日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

佐藤正午のデビュー作 / 『永遠の1/2』 佐藤 正午

佐藤正午のデビュー作

 どんな小説家にも、一つだけ、アマチュアとして書いた小説があると佐藤正午はいう。その小説が人目に触れ、本になるとデビュー作と呼ばれ、書いた人は小説家と呼ばれるようになる。佐藤正午がアマチュアとして書いたのがデビュー作『永遠の1/2』だ。佐藤正午は『永遠の1/2』で第七回すばる文学賞を受賞し、プロの小説家となった。そして、『ジャンプ』や『Y』、『鳩の撃退法』などの名作を生み出し、『月の満ち欠け』で直木賞を受賞するに至った。長崎から出ることなく、小説を書き続けている。(直木賞の授賞式にも来なかった)僕は大学生になってから佐藤正午にはまり、著作を読みふけった。軽妙でユーモアあふれる文体、洒脱な会話文、ダメ男の恋愛模様、一捻りされた構成、どれをとっても面白かったし、中毒性があった。佐藤正午の原点である『永遠の1/2』にもこの面白さがあった。

 

 

自分に似ている人を探すという自分探しの物語

 

『永遠の1/2』は自分にそっくりな人が西海市にいることが分かり、その人物を探す物語だ。自分に似ている人を探すことを通じた自分探しの物語の趣がある。

 

失業した田村は、失業したとたん運に恵まれる。婚約相手との関係を年末のたった二時間で清算できたし、趣味の競輪は負け知らずで懐の心配もない。おまけに、色白で脚の長い女をモノにしたのだから、ついてるとしか言いようがない。二十七歳の年が明け、田村宏の生活はツキを頼りに何もかもうまくいくかに思われた。ところがその頃から街でたびたび人違いに遭い、厄介な男にからまれ、ついには不可解な事件に巻き込まれてしまう。自分と瓜二つの男がこの街にいる―。現代作家の中でも群を抜く小説の名手、佐藤正午の不朽のデビュー作。

 

ウディ・アレン監督の映画のように、会話の冗談を楽しむところがある。

 

 

自分に似ている人を探すという自分探しの物語

 『永遠の1/2』を読んでいると、佐藤正午の小説は「自分探しの物語」が多いことにあらためて気づかされる。『永遠の1/2』『ジャンプ』は失踪したガールフレンドを探す物語になっている。『個人教授』も妊娠したガールフレンドを探す物語だし、『夏の情婦』に収録されている「傘を探す」も亡くした傘を探す物語だ。

 

 

 

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