近年、ミステリー界で注目を集めている若手作家が阿津川辰海だ。
緻密な論理と大胆なトリックで読者を魅了する阿津川辰海の作品の中でも、特に人気が高いのが「館四重奏」シリーズと呼ばれる極限状況における館ミステリだ。
そんな阿津川辰海の館四重奏シリーズについてこの記事では解説したい。
阿津川辰海ってどんな作家?
阿津川辰海は、2017年に新人発掘プロジェクト「KAPPA-TWO」で作家デビューした。古典ミステリーへの深い造詣を持ち、緻密な論理構成と大胆なトリック、そして特殊設定を巧みに用いた作品が多いのが特徴だ。
代表作といえば、『名探偵は嘘をつかない』や『星詠師の記憶』、『透明人間は密室に潜む』などがある。
館四重奏シリーズとは?
そんな阿津川辰海が講談社タイガから刊行している長編ミステリ小説シリーズが、「館四重奏」シリーズだ。現在は『紅蓮館の殺人』『蒼海館の殺人』『黄土館の殺人』の3作品が刊行されている。このシリーズの特徴だが、火災や水害、土砂崩れなど自然災害が起こった中での殺人事件を描いている点だ。
各作品は独立した物語として楽しめるが、シリーズを通して探偵役の葛城輝義と助手役の田所信哉の成長が描かれている点も魅力の一つだ。阿津川辰海作品の特徴である、緻密な論理と大胆なトリックは、このシリーズでも健在だ。
最後に阿津川辰海のコメントを引用する。
treeコラム内で言及しましたが、『紅蓮館の殺人』『蒼海館の殺人』ときた本連作は、あと二作で"地水火風"を揃え、〈館四重奏〉と銘打つことを計画中です。英国作家アン・クリーヴスが地水火風のモチーフになぞらえた〈新・シェトランド四重奏〉にあやかっての命名。残るは地震と風。どうなる葛城!
紅蓮館の殺人
全焼まで、残り35時間。館に山火事迫る!殺人の真相を解き明かし、絡繰だらけの館から脱出せよ。
高校の勉強合宿を抜け出した田所信哉と葛城輝義は、憧れのミステリー作家・財田雄山の住む「落日館」を訪れる。しかし、道中で落雷による山火事に遭遇し、館に避難することに。翌朝、館の住人である財田つばさが吊り天井で圧死体となって発見される。葛城は山火事の脅威が迫る中、事件の真相を解き明かそうとする。山火事の中、殺人犯は巧妙なトリックを用いて犯行に及ぶ。葛城は、限られた時間の中、推理を駆使して犯人を追い詰める。
蒼海館の殺人
館が沈めば、探偵も、犯人も、全員死ぬ。濁流押し寄せる館の連続殺人。雨が止むころ、僕らは生きているのか。
「紅蓮館の殺人」事件の後、心に傷を負い不登校になった葛城を心配した田所は、友人の三谷緑郎と共に葛城の実家である「蒼海館」を訪れる。葛城家は、政治家、大学教授、弁護士、モデルといった名士揃い。台風が接近し、豪雨の中、館に閉じ込められた一同を連続殺人が襲う。犯人は、水害を利用した巧妙なトリックで、連続殺人を企てる。
黄土館の殺人
土壁の向こうで連続殺人が起きている。名探偵(ぼく)は、そこにいない。孤立した館を連続殺人が襲う。生き残れ、推理せよ。
大学生になった田所信哉は、葛城輝義、三谷緑郎と共に、世界的芸術家・土塔雷蔵の住む「荒土館」を訪れる。しかし、到着早々、地震による土砂崩れが発生し、葛城と他のメンバーは分断されてしまう。孤立した館の中で、連続殺人が発生。田所は葛城不在の中、事件の真相に挑む。葛城不在の中、田所は、持ち前の観察眼と推理力で、事件の真相に迫っていく。
まとめ
阿津川辰海の「館四重奏」シリーズは、本格ミステリとしての面白さと青春小説としての魅力を兼ね備えた、読み応えのある作品群だ。個性的な館を舞台に、緻密な論理と大胆なトリックで展開される事件、そして探偵と助手の成長は、読者を飽きさせない。
全体を通して、シリーズを読み進めるごとに、葛城と田所の成長、変化が顕著に表れていると感じた。特に、田所は葛城という天才的な探偵を間近で見て、自身も探偵としての能力を伸ばしていく。最終的には、葛城に匹敵するほどの推理力を身につけるのではないかと期待を抱かせる。
また、各作品で「地水火」と自然災害がテーマとなっており、残る「風」をテーマとした作品がどのような結末を迎えるのか楽しみである。未読の方は、ぜひこの機会に手に取ってみてはいかがだろうか。



