日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

ウディ・アレン版「罪と罰」 / 『教授のおかしな妄想殺人』 ウディ・アレン

Irrational Man

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教授のおかしな妄想殺人!?正直に言うと、初めてみたとき、おかしなタイトルだなと思った。原題はIrrational Manで、日本語にすると『不合理な人』といった感じになるだろうか。ウディ・アレンの映画には原題と違った邦題が付けられることが多い(『地球は女で回っている』、『タロットカード殺人事件』、『僕のニューヨークライフ』とか)。邦題も邦題で良いなと思うことも多いけど、このタイトルはイマイチかなと思う。

『マジックインムーンライト』に続いてエマ・ストーンがヒロインを演じている。『教授のおかしな妄想殺人』というタイトルからはあらすじを想像しにくいけれど、ざっくり言うとこんな感じだ。アメリカ東部の大学で哲学を教えるエイブ教授は、人生に意味を見出せず、哲学的な悩みに陥る。そんな中、エイブは学生のジルと恋に落ちる。そしてある考えに憑りつかれ、人生の意義を見つけていくのだった。エイブを絶望から救ったものとはいったい?こんな感じで、死に憑りつかれた教授と学生の恋がストーリーの中心になる。女の人は影のある男の人に弱いものなのだろうかと思ってみたり。以下内容に触れるので注意を。

 

妄想殺人とは...

教授のおかしな妄想殺人って言うタイトルだから、犯罪に手を染めるのではなく、あれこれ考えるだけなのかと思っていた...実際に人殺してるやん!まるで『罪と罰』のような展開になってくる。エイブの実存的な悩みを解決したのは、恋人ではなく、殺人だったのである。教授に全く罪悪感がないどころか、殺人して元気になっているのは笑ってしまう。

 

ウディ・アレン版の「罪と罰」

 『教授のおかしな妄想殺人』のベースになっているのは、ドストエフスキーの『罪と罰』だろう。『罪と罰』をザックリ説明すると、正義を成すための殺人は許されるのだろうかという話である。『罪と罰』の主人公のラスコーリニコフは独自の犯罪理論に基づき、狡猾な老婆殺しを肯定する。現代的にいえば、犯罪のない世界を実現するためにデスノートで殺人を行う夜神月みたいな感じだ。

エイブも、悪人を殺したことは善行だと、自らの殺人を正当化するのである。ただ『罪と罰』のラスコーリニコフのように殺人を犯したことで苦悩することはなく、エイブは殺人の罪悪感に悩まされることもなく、むしろ生き生きと過ごすようになる。こころへんがコメディというか、この吹っ切れた感じに笑ってしまった。人生は思った以上に喜劇なのかもしれない。うん。シニカルな感じといい、ウディ・アレン好きな人は楽しめると思うけれど、それ以外の人は楽しみずらいかな。

 

教授のおかしな妄想殺人(字幕版)

教授のおかしな妄想殺人(字幕版)

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