日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

地方都市の若者の苦悩をポップに描く!山内マリコのおすすめ小説5選

地方都市の閉塞感や空気感を描かせたら山内マリコの右に出るものはいないだろう。

昔は尖っていたけど歳を重ねて丸くなったマイルドヤンキーや、画一化された国道沿いの風景など山内マリコが描く地方都市の風景は、地方都市に住んだことがある人なら「分かる」と共感すること間違いなし。山内マリコ作品を読んでいて、寂れた商店街の描写があったときは地元のことを思い出してしまった。

山内マリコの十八番とも言えるのが、地方都市に住む女性の鬱屈を描くことだ。閉鎖的な地方で、ここでないどこかを夢見る女性の描写が本当に上手い。同じような経験がある人なら、小説が心にぶっ刺さり過ぎてダメージをくらうかもしれない。男性よりも女性からの人気が高いような印象がある。

地方都市の閉塞感をテーマにした小説が多かったのだが、最近では地方都市の再生をテーマにした『メガネと放蕩娘』や、東京の上流階級の閉塞性を描いた『あの子は貴族』のように、作風が広がっている。

またポップカルチャーも散りばめられていて、おしゃれな表現が多いのも特徴だ。

そんな山内マリコのオススメ小説を5つ紹介したい。

 

 

 ここは退屈迎えに来て

 『ここは退屈迎えに来て』は女による女のためのR-18文学賞・読物賞を受賞した「16歳はセックスの齢」を含む連作短編集だ。山内マリコのデビュー作である。

デビュー作には作家の特徴がよく表れているというが、地方女子の鬱屈を描くスタイルはデビュー時から確立されている。

ある地方都市を舞台にした群像劇のスタイルになっている。中心人物として学生時代はスポーツ万能で憧れの的だった「椎名くん」が登場するのだけれど、ごくごく平凡な男性になっている。こういう地方都市あるあるが散りばめられていて、共感が止まらない。

この小説のテーマはタイトルに象徴されている。ここは退屈迎えに来て。閉塞感に満ちた退屈な地方都市で、ここではないどこかを夢想する女性の鬱屈した内面を描いている。閉塞感あふれる地方都市で生きることに焦燥感を抱く様子はリアリティがあって、胸が締め付けられる。学生時代を思い出して「あの頃は良かった」と思う人や、ここではないどこかに憧れている人が読むと心にぶっ刺さって重傷になること間違いなし。

 

 

 アズミ・ハルコは行方不明

アズミ・ハルコは行方不明』も地方都市に住む人々の鬱屈や閉塞感を描いた小説だ。可能性が閉ざされつつある若者の焦燥感など、同じ状況にある人ならすごく身に染みる内容だ。固有名詞がポンポン投入されていて、若者が共感できるポップな文体になっているのが特徴。ここではないどこかへ行きたいと思っている人がこの小説を読むと、深く心をえぐられるだろう。

物語はアズミ・ハルコの失踪によって大きく動く。第一部ではアズミ・ハルコは登場せず、愛菜・ユキオ・学の三人を主人公にして話が進んでいる。三人は同級生で、ひょんなことから再開する。

3人はそれぞれに自意識過剰であったり、自分の可能性が閉ざされてしまうような閉塞感に悩んだりしている。まさに現代の若者の見本市。特に愛菜はメンへラというほどでもないけれど、恋愛体質で恋人に依存してしまう女子で、こんな女子いるよねってなる。

ユキオと学はグラフィックアートで人生の閉塞感を打ち破ろうとする。そのグラフィックアートの題材となったのが失踪したアズミ・ハルコだ。

地方都市の閉塞感に悩んでいる人が読むと、絶望の淵に叩き落とされそうな内容でもある。

 

 

あの子は貴族

東京生まれの華子は、箱入り娘として何不自由なく育てられたが、20代後半で恋人に振られ、初めて人生の岐路に立たされてしまう。名門女子校の同級生が次々に結婚するなか、焦ってお見合いを重ねた末に、ハンサムな弁護士「青木幸一郎」と出会う。
一方、東京で働く美紀は地方生まれの上京組。猛勉強の末に慶應大学に入るも金欠で中退し、一時は夜の世界も経験した。32歳で恋人ナシ、腐れ縁の「幸一郎」とのダラダラした関係に悩み中。境遇が全く違って出会うはずのなかったふたりの女。同じ男をきっかけに彼女たちが巡り合うとき、それぞれ思いもよらない世界が拓けて――。

あの子は貴族』は、地方女子の葛藤を描きながらも、東京の上流階級の女性を描いた山内マリコの作風の広がりを感じるような小説だ。地方生まれの美紀と東京の上流階級の華子、交わることがなさそうな2人の人生が1人の男をきっかけに交錯する。

地方都市で鬱屈する女子は山内マリコの十八番芸だが、東京の上流階級の女性を描いているのは新境地じゃないかな。敷かれたレールを歩くだけだった華子が自立する成長譚であるがそれだけではない。地方都市と東京の上流階級は全く違うようでいて、実は似ているということを教えてくれる。どこがどう似ているかは読んで確かめてみて。 

 

 

パリ行ったことないの

パリに行けば、自分が見つかるの? 私は何がしたいの? 私は何ができるの? とまどいながらも自分の人生を見つめ、前に歩んでいこうとする10人の女性の物語。

地方都市に生きる女性を描くことが多い山内マリコだが、『パリ行ったことないの』は幅広い女性を主人公に据えた短編集だ。地方都市が舞台というわけではないが、山内マリコが得意とする「ここではないどこか」に憧れる女性を描いている。「ここではないどこか」として登場するのが、花の都・パリ。

失恋したばかりのアラサー女性や周りに馴染めない女子高生、結婚35年目の主婦など11人の迷える女子たちが、憧れの地・パリをきっかけに自分の道を見つけ歩んでいく。等身大の女性たちが苦悩しもがく姿に共感することな違いなし。何か新しいことをしたいとき、不安を抱えている時に後押ししてくれるような一冊だ。

 

 

かわいい結婚 

「かわいい結婚」…「結婚ってなんなんだ?」という疑問から生まれた作品。結婚して仕事をやめ、専業主婦になった29歳のひかり。しかし、家事能力はゼロ。当然、部屋は散らかり放題。もちろん食事も作れない。夫とは仲良しだけど、こんなに家事が延々と続くなんて……。 騙された!わたし騙された!騙されてた! 結婚生活のリアルをコミカル&ブラックに描く。ほか「悪夢じゃなかった?」「お嬢さんたち気をつけて」二篇収録。

結婚をテーマにした3つの中編を収録しているのが『かわいい結婚』。男女の感覚の違いを突きつけられるような小説だ。結婚生活のリアルをコミカルかつブラックに描いている。男女がわかり合うというのは大変だなと考えさせられる。