最近、ホラー小説が熱い。『近畿地方のある場所について』などモキュメンタリーホラー小説がブレイクしたことから人気が高まっているように思う。
最近、ホラー小説ランキング、「このホラーがすごい!2025年版」が発表された。
今年も多くのホラー小説が登場し、ホラーファンにとっては見逃せないランキングとなっている。
この記事では「このホラーがすごい!2025年版国内ベスト10」に入ったホラー小説を紹介したい。
「このホラーがすごい!」とは?
「このホラーがすごい!」は、宝島社が最近発行し始めたホラー小説のランキング本である。「このミステリーがすごい!」のホラー版だ。国内・海外のホラー小説を対象に、識者や書店員などの投票によってランキングが決定される。
単なるランキング本ではなく、著者へのインタビューやホラーに関する特集記事なども充実しており、ホラーファン必携の一冊となっている。
「このホラーがすごい!」のランキングは一年間のホラーを振り返る上で非常に参考になる。ランキング上位の作品はどれも魅力的なホラー小説ばかりだ。
ちなみに2024年の「このホラーがすごい!」1位は小田雅久仁の『禍』と背筋の『近畿地方のある場所について』だった。
このホラーがすごい!2025年版国内ベスト10
それでは「このホラーがすごい!」の2025年版国内ベスト10に輝いた作品を紹介したい。
1位:深淵のテレパス / 上條 一輝
「変な怪談を聞きに行きませんか?」会社の部下に誘われた大学のオカルト研究会のイベントで、とある怪談を聞いた日を境に高山カレンの日常は怪現象に蝕まれることとなる。暗闇から響く湿り気のある異音、ドブ川のような異臭、足跡の形をした汚水――あの時聞いた”変な怪談”をなぞるかのような現象に追い詰められたカレンは、藁にもすがる思いで「あしや超常現象調査」の二人組に助けを求めるが……選考委員絶賛、創元ホラー長編賞受賞作。
2025年の「このホラーがすごい!」国内1位に輝いたのは上條一輝のデビュー作『深淵のテレパス』だ。
本作の受賞は単なる1位ではない。第1回創元ホラー長編賞、読者投票企画「ベストホラー2024」国内部門第1位、そして今回の『このホラーがすごい!』第1位という「三冠」を達成した、まさに怪物的な作品なのだ。
物語は、ある怪談を聞かされた日から怪奇現象に悩まされる女性からの依頼を受け、「あしや超常現象調査」の二人組が調査に乗り出す、というストーリーである。しかし、その魅力は単なるプロットに留まらない。
サバサバとした行動派の女性所長・晴子と、少し気弱だがいざという時に発想力を見せる部下の越野というバディの魅力は、多くのレビューで絶賛されている。
序盤はモダンホラーの雰囲気を醸し出しつつ、調査が進むにつれてミステリーとしての謎解き要素が強まり、終盤は息もつかせぬ冒険活劇へと展開する。ホラーの緊張感とミステリーの知的満足感を両立させた構成が、幅広い読者層の心を掴んだ。
そして第三に、超常現象に対する現代的なアプローチが挙げられる。調査チームは怪異を前にしても安易にオカルト一辺倒になるのではなく、人為的な可能性や合理的な解釈を最後まで捨てない。この科学的な視点が、最終的に対峙することになる「本物」の怪異の存在感を、より一層際立たせている。
新人離れした完成度で、ホラーエンターテインメントの一つの到達点を示した作品だ。
2位:さかさ星 / 貴志 祐介
戦国時代から続く名家・福森家の屋敷で起きた一家惨殺事件。死体はいずれも人間離れした凄惨な手口で破壊されており、屋敷には何かの儀式を行ったかのような痕跡が残されていた。福森家と親戚関係の中村亮太は、ある理由から霊能者の賀茂禮子と共に屋敷を訪れ、事件の調査を行うことになる。賀茂によれば、福森家が収集した名宝・名品の数々が実は恐るべき呪物であり、そのいずれか一つが事件を引き起こしたという。賀茂の話を信じきれない亮太だったが、呪物が巻き起こす超常的な事象を目にしたことで危機を感じ始める。さらに一家の生き残りの子供たちにも呪いの魔の手が……。一家を襲った真の呪物は? そして誰が何のために呪物を仕掛けたのか?
貴志祐介の長編ホラー小説『さかさ星』は、戦国時代から続く旧家・福森家を舞台にした壮大な物語である。一家惨殺事件を発端に、主人公・中村亮太が祖母の依頼で屋敷を訪れるところから物語は展開する。遺体は人間離れした手口で破壊されており、事件の背後に潜む「呪物」の存在が明らかになる。数百年にわたり続く「呪い」の恐怖と、それを仕掛けた者の目的が徐々に解き明かされる過程は圧巻である。怪談とミステリーの要素が巧みに絡み合い、読者を最後まで引き込む。貴志祐介ならではの緻密な描写と緊張感が光る一冊だ。
3位:骨を喰む真珠 / 北沢 陶
大正十四年、大阪。病弱だが勝ち気な女性記者・苑子は、担当する身上相談欄への奇妙な投書を受け取る。大手製薬会社・丹邨製薬の社長令息からの手紙であり、不審を覚えた苑子は、身分を偽り丹邨家に潜入することに。調査を進めるうち、その異様さが明らかになっていく。苑子を苦しめていた咳をただちに止める、真珠のような丸薬。一家の不可解な振る舞い。丸薬を怪しんだ苑子は、薬の成分分析を漢方医に頼む。返ってきた結果には、漢方医も知らない「骨」が含まれていた――。
北沢陶の『骨を喰む真珠』は、大正十四年の大阪を舞台にしたホラーミステリーである。病弱ながらも勝ち気な女性記者・苑子が、奇妙な投書をきっかけに大手製薬会社の社長一家に隠された秘密を探る物語だ。人魚の骨が特効薬として利用されるという伝説を背景に、恐怖と悲哀が交錯する展開が魅力的である。横溝正史ミステリ&ホラー大賞三冠作家の筆致が冴え渡り、ゴシックな雰囲気と緻密なプロットが読者を惹きつける。美しくもおぞましい世界観が広がる一作だ。
4位:口に関するアンケート / 背筋
2025年版『このホラーがすごい』では、映画『近畿地方のある場所について』の公開を記念し、原作者である背筋氏が大々的に特集されている。その著者が放つ新作短編が『口に関するアンケート』だ。わずか60ページほどの作品でありながら、肝試しに参加した若者たちの恐怖体験をインタビュー形式で描き、緻密に構築された物語世界で読者を引き込む。徐々に高まっていく不穏な空気と、最後のアンケートによって驚きの展開をみせ、読者を突き放す構成は見事の一言に尽きる。モキュメンタリー(疑似ドキュメンタリー)の手法を得意とする著者ならではの、現実と虚構の境界を曖昧にする恐怖が凝縮されている。
5位:宵闇色の水瓶 怪奇幻想短編集 / 井上 雅彦
2020年に再開された《異形コレクション》(光文社)で、注目されている作家・アンソロジスト、井上雅彦の個人アンソロジー。現在では入手困難な媒体に発表されたものを中心に、書き下ろし1篇を加えた全13篇を収録。それぞれの作品には、手法と意図を分析した「作者のコメンタリー」を掲載。そこからは、著者の「短篇論」「ホラー論」も浮かびあがる。
井上雅彦の『宵闇色の水瓶 怪奇幻想短編集』は、耽美で妖しい闇に満ちた幻想怪奇の短編集である。《異形コレクション》で知られる著者が、実験的なアプローチで描いた物語が詰まっている。特に「私設博物館資料目録」など、心霊や怪異をテーマにした作品が印象的で、読者を異世界へと誘う。現在では入手困難な媒体に発表された作品を中心に構成されており、井上雅彦の独自の感性が存分に発揮された一冊である。幻想文学ファン必読の短編集だ。
6位:右園死児報告 / 真島 文吉
右園死児案件が引き起こした現象の非公式調査報告書である。明治二十五年から続く政府、軍、捜査機関、探偵、一般人による非公式調査報告体系。右園死児という名の人物あるいは動物、無機物が規格外の現象の発端となることから、その原理の解明と対策を目的に発足した。
真島文吉の『右園死児報告』は、明治二十五年から続く「右園死児」にまつわる災害の非公式調査報告書という体裁を取ったホラー作品である。「右園死児」という名前が付けられた人物や物体が災害を引き起こすという設定が斬新で、報告書形式で語られる物語がリアリティを増幅させる。SNSで話題を呼び、発売直後に重版がかかるなど注目を集めた。断片的な報告を読み進めることで、右園死児の正体に迫る構成が読者を引き込む。モキュメンタリー風の語り口が新鮮な一作だ。
モキュメンタリーホラーとは、ドキュメンタリーの体裁をとることで、虚構の出来事をあたかも現実に起きたことのように見せかけ、読者の日常と恐怖を地続きにする手法である。近年、インターネットカルチャーとの親和性の高さから大きな注目を集めており、本作がその潮流を代表する作品として高く評価されている。現実の記録とフィクションが交錯する中で生まれる、新しい形のリアリティと恐怖を追求した作品である。
6位:斬首の森 / 澤村 伊智
鬱蒼と暗い森の中に建つ合宿所。ある団体の“レクチャー”を受け洗脳されかけていたわたしは、火事により脱出する。男女五人で町へ逃げだそうとするが、不可解な森の中で迷ってしまう。翌朝、五人のうちのひとりの切断された頭部が発見される。頭部は、奇怪な装飾を施された古木の根元に、供物のように置かれていてーー
「このホラーがすごい!」第6位は澤村伊智の『斬首の森』だ。クローズドサークル・ミステリーとホラーの要素を融合させた長編小説である。
物語は、暴力的なセミナーを行うカルト的企業から脱走した男女グループが、謎めいた「斬首の森」に迷い込むところから始まる。仲間が一人、また一人と首のない死体で発見される中、彼らは犯人が内部にいる裏切り者なのか、それとも森に潜む人ならざる「何か」なのかという疑心暗鬼に苛まれていく。
本作の巧みさは、ミステリーとホラーの境界線を巧みに行き来する点にある。論理的な犯人探しの緊張感と、理解不能な怪異に遭遇する恐怖感が並行して描かれ、読者は常に張り詰めた感覚を強いられる。そして物語の終盤、全ての謎が解き明かされる場面で、真相は読者の想像を絶する方向へと飛躍する。それは論理的でありながら、同時に人間の理性を超えた悍ましいものであり、レビューでは「ホラーのほうへウルトラC着地をしてる」と評されている。ミステリーとしての納得感と、ホラーとしての根源的な恐怖を見事に両立させた傑作である。
8位:バラバラ屋敷の怪談 / 大島 清昭
大島清昭の『バラバラ屋敷の怪談』は、八人の女性が殺害され解体された猟奇殺人事件を題材にしたホラーミステリーである。事件の舞台となった「バラバラ屋敷」を訪れた中学生たちが体験する怪異を描きつつ、過去と現在が交錯する物語が展開する。怪談作家・呻木叫子を語り手とした連作短編集であり、各話が独立しながらも全体として一つの物語を形成している。恐怖と謎が絡み合う展開が読者を魅了する一冊だ。
9位:頭の大きな毛のないコウモリ 澤村伊智異形短編集 / 澤村 伊智
第9位に輝いた澤村伊智の『頭の大きな毛のないコウモリ 澤村伊智異形短編集』は、その名の通り「異形」をテーマにした8編からなる短編集だ。ゾンビ、吸血鬼、都市伝説といった古典的なモチーフを扱いながらも、そこに澤村ならではの現代的な批評性と心理描写を加え、全く新しい恐怖の形を表現している。
例えば、表題作は保育園の連絡帳という日常的なツールを用いて、母親の精神が徐々に崩壊していく様を描き出す。また、『ゾンビと間違える』では、社会的弱者を殺害しても「ゾンビと間違えた」と言えば許されるディストピア的な世界を舞台に、人間の倫理観を鋭く問う。
そして最も印象的なのが、巻末に収録された『自作解説』である。これは一見すると著者自身による作品解説だが、読み進めるうちにその内容が異様なものへと変貌していくメタフィクションであり、読者は作者と作品、現実と虚構の境界線を見失うことになる。多様な手法で「恐怖」の本質に迫る、著者の技巧が凝縮された一冊だ。
9位:撮ってはいけない家 / 矢樹 純
映像制作会社でディレクターとして働く杉田佑季は、上司であるプロデューサーの小隈好生から、ホラーモキュメンタリ―の企画を担当するように頼まれる。だが、実際にドラマの制作が始まると、子どもの神隠しが発生し……。
矢樹純の『撮ってはいけない家』は、ホラーモキュメンタリードラマのロケ中に起きる怪異を描いた長編ホラーである。山梨の旧家を舞台に、映像制作会社のスタッフたちが次々と怪異に巻き込まれる。家にまつわる呪いと現実の出来事が交錯し、伏線が巧みに回収される展開が見どころだ。蔵の二階に隠された秘密や、家族の因縁が物語に深みを与えている。緊張感あふれる描写と巧妙なプロットが光る、ホラー好き必見の一作である。
まとめ
「このホラーがすごい!2025」国内編ベスト10には、個性豊かな作品が揃ったなと思う。
今年のランキングの特徴としては、やっぱりモキュメンタリーホラー小説が大人気だなと。背筋の『近畿地方のある場所について』がヒットした影響か、最近モキュメンタリーホラー小説をよく見かける気がする。
このランキングを参考にホラー小説を読んでみるのはどうだろう。










