日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

奇々怪々!世にも奇妙な物語みたいな短編小説10選

世にも奇妙な物語」をご存知だろうか?

「恐怖系」、「コメディ系」、「感動系」 、「意味不明系」といった奇妙なテイストのオムニバスドラマだ。ストーリーテラーのタモリが印象的なフジテレビのご長寿シリーズである。

この記事では、「世にも奇妙な物語」に似たテイストの短編小説をストーリーテラーのタモリさん風に紹介したい。

あなたも小説を読んで奇妙な世界に迷い込んでみませんか?

 

 

 

『鼓笛隊の襲来』 / 三崎 亜記

赤道上に発生した戦後最大規模の鼓笛隊が、勢力を拡大しながら列島に上陸する。直撃を恐れた住民は次々と避難を開始するが、「わたし」は義母とともに自宅で一夜を過ごすことにした。やがて響き始めたのは、心の奥底まで揺らす悪夢のような行進曲で…(『鼓笛隊の襲来』)。ふと紛れ込んだ不条理が、見慣れたはずの日常を鮮やかに塗り変えていく。著者の奇想が冴えわたる、驚異の傑作短編集。

台風、地震、豪雨、豪雪、日本は世界屈指の災害大国です。日本人は災害と共に生きる中で、対処方法を編み出してきました。では、その災害が「鼓笛隊」だったらどうでしょう…

「世にも奇妙な物語」に似た小説を考えたときに真っ先に思いついたのが三崎亜記という作家だ。日常から少しズレた「少し、不思議(SF)」な小説が魅力の作家だ。特に『鼓笛隊の襲来』という短編集は、本家の「世にも奇妙な物語」のように、恐怖系やコメディ系、意味不明系、感動系、シュール系が揃った短編集なのである。この短編集だけで、「世にも奇妙な物語」が作れると思っている。

表題作の「鼓笛隊の襲来」は、台風の代わりに鼓笛隊が日本に上陸する世界の話だ。設定を聞くだけで奇妙な世界の扉が開いていることを実感できるだろう。

表題作以外も素晴らしく、特に「校庭」はこれまで読んできた小説の中でもトップ3に入るくらい怖い話だった。「校庭」は心霊要素がないにも関わらず、めちゃくちゃ怖いという不思議な小説だ。想像すればするほど鳥肌がたつエンディングをぜひ味わって欲しい。

また、意味不明系としては「突起型選択装置」を推したい。また「彼女の痕跡展」は、日常生活に忍び寄る違和感を描いた傑作だ。地上と空中に隔たれたカップルを描いた「遠距離・恋愛」は、読んでいてほっこりする。

これ一冊で十分に奇妙な世界に入り込むことができるのでおすすめだ。

 

 

『バスジャック』 / 三崎 亜記

『今、「バスジャック」がブームである―。バスジャックが娯楽として認知されて、様式美を備えるようになった不条理な社会を描く表題作。回覧板で知らされた謎の設備「二階扉」を設置しようと奮闘する男を描く「二階扉をつけてください」、大切な存在との別れを抒情豊かに描く「送りの夏」など、著者の才能を証明する七つの物語。

いやあ、このご時世だと家には「二階扉」をつけないとねぇ。え?「二階扉」って何だって?それはですね……

またまた、三崎亜記の短編集を紹介したい。この短編小説集で特におすすめしたいのが、「バスジャック」と「二階扉をつけてください」だ。それぞれ「シュール枠」兼「コメディ枠」でおすすめしたい。

バスジャック」は、バスジャックが娯楽として認知された世界の不条理を描いた作品だ。しかも、バスジャックの様式も定まっているという奇妙な世界だ。

二階扉をつけてください」の方は、回覧板で知らされた謎の設備「二階扉」に振り回される主人公を描いた作品である。自分だけ「二階扉」を知らず、町内会の人に翻弄される。本家の「世にも奇妙な物語」で例えると、自分だけが言葉の意味を知らない世界を描いた「ズンドコベロンチョ」に近い内容の話だ。最後に二階扉の使い方がちゃんと描かれるのだが、オチが秀逸すぎるのである。誰も予想できないであろう。

 

 

『ニセモノの妻』 / 三崎 亜記

「もしかして、私、ニセモノなんじゃない?」妻と思ってきた女の衝撃的な一言で始まったホンモノの妻捜し。けれど僕はいったい誰を愛してきたのだろう(「ニセモノの妻」)。ある日、仲睦まじい夫婦の妻だけが時間のひずみに囚われてしまった。共に明日を迎えられない彼女のために夫がとった行動は──(「断層」)。その他、非日常に巻き込まれた 4 組の夫婦の、不思議で時に切なく温かな短編集。

妻―それは一番身近で、いちばん不可解なアナザーワールド。もし、自分の妻が偽物に変わったとしても、あなたは見分けることができるでしょうか。次は、妻から「自分はニセモノ」だと告白され、奇妙な世界に入り込んでしまった一人の男性の話です。

またまた、三崎亜記の短編小説集を紹介する。『ニセモノの妻』では、夫婦がテーマになっている。奇妙な世界に巻き込まれた4組の夫婦を描いた短編集だ。

自分のことをニセモノだと思う妻とホンモノ捜しの奇妙な日々を描いた「ニセモノの妻」、無人の巨大マンションで奇妙な世界に巻き込まれた「終の筈の住処」、坂ブームに揺れる町の夫婦関係を描いた「坂」、妻だけが時の歪みに囚われてしまった「断層」。

奇妙な話でありながらも、時に切なく時に温かな短編集だ。

 

 

『ZOO』 / 乙一

何なんだこれは!「1」は双子の姉妹なのになぜか姉のヨーコだけが母から虐待され――(「カザリとヨーコ」)。謎の犯人に拉致監禁された姉と弟がとった脱出のための手段とは?――(「SEVEN ROOMS」)など5編をセレクト。「2」は、目が覚めたら、何者かに刺されて血まみれだった資産家の悲喜劇(「血液を探せ!」)、ハイジャックされた機内で安楽死の薬を買うべきか否か?(「落ちる飛行機の中で」)など驚天動地の粒ぞろい5編に加え、幻のショートショート「むかし夕日の公園で」を特別収録。

あなたは飛行機がハイジャックされたときどうしますか。死が身に迫る状況の中で、安楽死の薬を営業されたらあなたは購入しますか。安らかな死を選ぶか、わずかな希望にかけるか、主人公はどの選択をしたのでしょうか。

「世にも奇妙な物語」に似た小説を考えたときに、三崎亜記の次に思いついたのが乙一という作家だ。グロテスクな話から、奇妙な話、ブラックジョークな話、はたまた切ない感動系の話と、色んな作風で短編小説を発表している乙一の短編小説なら、奇妙な世界を楽しむことができる。特に『ZOO』という短編集は、バラエティ豊かな短編が収録されている。

どこか三谷幸喜風のハイジャックされた機内で安楽死の薬を買うべきか否か?を描いた「落ちる飛行機の中で」、謎の犯人に拉致監禁された姉と弟の脱出劇「SEVEN ROOMS」などどの短編も「世にも奇妙な物語」で映像化されてもおかしくない小説だ。ぜひ、乙一の作品世界を楽しんでみて欲しい。

 

 

『失われる物語』 / 乙一

目覚めると、私は闇の中にいた。交通事故により全身不随のうえ音も視覚も、五感の全てを奪われていたのだ。残ったのは右腕の皮膚感覚のみ。ピアニストの妻はその腕を鍵盤に見たて、日々の想いを演奏で伝えることを思いつく。それは、永劫の囚人となった私の唯一の救いとなるが……。表題作のほか、「Calling You」「傷」など傑作短篇5作とリリカルな怪作「ボクの賢いパンツくん」、書き下ろし「ウソカノ」の2作を初収録。

携帯電話は人々の生活を快適なものにしました。遠くにいる人ともコミュニケーションを取ることがもはや普通になりました。彼女の場合は、心の携帯電話が誰かに繋がったようです。

続いても乙一の作短編小説を紹介する。『失はれる物語』は乙一作品の中でも、「白乙一」とも呼ばれる、切ない感動系の短編小説を集めたものだ。

その中でも、「Calling you」という短編が奇妙な世界を描きつつ素晴らしいので紹介したい。主人公の女の子は友達がいないからかケータイを持ってない。つのる携帯電話への憧れが奇妙な世界の入り口を開く。毎日空想をして憧れ続けていたある日、彼女の頭の中に携帯電話の着信の音が鳴り響いた。それは、同じ孤独を抱えた少年からのSOSだった。ラストの切なさと意外性ある展開は必読だ。

 

 

『超・殺人事件』 / 東野 圭吾

人気推理作家を悩ませるのは巨額の税金対策。執筆経費を増やすため、小説の舞台を北海道からハワイに変えたり、ゴルフやカラオケの場面を強引に入れたり、物語はおかしな方向へ――。(「超・税金対策殺人事件」) 見切り発車で書き始めたが思いつかない結末、うっかり使い回してしまったトリック、褒めるところが見つからない書評の執筆。作家たちの俗すぎる悩みをブラックユーモアたっぷりに描いた、切れ味抜群の8つの作品集。

あなたは名作と言われてどんな作品を思い浮かべますか?夏目漱石の『こころ』では、恋愛をとるか、友情をとるかという苦悩が描かれています。では、この作家はどんな苦悩を描いたのでしょうか…

大人気作家の東野圭吾だが、時たまブラックジョークがきいた小説を発表している。『超・殺人事件』という短編集もその1つだ。経費をでっち上げるためにミステリの筋を歪めていく作家の話など、大人の事情を十分に加味した短編集。業界の闇に鋭く切り込んでいく短編に脱帽。ブラックジョーク枠としておすすめしたい。実際に、この短編集に収録されている「超・税金対策殺人事件」は「世にも奇妙な物語」でドラマ化されている。上のストーリーテラーの文章もドラマで使用されていた文章を少しもじったものだ。

おすすめは「超・税金対策殺人事件」だ。人気推理作家は巨額の税金対策に苦悩していた。「どうにかして節税できないか」と途方に暮れていた作家の元に、会計事務所に勤める友人の浜崎五郎が現れる。彼のアドバイスを元に購入した品物を何とか経費として処理しようと試みる。経費を計上するために、小説のストーリーがどんどん歪んでいくという話だ。費用計上する為に、小説の設定次々変わっていくのは笑ってしまった。

他にも「超長編小説殺人事件」など出版界の闇に切り込んだ作品があるので、そちらもおすすめだ。

 

 

『殺人出産』 / 村田 沙耶香

人は人生で4度、殺意を覚える--。芥川賞受賞作家、村田沙耶香の最大の衝撃作はコレだ!--今から100年前、殺人は悪だった。10人産んだら、1人殺せる。命を奪う者が命を造る「殺人出産システム」によって人口を保つ日本。会社員の育子には十代で「産み人」となった姉がいた。蝉の声が響く夏、姉の10人目の出産が迫る。未来に命を繋ぐのは彼女の殺意。昨日の常識は、ある日突然変化する。表題作、他三篇。

殺人、それは人間に許されない罪の一つです。では、10人産んだら1人殺せる社会があったらどうでしょうか。

村田沙耶香は社会の常識に激しい揺さぶりをかける小説を多く書いている。『殺人出産』という小説もその一つだ。

未来の日本では10人産んだら、1人殺せるという仕組みが導入されていた。命を奪う者が命を造る「殺人出産システム」によって人口を保つ日本。大きな矛盾を孕む世界に待ち受ける結末とは。

 

 

『パン屋再襲撃』 / 村上 春樹

堪えがたいほどの空腹を覚えたある晩、彼女は断言した。「もう一度パン屋を襲うのよ」。それ以外に、学生時代にパン屋を襲撃して以来、僕にかけられた呪いをとく方法はない。かくして妻と僕は中古のカローラで、午前2時半の東京の街へ繰り出した……。表題作のほか「象の消滅」、“ねじまき鳥”の原型となった作品など、初期の傑作6篇を収録した短編集。

銀行強盗にコンビニ強盗、お店を襲うという犯罪は毎年絶えません。でも、パン屋に強盗するというのは珍しいのではないでしょうか。これは、深夜にパン屋襲撃を試みたある夫婦の話です。

村上春樹も独特なシュールな世界が魅力の小説家だ。今回は『パン屋再襲撃』という短編集を紹介したい。タイトルからして、パン屋と再襲撃という到底結びつきそうにない言葉が並んでいるのが奇妙だろう。この短編集では、村上春樹作品の特徴であるシュールな展開やユーモアあふれる文章、喪失というモチーフがコンパクトに楽しめる。

表題作「パン屋再襲撃」はとある夫婦がパン屋を襲おうとする話だ。村上春樹作品に特有のシュールなストーリーを楽しめる。世にも奇妙な物語のシュール系の話にありそうじゃないか。村上春樹の面白いところの一つに比喩の巧みさがあるが、「パン屋再襲撃」での空腹の比喩は本当に秀逸で唸らされる。

また、「象の消滅」は村上春樹の短編小説の中でも名作と言われている。こちらは檻の中の象がいきなり消滅するという話だ。

 

 

『水中都市・デンドロカカリヤ』 / 安部 公房

ある日突然現われた父親と名のる男が、奇怪な魚に生れ変り、それまで何の変哲も無かった街が水中の世界に変ってゆく「水中都市」、コモン君が、見馴れぬ植物になる話「デンドロカカリヤ」。安部短編作品の頂点をなす表題二作に、戯曲「友達」の原型となった「闖入者」や「飢えた皮膚」など、寓意とユーモアあふれる文体の内に人間存在の不安感を浮び上がらせた初期短編11編を収録。

「多数決」は、選挙制度や民主主義の根幹をなす価値観の1つです。しかし、多数決の恐ろしさというのものを私たちはまだ知らないのかもしれません。

安部公房はノーベル文学賞受賞間近とも言われた作家で、短編小説でも抜群の完成度を誇る。安部公房の作品はシュールレアリスム的なものが多く、「世にも奇妙な物語」が好きな人にも楽しんでもらえると思う。特に短編集でおすすめなのが『水中都市・デンドロカカリヤ』だ。父親と名のる男が奇怪な魚に変化し、街が水中の世界に変ってゆく「水中都市」、主人公が見馴れぬ植物になってしまう「デンドロカカリヤ」など名作揃いだ。特におすすめなのが、「闖入者」という短編小説だ。 世にも奇妙な物語にありそうな、薄気味悪い小説である。

ある男の部屋に見知らぬ家族が押しかけてくる。その「闖入者」は、民主主義の名の下に多数決で「民主的」に男の部屋を占拠していく。民主主義で広く信じられている「多数決」という制度の暴力性を表現した小説だ。ぜひ、居心地が悪くなるような読後感を楽しんでみて欲しい。

 

 

『セブン』 / 乾 くるみ

セブン (ハルキ文庫)

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一見シンプルなトランプの数当てゲームが、生死をかけた心理バトルへと変貌する「ラッキーセブン」ほか、時間を何度もワープする男の話――「TLP49」、超ショートショート――「一男去って……」、戦場で捕らえられた兵士の生き残り作戦とは――「ユニーク・ゲーム」などロジカルな企みに満ちた七つの物語。トリッキーな作品世界に二度読み三度読み必至の驚愕の短篇集。

ブラックジャック、ポーカー、ババ抜き、トランプは色々な遊びに使われてきました。トランプゲームでは、時には大金が賭けられることもあります。そして、命が賭けられることも。

乾くるみの『セブン』はロジカルな企みに満ちた短編集だ。乾くるみはイニシエーション・ラブで有名な作家で、企みに満ちた構成が素晴らしい作家だ。

この短編集では、乾くるみマジックを思う存分楽しむことができる。ただのトランプゲームが心理バトルへと変貌する「ラッキーセブン」、を何度もタイムワープする男の話「TLP49」などが収録されている。

 

以上、世にも奇妙な物語みたいな小説の紹介でした。

気になったら、ぜひ読んでみてみて欲しい。

次に奇妙な世界の扉を開けてしまうのは、あなたかも知れません…

 

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