日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

謎が解決しない?謎解きを宙吊りにする謎解きミステリまとめ

ミステリあるいは探偵小説では、謎が提示され探偵がそれを解決するという枠組みを持つ。大体の推理小説はこのような枠組みを持つことは納得してもらえると思う。謎がそのまま放置されたら気持ち悪いだろう。

だが、小説の中にはこの探偵小説の枠組みを崩し、謎が解かれずに宙吊りになる探偵小説がある。謎を宙吊りにする探偵小説という変わった枠組みは純文学、エンタメを問わず使われているのだ。謎を宙吊りにするミステリは、アラン・ロブ=グリエから始まり、安部公房、ポール・オースターと受け継がれている。

謎が謎を呼ぶ不思議な探偵小説について紹介したい。

 

 

 

 消しゴム

 『消しゴム』は、ヌーヴォー・ロマンを代表する作家アラン・ロブグリエの作品だ。ヌーヴォー・ロマンとは、1950年代のフランスで盛り上がった、前衛・実験文学の潮流だ。戦後のフランスでは、これまでの小説の根幹を覆すような小説が次々と発表されていた。その小説群は前衛的で実験的な内容から「ヌーヴォー・ロマン(新しい小説)」と呼ばれるようになった。ヌーヴォー・ロマンを代表する作家としては、アラン・ロブ=グリエ、ミシェル・ビュートル、クロード・シモン、ナタリー・サロートなどが挙げられる。ヌーヴォー・ロマンの作家たちが追い求めたのは、文章の魅力やストーリーの面白さではなく、小説の可能性だ。二人称などの人称の実験(『心変わり』)、プロットの一貫性や心理描写の欠落、意識の流れの叙述、客観的な描写の徹底など、ヌーヴォー・ロマンでは様々な実験が試みられた。

『消しゴム』では、謎が宙吊りにされて「宿命的結末」を招いてしまう様子が描かれている。殺人事件発生の報せを受けてやってきた捜査官ヴァラスだったが、肝心の遺体も犯人も見当たらない。オイディプス王のように、宿命的としか言いようがない結末を招くのだ。

この謎解きを宙吊りにするミステリという枠組みは、安部公房やポール・オースターに受け継がれる。

 

 

燃え尽きた地図 

安部公房の『燃えつきた地図』も謎を宙吊りにする謎解きミステリだ。失踪した男の調査を依頼された興信所員は、追跡を始めるのだが、どんどん謎が深まっていき自分を見失ってしまう。追う者が追われる者になるといったメビウスの輪の構造を持った小説だ。

 

 

ガラスの街

ガラスの街 (新潮文庫)

ガラスの街 (新潮文庫)

 

 『消しゴム』の構造は、アメリカだとポール・オースターに受け継がれた。ポール・オースターはニューヨーク三部作と呼ばれる3つの探偵小説を発表している。その一作目が『ガラスの街』だ。一見すると探偵小説の枠組みを用いているが、謎は一向に解決しないし、理不尽な方向にストーリーは進んでいく。

 

 

幽霊たち

ニューヨーク三部作の二作目が『幽霊たち』だ。 ブラック、ホワイトなど登場人物の名前が色の名前になっているのが特徴だ。私立探偵ブルーはホワイトから奇妙な依頼を受ける。その依頼は、ブラックという男を見張るというものだった。ブルーはブラックを見張り続けるが何も起こらない。その見張りの中で、ブルーは自分を見失っていく。

 

 

 鍵のかかった部屋

 ニューヨーク三部作の3作目が『鍵のかかった部屋』だ。『鍵のかかった部屋』では、失踪した友人を追ううちに自己を見失っていく「僕」が描かれている。