佐藤正午が名作古典を読みなおす
小説を読むことは、小説を書くことに繋がる。小説を読む中で、読者はそれぞれの解釈を行い、そのつど新たな解釈が生まれてくる。文字通り、読者の数だけ解釈がある。
この『小説の読み書き』では、佐藤正午の目線から名作古典を読みなおし、小説家視点からの小説の書き方を考えていく。読みなおす小説は夏目漱石『こころ』や川端康成『雪国』、太宰治『人間失格』、谷崎潤一郎『痴人の愛』といった有名どころの小説から、横光利一『機械』や永井荷風『つゆのあとさき』といった有名ではないが文学好きなら知っているマイナーな小説までと様々だ。それぞれの小説の文体を中心に読み解いていく。
永井荷風『つゆのあとさき』では、文章の冒頭の「女給の」という言葉に拘って評していく。夏目漱石『こころ』では夏目漱石の文体はお手本のようだと評している。
佐藤正午ファンなら特に読んで欲しいのが、森鴎外の『雁』の部分だ。森鴎外の『雁』は、乱暴にいうと「鯖の味噌煮」が原因で男女が離れ離れになってしまうという小説だ。偶然にも何かが原因になって男女がバラバラになるという点に着想を受けて、佐藤正午の名作「ジャンプ」が生まれたようだ。こんな裏話も読めるのがこの本の良いところだ。
最後には自らの小説『取扱い注意』を一読者として読み解いている。
佐藤正午の名作古典の読みなおしを通じて、小説家と一緒に小説を読み書きしているような気持になる。ここはこういうふうに読むんだ、こんなに細かいところまで気にしているんだ、こういうふうに小説を捉えているのかと目から鱗だった。神は細部に宿るとよく言うけれど、この本を通じて小説の細部へのこだわり方が見えてきたような気がした。