日々の栞

生活にカルチャーを。本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

2025年本屋大賞ノミネート作品を紹介する!

今年も本屋大賞のノミネート作品が発表される季節となった。

2024年の話題作を中心に10作品がノミネートされた。

 

この記事では2025年本屋大賞ノミネート作品を紹介する。

 

 

本屋大賞とは?

本屋大賞は、書店員が「いちばん売りたい本」「いちばん読んでほしい本」を投票によって決める文学賞だ。書店員が「面白い!」と心底思った本を広げたいという気持ちから2004年に創設された。対象作品は過去一年間に日本国内で刊行された書籍だ。

毎年多くの書店員が参加し、全国の書店から推薦された作品の中からノミネート作品が選ばれる。2025年で本屋大賞は第22回目を迎えた。

本屋大賞を受賞した作品は映像化されることが多く、文学賞の中でも注目度の高い賞だ。最近だと『成瀬は天下を取りにいく』が本屋大賞を受賞している。

 

 

2025年本屋大賞にノミネートされた作品

それでは2025年本屋大賞にノミネートされた作品を紹介したい。

 

アルプス席の母 / 早見和真

秋山菜々子は、神奈川で看護師をしながら一人息子の航太郎を育てていた。湘南のシニアリーグで活躍する航太郎には関東一円からスカウトが来ていたが、選び取ったのはとある大阪の新興校だった。声のかからなかった甲子園常連校を倒すことを夢見て。息子とともに、菜々子もまた大阪に拠点を移すことを決意する。不慣れな土地での暮らし、厳しい父母会の掟、激痩せしていく息子。果たしてふたりの夢は叶うのか!?

アルプス席の母』は、シングルマザーの秋山菜々子とその息子・航太郎の成長を描いた高校野球小説である。菜々子は配偶者を亡くし、神奈川で看護師として働きながら、息子の夢を支えるために奮闘する。航太郎は野球特待生として大阪の新興校に入学し、母は彼の成長を見守るために大阪に移り住む決意をする。物語は、親子が共に夢を追いかけ、困難を乗り越えて成長していく姿を描いている。全国の母親たちから寄せられた応援メッセージが示すように、母の強い想いが作品の核となっている。感動的なストーリーは、多くの読者の心をつかむだろう。

本作は、高校球児の母親の視点から描かれる、親子の絆と成長の物語だ。 従来の高校野球小説とは異なり、母親の視点から描かれることで、選手たちの成長だけでなく、それを支える母親の葛藤や喜びが鮮やかに浮かび上がる。厳しい環境の中でも、夢に向かって努力する息子を支える母親の姿は感動的である。 また、作品全体を通して、高校野球という世界における、親子、監督、そして選手たちの複雑な人間関係がリアルに描かれている。

 

 

カフネ / 阿部 暁子

カフネ

カフネ

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法務局に勤める野宮薫子は、溺愛していた弟が急死して悲嘆にくれていた。弟が遺した遺言書から弟の元恋人・小野寺せつなに会い、やがて彼女が勤める家事代行サービス会社「カフネ」の活動を手伝うことに。弟を亡くした薫子と弟の元恋人せつな。食べることを通じて、二人の距離は次第に縮まっていく。

カフネ』は、阿部暁子の小説である。主人公の野宮薫子は法務局に勤める41歳の女性で、弟の急死に深い悲しみを抱えている。彼女は弟が遺した遺言書を手がかりに、弟の元恋人である小野寺せつなと出会う。せつなは家事代行サービス「カフネ」に勤めており、料理の腕前が光る人物である。物語は、薫子とせつなが食を通じて心の距離を縮めていく様子を描いている。

この作品は、食と人生の関係を丁寧に探求し、読者に「何を食べるべきか」を問いかける。薫子の選択やせつなとの交流を通じて、現代社会における生活の「管理」や強迫観念からの解放をテーマにしている。読者は、登場人物たちの成長を見守りながら、自らの生き方を見つめ直す機会を得ることができる。『カフネ』は、心に響く深いメッセージを持った秀逸な作品である。

 

 

禁忌の子 / 山口 未桜

禁忌の子

禁忌の子

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救急医・武田の元に搬送されてきた、一体の溺死体。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、なんと武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか、そして自身との関係は何なのか、武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。しかし鍵を握る人物に会おうとした矢先、相手が密室内で死体となって発見されてしまう。自らのルーツを辿った先にある、思いもよらぬ真相とは――。過去と現在が交錯する、医療×本格ミステリ!

山口未桜の『禁忌の子』は、医療×本格ミステリだ。週刊文春ミステリーベスト10の3位にも選出された話題作だ。医療ミステリという枠組みの中で、生命倫理、親子関係、そして人間の業といった深淵なテーマが描かれている。 衝撃的な展開と緻密な謎解きが、読者を物語の世界に引き込む。 また、不妊治療や生殖医療といった現代社会の課題を提起し、読者に倫理的な問題について深く考えさせる作品である。

救急医の武田航のもとに、自分と瓜二つの溺死体が運び込まれる。身元不明のその遺体「キュウキュウ十二」の謎を追う中で、武田は自らの出生の秘密、そして生殖医療の闇に迫っていく。 武田は、中学時代の同級生で医師の城崎と共に調査を進め、ある産婦人科医に辿り着く。しかし、面会直前にその産婦人科医が死亡してしまう。 鍵を握る生島リブロクリニックで、武田と城崎は何を目撃するのか。

 

 

恋とか愛とかやさしさなら / 一穂 ミチ

カメラマンの新夏は啓久と交際5年。東京駅の前でプロポーズしてくれた翌日、啓久が通勤中に女子高生を盗撮したことで、ふたりの関係は一変する。「二度としない」と誓う啓久とやり直せるか、葛藤する新夏。啓久が”出来心”で犯した罪は周囲の人々を巻き込み、思わぬ波紋を巻き起こしていく。信じるとは、許すとは、愛するとは。男と女の欲望のブラックボックスに迫る、著者新境地となる恋愛小説。

恋とか愛とかやさしさなら』は、一穂ミチの恋愛小説である。物語は、カメラマンの新夏が恋人の啓久からプロポーズを受けた翌日、彼が通勤中に女子高生を盗撮したことで一変する。新夏は、啓久の「二度としない」との誓いを信じることができるのか、葛藤を抱えながら彼との関係を再構築しようと奮闘する。

作品は、信じること、許すこと、愛することの難しさを問いかけ、周囲の人々を巻き込む波紋を描く。直木賞受賞後の第一作として、著者は新たな境地に挑んでいる。読者は、登場人物たちの心の葛藤を通じて、現代の恋愛における複雑な感情を深く考えさせられる作品である。「信じる」とはどういうことか、そして「許す」とはどういうことかを問いかける物語だ。 恋人による性犯罪という難しいテーマを扱いながらも、被害者、加害者、そしてその周囲の人々の視点から多角的に心情が描かれている点が特徴である。 

 

 

小説 / 野崎 まど

小説

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五歳で読んだ『走れメロス』をきっかけに、内海集司の人生は小説にささげられることになった。一二歳になると、内海集司は小説の魅力を共有できる生涯の友・外崎真と出会い、二人は小説家が住んでいるというモジャ屋敷に潜り込む。そこでは好きなだけ本を読んでいても怒られることはなく、小説家・髭先生は二人の小説世界をさらに豊かにしていく。しかし、その屋敷にはある秘密があった。

野崎まどの『小説』は、読書の楽しさとその意味を深く問い直す作品である。主人公の内海集司は、幼少期に出会った小説に魅了され、友人の外崎真と共に小説家の住む屋敷に潜り込む。そこで彼らは、無限の物語の世界に没頭し、友情を育むが、その屋敷には隠された秘密が存在する。物語は、単なる読書の楽しみを超え、人生の知識や人間関係が小説を通じて形成される様子を描く。読者は、内海の成長を通じて「小説とは何か?」という問いに向き合うことになる。2025年本屋大賞ノミネート作品としても注目されており、文学の力を再認識させる傑作である。

 

 

死んだ山田と教室 / 金子 玲介

夏休みが終わる直前、山田が死んだ。飲酒運転の車に轢かれたらしい。山田は勉強が出来て、面白くて、誰にでも優しい、二年E組の人気者だった。二学期初日の教室。悲しみに沈むクラスを元気づけようと担任の花浦が席替えを提案したタイミングで教室のスピーカーから山田の声が聞こえてきたーー。教室は騒然となった。山田の魂はどうやらスピーカーに憑依してしまったらしい。〈俺、二年E組が大好きなんで〉。声だけになった山田と、二Eの仲間たちの不思議な日々がはじまったーー。

金子玲介の『死んだ山田と教室』は、メフィスト賞を受賞した一風変わった青春小説である。人気者の男子高校生・山田が交通事故で亡くなった後、教室のスピーカーに憑依し声だけでクラスメイトたちと過ごすという独特の設定が非常に面白い。山田の死に沈む教室で、彼の声が響くことで生徒たちは再び笑顔を取り戻すが、同時に彼らの成長と忘却の悲しみが描かれる。物語は、友情や青春の葛藤を通じて、死後も続く人間関係の複雑さを浮き彫りにする。

死という重いテーマを扱いながらも、ユーモアと感動を織り交ぜた青春小説だ。 死んでしまった山田と、残されたクラスメイトたちの心の交流が、読者の心を揺さぶる。 男子高校生の日常がリアルに描かれており、ノスタルジックな気持ちになれる作品である。

 

 

spring. / 恩田 陸

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自らの名に無数の季節を抱く無二の舞踊家にして振付家の萬春(よろず・はる)。 少年は八歳でバレエに出会い、十五歳で海を渡った。 同時代に巡り合う、踊る者 作る者 見る者 奏でる者―― それぞれの情熱がぶつかりあい、交錯する中で彼の肖像が浮かび上がっていく。 彼は求める。舞台の神を。憎しみと錯覚するほどに。 一人の天才をめぐる傑作長編小説。

恩田陸の『spring.』は、8歳でバレエに出会い、15歳で海外に渡る天才ダンサー・萬春の成長を描いた作品である。構想に10年を費やした本作は、彼の人生の四つの「春」を、友人や家族、仕事仲間の視点から多角的に描写している。各章は、春の才能や努力、周囲の期待と葛藤を繊細に表現し、読者に深い感動を与える。バレエという舞台芸術を通じて、天才とは何か、才能を持つことの意味を考えさせられる作品であり、舞踊の美しさと生命力が溢れる物語である。バレエ初心者にもその魅力を伝える内容となっている。

 

 

生殖記 / 朝井 リョウ

生殖記

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とある家電メーカー総務部勤務の尚成は、同僚と二個体で新宿の量販店に来ています。体組成計を買うため――ではなく、寿命を効率よく消費するために。この本は、そんなヒトのオス個体に宿る◯◯目線の、おそらく誰も読んだことのない文字列の集積です。

朝井リョウの『生殖記』は、同性愛者の会社員・尚成を主人公にした衝撃的な小説である。語り手は尚成の生殖本能であり、彼の視点から現代社会の価値観や生きる意味を問い直す。尚成は、異性愛者が主流の社会で自身のアイデンティティを隠しながら生きており、彼の内面の葛藤がユーモアを交えて描かれている。物語は、彼が「しっくり」こない世界の中で幸福を求める姿を通じて、多様性や生殖に関する深い考察を提供する。『生殖記』は、現代の生きづらさを浮き彫りにし、読者に新たな視点を与える作品である。

 

 

成瀬は信じた道をいく / 宮島 未奈

成瀬の人生は、今日も誰かと交差する。「ゼゼカラ」ファンの小学生、娘の受験を見守る父、近所のクレーマー主婦、観光大使になるべく育った女子大生……。個性豊かな面々が新たに成瀬あかり史に名を刻む中、幼馴染の島崎が故郷へ帰ると、成瀬が書置きを残して失踪しており……!? 読み応え、ますますパワーアップの全5篇!

成瀬は信じた道をいく』は、宮島未奈による成瀬シリーズの第二弾である。物語は滋賀県大津市を舞台に、中学二年生から高校三年生へと成長する主人公・成瀬あかりの姿を描く。高校3年生になった彼女は、相変わらず全力で我が道を突き進む。地元愛が強く、将来の夢は「二百歳まで生きること」。そんな成瀬の人生は、今日も誰かと交差する。本作では、小学生の「ゼゼカラ」ファンや、娘の受験を見守る父親、近所のクレーマー主婦など、様々な人物の視点から成瀬の日常が描かれる。成瀬あかりは独特の発想と行動力を持ち、周囲の人々に影響を与えながら、自らの道を信じて突き進む。物語には、成瀬の幼馴染や新たな友人たちが登場し、彼女との関わりを通じてそれぞれの人生が動き出す様子が描かれる。成瀬の自由な生き方は、読者に勇気と希望を与え、共感を呼ぶ。全五篇からなる連作短編集であり、成瀬の魅力が存分に発揮されている作品である。

 

 

人魚が逃げた / 青山 美智子

ある3月の週末、SNS上で「人魚が逃げた」という言葉がトレンド入りした。どうやら「王子」と名乗る謎の青年が銀座の街をさまよい歩き、「僕の人魚が、いなくなってしまって……逃げたんだ。この場所に」と語っているらしい。彼の不可解な言動に、人々はだんだん興味を持ち始め――。

人魚が逃げた』は、ファンタジー要素のある青山美智子による小説だ。物語は、ある3月の週末にSNSで「人魚が逃げた」という言葉がトレンド入りするところから始まる。銀座の街をさまよう「王子」と名乗る青年が、「僕の人魚がいなくなってしまった」と語り、周囲の人々の興味を引く。

この騒動の裏では、5人の男女がそれぞれの人生の節目を迎えている。12歳年上の女性と交際中の元タレント、娘と買い物中の主婦、妻に離婚されたコレクター、文学賞の選考結果を待つ作家、高級クラブで働くホステスが登場する。彼らの運命が交錯し、果たして「王子」は人魚と再会できるのか、また人魚は本当に存在するのかが物語の鍵となる。幸福度最高値の傑作小説であり、読者を引き込む魅力に満ちている。

 

 

まとめ

本屋大賞発表は2025年4月9日(水)の予定だ。今年の大賞はどの作品が受賞するか気になるところ。個人的には地雷グリコが受賞して欲しかったのだが、出版日がギリギリ前回の本屋大賞だったのでノミネートされなかった…個人的には『死んだ山田と教室』を推したい。

 

 

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