日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

かつて誰かがいた場所に自分はいる / 『その街の今は』 柴崎 友香

かつて誰かがいた場所に、私はいる

 

アパートで独り暮らしをしているとふと思うことがある。いま僕が住んでいる部屋にはどんなひとがすんでいたのだろう?当たり前のことだけど、僕たちはかつて誰かが生きた場所に生きている。このような過ぎ去った時間の積み重なりを描く小説家と言えば柴崎友香だ。柴崎友香は『春の庭』で芥川賞を受賞している作家で、場所に積み重なった時間をテーマにした小説を書いている。芥川賞を取った『春の庭』、三島由紀夫賞候補の『わたしがいなかった街で』など。今回紹介したいのは『その街の今は』という小説だ。この小説では、たくさんの人々が住んでいた昔の大阪の街に思いが馳せられる。主人公が大阪の街であるような小説だ。心斎橋など実際の地名が出てきて、大阪に住んでいると楽しみが増す。今僕がいる街は、過去誰かがいた街であって、いろんな過去が積み重なった上に今の僕、街があるんだろうなと思う。小説の中の雰囲気はとてもゆったりとしていて、いつまでもそのなかにいたくなる。過去の街には知らない人がいて、そこに僕がいないことは当たり前だけど、よくよく考えたら不思議なことだ。

 

自分がいまいる場所も、かつて誰かがいた場所だった。そんな人生の不思議に思いを馳せたくなる小説だった。