でさえいくつかが絶版になっている。その絶版になってしまった書籍をまとめてみようと思う。あわよくば、復刊してほしいな。

 

 

 

 カーブの向う・ユープケッチャ

カーブの向う・ユープケッチャ (新潮文庫)

カーブの向う・ユープケッチャ (新潮文庫)

 

 『燃えつきた地図』の原型である『カーブの向う』、『方舟さくら丸』の原型である『ユープケッチャ』、『砂の女』の原型である『チチンデラ ヤパナ』など、長編小説になる前の「種」の状態の短編小説が多く収録されている。どのように長編小説に変遷していったかが気になるので凄く読みたい。

 

 石の眼

石の眼 (新潮文庫 あ 4-10)

石の眼 (新潮文庫 あ 4-10)

 

絶版の本の中でもかなり気になっているのが『石の眼』。調べてみると、『石の眼』は社会派推理小説であり、『砂の女』に連なる試行錯誤的な作品であるらしい。ダムの工事現場で起きた殺人未遂事件を軸に話が展開していき、芥川龍之介の『藪の中』に近いテイストらしい。安部公房の作品の中でミステリーというのは『燃えつきた地図』ぐらいしか思いつかないから、気になっている。まあ、『燃えつきた地図』はミステリーというよりかは、アンチミステリの毛色が強いけれど。復刊希望。

 

 

 夢の逃亡

夢の逃亡 (新潮文庫 草 121-13)

夢の逃亡 (新潮文庫 草 121-13)

 

安部公房の初期短編集。表題作は「名前の喪失」をモチーフにしており、ここから派生して『壁』になったのだろうかと思う。『壁』との読み比べもしてみたいな。世界のKobo Abeなので是非とも復刊して欲しいものですな。

 

 

 幽霊はここにいる・どれい狩り

幽霊はここにいる・どれい狩り (新潮文庫)

幽霊はここにいる・どれい狩り (新潮文庫)

 

安部公房と言えば前衛文学やSFのイメージが強いかもしれないが、戯曲も手掛けている。「 幽霊はここにいる・どれい狩り」は、戯曲を収録した作品集だ。収録されている「幽霊はここにいる」で岸田演劇賞を受賞 しているので、是非とも復刊してほしいところ。というか、何故絶版になっているんだ。

 

 

 緑のストッキング・未必の故意

緑色のストッキング・未必の故意 (新潮文庫)

緑色のストッキング・未必の故意 (新潮文庫)

 

 こちらも 戯曲を収録した作品集だ。緑色のストッキングを愛する中年男が、その趣味が妻子にばれてしまったことが原因で自殺未遂し、医者の実験台となり「草食人間」となるという、あらすじからしてカオスな戯曲だ。戯曲「未必の故意」で芸術選奨文部大臣賞、戯曲「緑色のストッキング」で読売文学賞を受賞している。なのになぜ絶版なんだ。

 

 

 飛ぶ男

飛ぶ男

飛ぶ男

 

 安部公房の未完の遺作。死後、フロッピー・ディスクから発見され、刊行されるに至る。しかし、単行本版は夫人の真知による加筆がなされており、それが原因か文庫化がなされていない。夫人による加筆があったということもあり、この作品は復刊が厳しいかなって思っている。僕自身はたまたま古本屋で単行本を発見することが出来たので、なんとか買うことが出来た。「飛ぶ男」と「さまざまな父」の2作品が収録されている。

 

 

 死に急ぐ鯨たち

死に急ぐ鯨たち (新潮文庫)

死に急ぐ鯨たち (新潮文庫)

 

『死に急ぐ鯨たち』はエッセイやインタビューをまとめたものだ。エッセイと言えば『笑う月』ぐらいしか思いつかないから、これも復刊してほしいところ。

 

 

 

 

最近、『けものたちは故郷をめざす』がしれっと復刊されていたので、希望は捨てていない。『(霊媒の話より)題未定』も早く文庫化してほしいな。安部公房ほど現代で読まれるべき作家はいないのだろうかと思っている。一刻も早く安部公房の書籍が復刊されることを願うばかりである。めざせ「安部公房、春の復刊祭り」。