村上春樹作品といえば謎に満ちたストーリーが特徴だろう。
村上春樹作品を読んでみたが、謎が多いために内容がよく分からないという人は多いのではないだろうか。また、村上春樹作品を色んな視点から読み解きたい、もっと深く読み解きたいという人も多いと思う。
そんな時に役に立つのが、研究者や文芸評論家が書いた研究本や解説本だ。数多くある村上春樹についての解説本・評論本・研究書の中でおすすめのものを紹介したい。
- 『謎とき 村上春樹』 / 石原 千秋
- 『村上春樹と＜最初の夫の死ぬ物語＞』 / 平野 芳信
- 『妊娠小説』 / 齋藤 美奈子
- 『村上春樹”物語”の認識システム』 / 山根 由美恵
- 『小説から遠く離れて』 / 蓮實 重彦
- 『村上春樹の世界』 / 加藤 典洋
- 『村上春樹の短編を英語で読む』 / 加藤 典洋
- 『テクストから遠く離れて』 / 加藤 典洋
- 『村上春樹 イエローページ』 / 加藤 典洋
- 『ゲーム的リアリズムの誕生 動物化するポストモダン2』 / 東 浩紀
- 『村上春樹論の終焉』 / 栗原 裕一郎
『謎とき 村上春樹』 / 石原 千秋
『謎とき 村上春樹』は、作品から著者を切り離して解釈する「テクスト論」の観点で村上春樹作品を分析した本だ。著者は「テクスト論」に基づいた読解で有名な石原千秋さん。文芸時評でも有名だ。
『風の歌を聞け』や『1973年のピンボール』、『羊をめぐる冒険』、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』、『ノルウェイの森』をテクスト論的に読み解いている。
作中に謎が散りばめられていることで有名な村上春樹作品を鮮やかに読み解き、こんな解釈もできるんだと唸らされる一冊だ。
『村上春樹と＜最初の夫の死ぬ物語＞』 / 平野 芳信
『村上春樹と＜最初の夫の死ぬ物語＞』は村上春樹の研究を行ってきた平野芳信の著作だ。この本には『風の歌を聴け』に関する有名な論文が掲載されている。
村上春樹の『風の歌を聞け』は断片で構成されていて、長い間完全に読み解かれてこなかった。そんな『風の歌を聞け』の読解に風穴を開けたのが平野芳信の論文「凪の風景、あるいはもう一つの物語 : 『風の歌を聴け』論」だ。この論文で指摘しているのは、「小指のない女は鼠の子どもを堕胎した」ということが隠されているというものだ。この「鼠が小指のない女の子を失う話」は平野芳信や斎藤美奈子が指摘し、『風の歌を聴け』の基本骨格の読解として定着した感がある。
『妊娠小説』 / 齋藤 美奈子
齋藤美奈子の『妊娠小説』は、森鴎外の『舞姫』や石原慎太郎の『太陽の季節』、村上春樹の『風の歌を聞け』など、妊娠というモチーフから小説を分析した評論集だ。妊娠がメインテーマとなった小説は意外と多く、各小説を分析して特定の小説構造があることを指摘している。村上春樹関連で言うと、『風の歌を聞け』のメインプロットに妊娠が関連している点を指摘した。先述の平野芳信と同時期に『風の歌を聞け』のメイン構造が「鼠が小指のない女の子を失う話」だと綺麗に読み解いた名著だ。
他にも有名な文学作品と妊娠というモチーフを絡めて、鋭い読みを披露しているので、文学好きなら読んで損はない。
『村上春樹”物語”の認識システム』 / 山根 由美恵
『村上春樹”物語”の認識システム』は、村上春樹を研究している山根由美恵の著作だ。
この本では、短編小説の改稿に注目して各作品を分析している。また、『風の歌を聴け』についての有名な論文「村上春樹「風の歌を聴け」論 : 物語の構成と〈影〉の存在」が収録されている。
『小説から遠く離れて』 / 蓮實 重彦
『小説から遠く離れて』は、同時代の小説の構造を見事に分析してみせた批評だ。『小説から遠く離れて 』では、『羊をめぐる冒険 』と『同時代ゲーム』、そして同時代に書かれた『コインロッカー・ベイビーズ』 などの小説にはすべて同じ物語構造があると指摘した。
共通する物語構造とは、「依頼と代行」 による 「宝探し」の物語だ。これらの小説の物語の構造は 「依頼」→「代行」→「出発」→「発見」の流れをとる。
『村上春樹の世界』 / 加藤 典洋
文芸評論家の加藤典洋の村上春樹関連の批評や評論をまとめた本だ。有名なところでいうと、『風の歌を聴け』の小説時間内の日数について分析した批評が載っている。
『村上春樹の短編を英語で読む』 / 加藤 典洋
この本では、村上春樹の短編を加藤独自の視点から分析している。
『テクストから遠く離れて』 / 加藤 典洋
『村上春樹 イエローページ』 / 加藤 典洋
加藤典洋の村上春樹関連の有名な本といえば『村上春樹 イエローページ』だろう。この本では網羅的に村上春樹作品の謎解きを分析している。
『ゲーム的リアリズムの誕生 動物化するポストモダン2』 / 東 浩紀
『世界の終わりとホードボイルド・ワンダーランド』の分析が載っている。
『村上春樹論の終焉』 / 栗原 裕一郎
この本はちょっと異色で、村上春樹についての評論の変遷を紹介した本だ。最後には、おすすめの村上春樹論を紹介している。
