日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

第165回芥川龍之介賞の候補作まとめと受賞作の予想

第165回芥川龍之介賞の候補作が発表された!

 

7月と言えばそう、芥川賞発表の季節ですね。

今回の候補作品は偶然か必然か東日本大震災をテーマにした作品が多くノミネートされている。様々な視点から震災を振り返った作品だ。

候補者を見てみると、今回初めて芥川賞にノミネートされたのが石沢麻衣、くどうれいん、高瀬隼子の三名。2回目のノミネートが千葉雅也、李琴峰の2名。候補者のうち4名が女性というのはなかなか珍しいのではないかと思う。

また、今回は芥川賞発表前に候補作がすべて単行本化されている。芥川賞発表前になると、候補作が載った文芸誌が入手しずらくなるので、今回は全部読み比べて受賞者予想もしやすいのでは。

 

今回は芥川賞候補にノミネートされた小説と作家についてざっくり紹介したいと思います。

 

 

 

 

石沢麻依「貝に続く場所にて」(『群像』6月号掲載)

 2021年に『貝に続く場所にて』で第64回群像新人文学賞を受賞をしデビュー。そして、そのデビュー作で芥川賞候補に。まさに、ダークホース。この作品は新人のデビュー作とは思えないぐらい完成度が高い。何年に一回出会えるか分からないレベルで、完成度がずば抜けた小説だ。

コロナ禍が影を落とすドイツの街・ゲッティンゲンに、9年前の東北の光景が重なり合う。ゲッティンゲンにくらす「私」の元に、東日本大震災で行方不明になったはずの友人の幽霊が現れる。あの日から流れた月日を確かめるように言葉を紡いでいく。やがて小説内の時は進行をやめ、読者を時間の停滞の中に引きずり込む。怪作だ。

作品内でも言及があるが、夏目漱石の『夢十夜』をモチーフとしていて、さながら『夢十夜』の続きの第十一夜といった幻想的な趣がある。描写を重ねることによって、時間の進行を遅延させる効果を引き起こし、小説内の時間の流れにリンクする。

芥川賞受賞の大本命だ。

 


くどうれいん「氷柱の声」(群像4月号)

 くどうれいんさんは短歌や俳句、エッセーを中心に活動してきた作家だ。東日本大震災を題材とした『氷柱の声』が初の小説だ。

 

 

千葉雅也「オーバーヒート」(新潮6月号)

 千葉雅也は気鋭の哲学者だ。小説も公表していて「デットライン」で芥川賞候補になり、芥川賞の受賞は逃したものの、第41回野間文芸新人賞を受賞している。

「オーバーヒート」は、「デットライン」の続編で、思弁的な小説になっている。

 

 

高瀬隼子「水たまりで息をする」(すばる3月号)

高瀬隼子は、「犬のかたちをしているもの」で第43回すばる文学賞を受賞しデビュー。「水たまりで息をする」で初の芥川賞候補に。

ある日突然夫が風呂に入らなくなった夫婦の物語だ。

 

 

李琴峰「彼岸花が咲く島」(文學界3月号)

 李琴峰は、「独舞」で第60回群像新人文学賞優秀作を受賞してデビュー。「五つ数えれば三日月が」で、第161回芥川賞候補に。

今回候補となった『彼岸花が咲く島』は、「ニホン語」と「女語(じょご)」という2つの言葉が話されている島の歴史をめぐる小説だ。彼岸花が咲き誇る島に少女が打ち上げられる。少女は記憶をなくしていた。少女の謎と島に隠された秘密が読者を引きつけ、引っ張っていく。

小説の前半では、2つの言語が話される離島の世界観を丁寧に作り上げている。この話は、現実から離れたフィクションだと思いながら読んでいると、後半の展開に度肝を抜かれる。後半では、現実世界に厳しい批評を加えている。

 

 

個人的な芥川賞受賞予想

さて、僕の芥川賞予想だが、石沢麻依『貝に続く場所にて』が受賞すると予想している。W受賞があるとすれば千葉雅也『オーバーヒート』だろうか。

 

李琴峰『彼岸花が咲く島』も素晴らしくて、個人的には好きなのだが政治色が強すぎるのかなとも思ってしまう。

 

芥川賞受賞作が発表されるのは2021年7月14日。いったいどの作品が芥川賞を受賞するのか。