日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

第169回芥川龍之介賞の受賞作を予想する

第169回芥川賞の候補作が発表された。候補作は下記の五作品だ。

石田夏穂「我が手の太陽」(群像5月号)
市川沙央「ハンチバック」(文學界5月号)
児玉雨子「##NAME##(ネーム)」(文藝夏季号)
千葉雅也「エレクトリック」(新潮2月号)
乗代雄介「それは誠」(文學界6月号)

ノミネートされた5名のうち、市川沙央、児玉雨子が初の候補入りだ。石田夏穂は2度目、千葉雅也は3度目、乗代雄介は4度目のノミメートとなっている。

芥川賞をざっくり簡単に説明すると、新人作家の純文学作品に与えられる文学賞だ。文学賞の中で一番有名な賞だろう。純文学というと定義が難しいのだけれど、芥川賞に限っていえば、「文學界」・「新潮」・「群像」・「すばる」・「文藝」の五大文芸誌に掲載された作品が候補の対象となる。候補の作品となる小説の長さは中編程度が多い。

以下作品の詳細について書いていく。

 

 

 

そもそも芥川賞とは?

まず、芥川賞について簡単に説明しておく。芥川賞とは、新人作家の純文学作品に与えられる文学賞だ。純文学における登竜門的な賞で、文学賞の中で一番知名度がある賞かもしれない。純文学界のM−1グランプリみたいなものだ。純文学というと定義が難しいのだけれど、芥川賞に限っていえば、「文學界」・「新潮」・「群像」・「すばる」・「文藝」の五大文芸誌に掲載された作品が候補の対象となる。他の文芸誌に載った作品も候補になることがあるが非常にまれだ。

 

第169回芥川龍之介賞候補作の紹介

それでは、今回候補になった五作品について紹介したい。

 

石田夏穂「我が手の太陽」(群像5月号)

鉄鋼を溶かす高温の火を扱う溶接作業はどの工事現場でも花形的存在。その中でも腕利きの伊東は自他ともに認める熟達した溶接工だ。そんな伊東が突然、スランプに陥った。日に日に失われる職能と自負。野球などプロスポーツ選手が陥るのと同じ、失った自信は訓練や練習では取り戻すことはできない。現場仕事をこなしたい、そんな思いに駆られ、伊東は……。

石田夏穂は2021年「我が友、スミス」で第45回すばる文学賞佳作を受賞しデビュー。デビュー作で芥川賞にノミネートされた。「我が友、スミス」は、ボディ・ビルの大会を目指し筋トレに励む女性・U野の姿を描き、コミカルにジェンダーの問題を描いたのが注目を集めた。

今回芥川賞候補になった「我が手の太陽」は、溶接工が陥った突然のスランプに陥った溶接工を描いた異色の職人小説だ。

 

 

市川沙央「ハンチバック」(文學界5月号)

井沢釈華の背骨は、右肺を押し潰すかたちで極度に湾曲している。両親が遺したグループホームの十畳の自室から釈華は、あらゆる言葉を送りだす――。

 

 


児玉雨子「##NAME##(ネーム)」(文藝夏季号)

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光に照らされ君といたあの時間を、ひとは”闇”と呼ぶ――。かつてジュニアアイドルの活動をしていた雪那。少年漫画の夢小説にハマり、名前を空欄のまま読んでいる。第169回芥川賞候補作

 

 

千葉雅也「エレクトリック」(新潮 2月号)

1995年、雷都・宇都宮。高2の達也は東京に憧れ、広告業の父はアンプの製作に奮闘する。父の指示で黎明期のインターネットに初めて接続した達也は、ゲイのコミュニティを知り、おずおずと接触を試みる。轟く雷、アンプを流れる電流、身体から世界、宇宙へとつながってゆくエレクトリック。新境地を拓く待望の最新作!

千葉雅也は気鋭の哲学者だ。小説も公表していて「デットライン」で芥川賞候補になり、芥川賞の受賞は逃したものの、第41回野間文芸新人賞を受賞している。

「エレクトリック」では、アンプの製作がきっかけで黎明期のインターネットに初めて接続した達也が、ゲイのコミュニティを知り、おずおずと接触を試みるという内容だ。

 

 

乗代雄介「それは誠」(文學界6月号)

それは誠

それは誠

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修学旅行で東京を訪れた高校生たちが、コースを外れた小さな冒険を試みる。その一日の、なにげない会話や出来事から、生の輝きが浮かび上がり、えも言われぬ感動がこみ上げる名編。

今回の予想の大本命が乗代雄介の「それは誠」だ。個人的には乗代雄介の最高傑作といっても過言ではないし、なんなら今年の芥川賞を取るのはこの作品だと思っている。

乗代雄介は「十七八より」で第58回群像新人文学賞を受賞しデビュー。『本物の読書家』で第40回野間文芸新人賞を受賞し、「旅する練習」で三島由紀夫賞を受賞している。以前には「最高の任務」、「旅する練習」、「皆のあらばしり」で3回芥川賞候補に挙がっている。もし今回候補になれば、4回目の芥川賞候補だ。乗代雄介の作風としては、テクストの引用が多用されるのが特徴だ。

「それは誠」は、修学旅行で東京に訪れた高校生たちがコースを外れてちょっとした冒険をするという話だ。

 

 

第169回芥川龍之介賞の受賞作の予想

それは誠

それは誠

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個人的な予想だが、第169回芥川賞を受賞するのは乗代雄介の「それは誠」ではないかと予想。

 

 

第169回 芥川賞の受賞作は7月19日(水)に発表

www.bunshun.co.jp

選考会は7月19日(水)16時に行われる予定だ。選考委員は、小川洋子、奥泉光、川上弘美、島田雅彦、平野啓一郎、堀江敏幸、松浦寿輝、山田詠美、吉田修一という豪華な顔ぶれだ。

 

 

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