日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

第172回芥川龍之介賞の候補作を紹介する

第172回芥川賞の候補作が発表された。候補作は下記の五作品だ。

 

  • 安堂ホセ「DTOPIA」(文藝秋季号)
  • 鈴木結生「ゲーテはすべてを言った」(小説トリッパー秋季号)
  • 竹中優子「ダンス」(新潮11月号)
  • 永方佑樹「字滑り」(文學界10月号)
  • 乗代雄介「二十四五」(群像12月号)

 

ノミネートされた5名のうち、鈴木結生、竹中優子、永方佑樹は初めて候補に選ばれ、安堂ホセは3回目、乗代雄介は5回目のノミネートとなる。

 

芥川賞をざっくり簡単に説明すると、新人作家の純文学作品に与えられる文学賞だ。文学賞の中で一番有名な賞だろう。純文学というと定義が難しいのだけれど、芥川賞に限っていえば、「文學界」・「新潮」・「群像」・「すばる」・「文藝」の五大文芸誌に掲載された作品が候補の対象となる。候補の作品となる小説の長さは中編程度が多い。

以下作品の詳細について書いていく。

 

 

 

そもそも芥川賞とは?

まず、芥川賞について簡単に説明しよう。芥川賞とは、新人作家の純文学作品に与えられる文学賞だ。純文学における登竜門的な賞で、文学賞の中で一番知名度がある賞かもしれない。純文学界のM−1グランプリみたいなものだ。純文学というと定義が難しいのだけれど、芥川賞に限っていえば、「文學界」・「新潮」・「群像」・「すばる」・「文藝」の五大文芸誌に掲載された作品が候補の対象となる。他の文芸誌に載った作品も候補になることがあるが非常にまれだ。

 

第172回芥川龍之介賞候補作の紹介

それでは、今回候補になった五作品について紹介したい。

 

安堂ホセ「DTOPIA」(文藝秋季号)

DTOPIA

DTOPIA

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安堂ホセの『DTOPIA』は、恋愛リアリティショーを題材とした作品だ。安藤ホセは『ジャクソンひとり』で第59回文藝賞を受賞し、作家としてデビュー。この作品は、東京に暮らすブラックミックスたちの逆襲劇を描いており、独特な視点と表現が評価されている。これまでに『ジャクソンひとり』と『迷彩色の男』で芥川賞候補になっている。

今回候補になった『DTOPIA』は、南太平洋の楽園、ボラ・ボラ島を舞台に、YouTubeで配信される恋愛リアリティ番組『プリンス・オブ・ボラ・ボラ』の裏側を描いた作品。ミス・ユニバースを巡り、10人の男たちが争うという番組だが、実際には出演者同士の争いや権力闘争が渦巻く過酷な世界となっている。 番組は視聴者から絶大な人気を誇り、出演者たちは一躍時の人となるが、裏側では様々な問題を抱え苦悩する姿も。そんな中、番組の真相が明らかになり、出演者たちは新たな決意を固める。 リアリティ番組という虚構と、その中で生きる人間のリアルな感情の対比が鮮やかに描かれた作品だ。

 

 

鈴木結生「ゲーテはすべてを言った」(小説トリッパー秋季号)

鈴木結生の「ゲーテはすべてを言った」は、ゲーテの名言に出会った主人公がその言葉の原典を探し求めるアカデミックな冒険を描いた作品だ。
鈴木結生は「人にはどれほどの本がいるか」という作品で第10回林芙美子文学賞の佳作を受賞しデビュー。

ゲーテ学者・博把統一(ひろばとういち)は、家族との夕食中にティーバッグのタグに書かれた見慣れないゲーテの言葉に遭遇する。 長年の研究生活の記憶を辿り、膨大な原典を読み漁る統一。 ゲーテの言葉の意味を追求する中で、彼は自身の研究や人生、そして創作活動そのものを見つめ直していく。 ひとつの言葉を巡る彼の旅路は、読者を思いがけない結末へと誘う。

 

 

竹中優子「ダンス」(新潮11月号)

ダンス

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竹中優子の「ダンス」は社内恋愛に失敗した二人の女性の人生を描いた小説だ。竹中優子は、短歌、詩、小説の三つのジャンルで活躍しており、その多才さから「三刀流」とも称されている。
主人公が、職場の三角関係で休職中の同僚を心配する場面から物語が始まる。 心配の対象である下村さんは、一回り年上の先輩。 主人公は、下村さんとの交流を通して、恋愛や人間関係、そして自分自身の生き方について深く考えるようになる。物語の最後で、下村さんは主人公に「なんか、普通の人が高校生ぐらいで経験することを味わわせてもらったかもしれません」と語る。 作者自身の経験をベースに、ユーモラスな筆致で描かれている。

 

 

永方佑樹「字滑り」(文學界10月号)

永方佑樹の「字滑り」は、字滑りと呼ばれる、局地的に発話や表記のルールが乱れる現象を題材にした挑戦的な作品だ。・永方佑樹は詩作だけでなく、立体詩や社会との連携を重視したアート活動でも知られています。

この「字滑り」という作品では、タイトル通り字滑りと呼ばれる、局地的に発話や表記のルール・表現が乱れる現象に焦点が当たっている。 字滑りに関心を寄せるモネ、骨火、アザミの3人は、字滑りが頻発するという土地に新しくオープンする宿の宿泊モニターに選ばれる。 現地に赴いた3人は、その土地と字滑りの関係について調査を開始する。

作品は、前半の字滑り観測パートと後半の安達ケ原パートに分かれており、特に前半では、渋谷で突如発生する字滑りによってNHKのアナウンサーが言葉をもつれさせながらもひらがな語でアナウンスする様子が異様な雰囲気で描かれている。 言葉の持つ価値や意味の受け取られ方が時代の変遷により変化していく様が、3人の視点からそれぞれ描かれている。筒井康隆的な面白さがある作品だ。

 

 

乗代雄介「二十四五」(群像12月号)

二十四五

乗代雄介の『二十四五』は、喪失をテーマにした物語で、主人公が亡くなった叔母の痕跡を求めて旅をする様子が描かれている。乗代雄介の作品の特徴としては、他の文学作品や著名な作家からの引用が多く見られる。乗代雄介は、これまでに4回芥川賞にノミネートされている。具体的には、「最高の任務」「旅する練習」「皆のあらばしり」「それは誠」が芥川賞候補になっている。『本物の読書家』で第40回野間文芸新人賞、『旅する練習』で第34回三島由紀夫賞を受賞しているので、今回芥川賞を受賞すれば純文学新人賞三冠になる。

物語は、主人公が弟の結婚式に出席するために仙台に向かうところから始まる。彼女は、五年前に亡くなった叔母の思い出を辿りながら、過去と向き合う旅を通じて、喪失感や祈りの記録を綴っている。乗代雄介の代表作『旅する練習』に通じる作品だ。

 

 

第172回 芥川賞の受賞作は2025年1月15日に発表

www.bunshun.co.jp

選考会は1月15日に行われる予定だ。選考委員は、小川洋子、奥泉光、川上弘美、島田雅彦、平野啓一郎、堀江敏幸、松浦寿輝、山田詠美、吉田修一という豪華な顔ぶれだ。

毎回思うことだが、芥川賞候補作の発表時間がめちゃくちゃ早朝なのは何故なのか。やれやれ。個人的には乗代雄介に芥川賞を取って欲しいなと思っている。

 

栄光は誰の手に!

 

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