日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

ピアスやタトゥを通じて描かれる、生きることの痛み / 『蛇にピアス』 金原 ひとみ

 

蛇のように舌を二つに割るスプリットタンに魅せられたルイは舌ピアスを入れ身体改造にのめり込む。恋人アマとサディスティックな刺青師シバさんとの間で揺れる心はやがて…。第27回すばる文学賞、第130回芥川賞W受賞作。

 歳をとらないと深く理解できない小説があるように、歳をとってしまうと深く理解できない小説があると思う。金原ひとみの『蛇にピアス』は後者に属する小説だと思っている。『蛇にピアス』はスプリットタンや舌ピアス、タトゥなどの身体改造を通じて、生きていることの痛みや切実さを描いている。僕は10代の時にこの小説を読んだが、この時期に読むことができて本当に良かったと思う。今読み返しても、10代の時ほど生きることの痛みの切実さが感じられないんじゃないかかなと思っている。『蛇にピアス』はすばる文学賞を受賞した金原ひとみのデビュー作であるが、本作で芥川賞も受賞している。この時は金原ひとみと綿矢りさという若手女性作家が同時受賞ということもあって、芥川賞の歴史の中でもかなり話題になった回だ。

 

 

スプリットタン・ピアス・タトゥという身体改造

『蛇にピアス』でモチーフとして扱われているのは、タイトルにある様にピアスやスプリットタン、タトゥといった身体改造だ。主人公のルイは、アマと同棲しながらも、サディストの彫り師シバとも関係を持っている。アマは舌にピアスを入れており、舌先が二つに別れたスプリットタンになっている。ルイはアマのスプリットタンに影響を受けて、自らも舌にピアスを入れ、タトゥを彫り、どんどんと「身体改造」にはまっていく。痛みを通じてしか生きることの実感を得られないアマの痛みと快楽、愛と絶望が描かれている。

 アマやルイ、シバたちは、ピアス・タトゥーといった身体改造を通じて、アンダーグラウンドで生きるということを身に深く刻み込む。身体性や痛みを通じてでしか、生の実感をえられず、死や暴力的なものを渇望する。『蛇にピアス』は、若さ特有の毒で溢れている。頭で考えながら読む小説というよりかは、考えずに身体で感じる小説だ。

 

 

 吉高由里子主演で映画化もしている

蛇にピアス

蛇にピアス

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 『蛇にピアス』は蜷川幸雄監督によって映画化されている。主人公のルイを演じているのは吉高由里子だ。アマ役は高良健吾となかなか豪華だ。