日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

かつて誰かがいた場所に自分はいる / 『その街の今は』 柴崎 友香

かつて誰かがいた場所に、私はいる

 

アパートで独り暮らしをしているとふと思うことがある。いま僕が住んでいる部屋にはどんなひとがすんでいたのだろう?当たり前のことだけど、僕たちはかつて誰かが生きた場所に生きている。このような過ぎ去った時間の積み重なりを描く小説家と言えば柴崎友香だ。柴崎友香は『春の庭』で芥川賞を受賞している作家で、場所に積み重なった時間をテーマにした小説を書いている。芥川賞を取った『春の庭』、三島由紀夫賞候補の『わたしがいなかった街で』など。今回紹介したいのは『その街の今は』という小説だ。この小説では、たくさんの人々が住んでいた昔の大阪の街に思いが馳せられる。主人公が大阪の街であるような小説だ。心斎橋など実際の地名が出てきて、大阪に住んでいると楽しみが増す。今僕がいる街は、過去誰かがいた街であって、いろんな過去が積み重なった上に今の僕、街があるんだろうなと思う。小説の中の雰囲気はとてもゆったりとしていて、いつまでもそのなかにいたくなる。過去の街には知らない人がいて、そこに僕がいないことは当たり前だけど、よくよく考えたら不思議なことだ。

 

自分がいまいる場所も、かつて誰かがいた場所だった。そんな人生の不思議に思いを馳せたくなる小説だった。

 

 

新しい国民の休日を作るなら何にしよう?

新しい祝日を作るなら何にしよう?

news.livedoor.com

12月23日が休みでなくなるみたいだ。12月と言えばクリスマスよりも天皇誕生日の方がメインみたいなところがあるから(そんなことはない)、非常に残念だ。ああ、休みが欲しい。まだ学生だけどそう思う。自分で祝日を作りたい!とふと思ったから、ちょっと妄想してみる。自分で祝日を作るならいつがいいだろう。

 

案1 雨の日

その名も雨の日。名前から連想されるように6月の祝日だ。6月には祝日がないので1日ぐらい祝日がほしいところ。

 

案2 大正の日

明治天皇の誕生日は文化の日昭和天皇の誕生日は昭和の日となっているが、大正天皇の誕生日8/31は祝日になっていない。まあ、休みになっても8/31は微妙な日だな。学生なら、夏休みが終わった直後ぐらいだし。

 

案3 ハロウィン

最近定番行事として定着してきた感があるハロウィン。夜中にどんちゃん騒ぎをするのでいっそのこと祝日にしてしまえば。

 

案4 節分

日本の伝統行事で祝日じゃないのがあった。節分だ。最近恵方巻問題で話題になっているタイムリーな日。みんな会社を休んでLet’s豆まき。

 

案5 クリスマス

年間行事の一つとして完全に定着しているので、祝日にしてもいいんじゃないかな。休みにしたら、経済効果が大きそうだと思っている。宗教的な理由で無理かもしれないけど。

 

案6 シン・体育の日

シンゴジラみたいなノリだけれど、2020年の東京オリンピックの開会式の日を新しい祝日にするのはどうだろう?体育の日も元々は東京オリンピックの開幕した日だったから。

 

案7 自由の日

祝日自体を自由にするという斜め上の発想。国民一人ひとりが自由に設定できる休日。有休みたいなものだな。個人的にはこれが一番うれしい。

 

 

ただただ新しい祝日を妄想しただけの記事。ああ、休みがほしい。

乃木坂46・齋藤飛鳥が文学女子すぎる件

乃木坂46に理想の文学女子がいた

大学生になったら、美しい文学女子とお近づきになりたい...これは全国の文学男子なら一度は思い描く妄想だろう。何を隠そう僕もその文学男子の一人なのである。僕は安部公房を嗜む文学女子を探していた。安部公房の作品をめぐる教養溢れる会話、知的な古本屋デート、僕はまだ見ぬ文学女子に期待を抱いていた。しかし、そんな理想の文学女子は大学には存在しなかった。

「今の大学生は本をあんまり読まない。もっと本好きが集まる場所に行こう」と僕はかなり大規模な書店でアルバイトを始めた。「こんなに大きな書店なら安部公房を嗜む文学女子とお近づきになれる」そんな確信を感じてアルバイトに励んだのだが、いっこうに文学女子が現れる気配がない。バイト先の可愛い同期に好きな作家は何と聞いたら、「私、本読まないの」と言った。絶望だった。

もう何処に行っても文学女子には出会えないのではないか。ましてや、安部公房が好きな文学女子は絶滅危惧種か、あるはすでに死に絶えてしまったのかもしれない。文学女子なんて小説の紙面上にしか存在しないのではないかと考えていた矢先、ついに出会ってしまった、文学女子に。しかも安部公房を嗜む文学女子に。実際に会ったわけではないけど。そう、その文学女子が乃木坂46・齋藤飛鳥だった。

 

 

齋藤飛鳥の読む本が渋すぎて乃木坂にはまる僕。

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きっかけは乃木坂46に、安部公房が好きなメンバーいるというネットの記事を見たことだ。アイドル系に疎い僕は乃木坂のことがよく分かっていなかった。「齋藤飛鳥ってどんな人だろ」と調べてみると、とにかく読む本が渋い。好きな作家は貫井徳郎と安部公房。もうこれだけで好感度が5万ぐらい上がっている。しかも『砂の女』が好きときている。さらに好感度が5000億上乗せである。安部公房が好きな女子って存在するんだと、文学女子への希望を諦めていた僕はちょっと感動してしまった。しかも、凄く凄く可愛いし、顔がとにかく小さい。これこそ理想の文学女子。森見登美彦風に言えば黒髪の乙女。

 

読み終わった後にモヤモヤしたりとか、結末に納得いかない感じの作品がすごい好きなんです。だって、現実ってスッキリすることがあんまりないなと思っているから(笑)。

 

インタビューのこの感じといい、ダークなところもすごく良いので好感度がさらに5兆アップである。

興味が湧いたのでどんな本を読むのか調べてみたら、なかなか文学寄りの本を読んでいてさらに好感度が100万ほど上がった。

僕が調べたところによると、遠藤周作にカフカ、ゴーゴリ、舞城王太郎、大江健三郎が好きらしい。なかなか通好みの作家だ。セブンルールという密着番組で齋藤飛鳥のテンションが一番上ったのは『石川淳・安部公房・大江健三郎集』をもらった時だったというエピソードもある。安部公房と大江健三郎はかなり渋い。身近に安部公房と大江健三郎を読む女子がいたら確実に惚れてしまう。

日本の作家でいうと戦後の20世紀辺りに活躍した作家が好きなのかな。後藤明生とかの内向の世代の本とかも読んだらはまりそうな感じがする。倉橋由美子とかは、安部公房や大江健三郎が好きな人なら絶対ハマると思う。なので当ブログでは齋藤飛鳥さんに倉橋由美子を勝手にオススメしていきたい。

 

 

写真集のタイトルが『潮騒』

齋藤飛鳥ファースト写真集 潮騒

齋藤飛鳥ファースト写真集 潮騒

 

  写真集も出ていることを知って、早速アマゾンで調べてみたら、写真集のタイトルに驚愕した。

 

『潮騒』!潮騒!!

 

文学好きならもちろん分かるであろう三島由紀夫の代表作だ。これは購入不可避。

 

うーん、つけた理由とかは私はわからないんですよ、まったく。全然関係ないと思うんですけど、三島由紀夫さんの「潮騒」という小説が好きです。タイトルをファンの方が握手会で「潮騒(しおさい)って読めない。どう読むの」と言われて。日本が心配です。 

 うん毒舌だ。

【あしゅ無双】乃木坂46齋藤飛鳥、ファンが『潮騒』読めず「日本の将来が心配です」

 

インタビューによると三島由紀夫の潮騒も読んでいるようだ。文豪の守備範囲が広い。あと毒舌なところもいい。というわけですっかり齋藤飛鳥のファンになってしまいました。これからの齋藤飛鳥さんの読書遍歴が気になるところ。応援しています!

 


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ウディ・アレン監督『Wonder Wheel』の公開が待ち遠しい

ウディ・アレン監督の新作『Wonder Wheel』

natalie.mu

『カフェ・ソサエティ』に続くウディ・アレン監督の『Wonder Wheel』が楽しみだ。ストーリーは1950年代のコニーアイランドを舞台に繰り広げられる人間ドラマであるらしい。一年に一回のペースでウディ・アレン監督の新作を観るのが慣習になってきてる。過去の作品も大体観てしまったし、はやく新作が観たい。アメリカでは2017年12月1日に公開しているので、日本でも来年中には公開されるだろうな。ここ最近春ぐらいにウディ・アレン監督作品が公開されているので(カフェ・ソサエティ、教授のおかしな妄想殺人)、来年も春先に公開されるのだろうか。予告編を観て待機!(英語は分からないけれど)。

 

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ゲスの極み男のモラトリアム / 『個人教授』 佐藤 正午

 佐藤正午作品の中でNo1のダメ男 f:id:plutocharon:20171224025533j:image

桜の花が咲くころ、新聞記者を休職中のぼくは一つ年上の女とある酒場で再会し、一夜をともにする。そして、数ヵ月後、酒場に再びぼくが訪れた時に聞いた噂は、二十八歳の彼女は妊娠しているというものだった。しかも彼女は行方不明。父親はぼくなのか?ならばなぜ彼女は妊娠していることをぼくに知らせないのか?教授、魅力的な夫人、十七歳の少女、風変わりな探偵。悲しみも夢も希望もある人々とめぐり会いながら、彼は彼女の行方を追う―。

いつの時代にも女にだらしないダメ男はいる。太宰治の小説にもよく出てくる。というよりも太宰治自身もそんな感じだが。女をとっかえひっかえして、挙句の果てに妊娠させてしまう。そんなダメ男が『個人教授』の主人公・松井英彦だ。佐藤正午の小説の中でもNo1のダメ男だと思う。松井英彦はとにかく女にだらしなく、色んな女性と関係を持ち、ついには妊娠させてしまう(しかも2人も!)。しかも清々しいまでに自己中心的な男で責任も取らず、休職して仕事もせず夜な夜な飲み歩いている。まさにゲスの極み。タイトルが『個人教授』となっているように、ダメ男松井英彦の師匠である「教授」という人物も出てくるのだが、こちらもダメ男である。この「教授」なる人物は定職につかず、夜な夜な飲み歩いている。「教授」と呼ばれているが、実際は教授ではなく、松井英彦が一方的に慕っていて「教授」と呼んでいるのである。この主人公・松井英彦と「教授」の一方的な師弟関係は夏目漱石の『こころ』の「私」と「先生」の関係を彷彿とさせる。

 

ダメ男のモラトリアム

そんな札付きのダメ男・松井英彦は新聞記者を休職して無為に過ごしている。松井は佐藤正午の小説にありがちな自己中心的な人物として描かれている。松井のモラトリアム生活に花を添えているのは「教授」と「夫人」と謎の探偵だ。「教授」は前述のとおりダメ男である。だけれど「教授」の講義は何故か魅力的である。酒場でする他愛もない話がユーモアにあふれ輝いている。やっぱり佐藤正午の小説の会話は洒脱でいつまでも読んでいたい。「個人教授」という同じタイトルの映画のように、松井は年上の人妻「夫人」に恋をしている。松井と「夫人」は契約をかわして関係を持つようになった。いわゆる男娼というものだが、松井は真剣に恋に落ちている。松井を調査しているときに本人に気づかれた探偵も良い味を出している。尾行中に西瓜を買っているというのがまず面白い。こんな風に個性豊かな登場人物が物語に花を添えている。

 

 

松井の前から人が次々と去っていく

夫人、宮口みちよ、西沢ふみこ、教授。松井の前から次々に人が去っていく。恋人関係にあった宮口は子どもを生まないことに決め、一夜だけの関係の西沢は子どもを生むことを決意する。 もはや二人とも松井を必要とはしていないのだ。夫人も松井との関係をきれいさっぱり清算する。松井だけが新たな一歩を踏み出せていないように思える。だけど、最後の最後で仕事に復帰することになり、新たな一歩を踏み出すことを余儀なくされる。夫人や教授がいない街で松井はどのように生きていくのであろうか?

 

 

行方不明者というモチーフ

ジャンプ (光文社文庫)

ジャンプ (光文社文庫)

 

 この小説のメインストーリーは妊娠して行方が分からなくなった女の行方を主人公が追うというものだ。その女性探しが主人公の自分探しに通じてくる。松井と関係を持ち、子どもを身ごもった女たちはそれぞれ考え、自分の意志で生き方を決めていく。ある人は子どもをあきらめ、一方は子どもを産み自分で育てていくときめた。この小説で出てくる男たちはほとんどダメ男だけれど、女性たちはみんな芯が強い。行方不明というモチーフや、女性の意志や決断といい、この『個人教授』には『ジャンプ』に通じるものが多く感じられた。

 

 主人公がゲスすぎて感情移入しにくいので一般受けはしなさそうだけど、個人的には好きな青春小説だ。この小説は第二回山本周五郎賞の候補になっていて、吉本ばななの『TSUGUMI』と競って惜しくも受賞を逃している。村上春樹の初期作品が好きな人ならきっとハマると思う。

 

個人教授 (角川文庫)

個人教授 (角川文庫)

 

 

 

最近、佐藤正午が気になる

最近、直木賞を取った佐藤正午

 

月の満ち欠け 第157回直木賞受賞

月の満ち欠け 第157回直木賞受賞

 

 最近、『月の満ち欠け』で直木賞を受賞して、注目を集めている佐藤正午。僕も以前から名前を聞いたことがあったけど、実際に読んだことはなかった。この機会に『ジャンプ』を読んでみたけれど、凄く面白かった。派手さはないけれど、洒脱な会話や凝った構成に惹かれた。『Y』も読んでみたけれど、これも良かった。村上春樹伊坂幸太郎が好きな人ははまると思う。次は『小説の読み書き』の中で紹介されていた『取り扱い注意』と、最近新装版がでた『夏の情婦』を読んでみたい。

恋する男子はみんな阿呆 /『恋文の技術』 森見 登美彦

 拝啓 未だ見ぬあなたへ

恋文の技術 (ポプラ文庫)

恋文の技術 (ポプラ文庫)

 

 

四畳半に燻り、単位を湯水のように落とす腐れ大学生にとってバイブルとも言える森見登美彦の小説。そんな森見登美彦の小説の中でも爆笑必死なのが『恋文の技術』。タイトルからは想像できないが、本当に面白い。『恋文の技術』みたいに笑いすぎて腹が痛くなった小説はない。好きな人との外堀を埋めるだけのヘタレ大学生が主人公。色んな人に手紙を送るのだけど、好きな人への恋文はかけないでいる主人公。
 
森見さんらしい阿呆な大学院生が色々な人と文通を繰り広げる。森見登美彦独特の文体に、溢れんばかりのユーモアが相まって、腹が痛くなるほど笑ってしまう。
 
何と言っても失敗書簡集が面白い!恋をした男子がどんどん努力する方向を間違えるのが堪らない。恋をした男子はみんな阿呆ですよ。でも最後にはしんみりして、不覚にも少し感動してしまった。この恋文の技術のようにたわいもない文通こそ美しい。読み終わると誰かと文通がしたくなる。