村上春樹の小説には、複数の小説に登場するキャラクターがいる。有名なものをあげれば羊男がいるだろう。それ以外にも、名前がよく出てくるキャラクターがいる。
それが渡辺昇(ワタナベ・ノボル)だ。
パン屋再襲撃に収録される短編に登場する「渡辺昇」たち
『パン屋再襲撃』に収録されている短編に、「渡辺昇(ワタナベ・ノボル)」という人物が頻繁に登場するのだ。同じ名前であるだけで、同一人物(猫)ではないようだ。
「象の消滅」では、動物園から象と一緒にいなくなってしまった飼育員が渡辺昇だった。
『ねじまき鳥クロニクル』の原型でもある「ねじまき鳥と火曜日の女たち」では、猫の名前が「ワタナベ・ノボル」だ。余談だが、村上春樹の小説では猫に変な名前がつきがちである。『羊をめぐる冒険』では、猫にいわしという名前が付けられていた。
「ファミリー・アフェア」では、「僕」の妹の婚約者の名前が渡辺昇だ。主人公の「僕」は、婚約者・渡辺昇のことをいいように思っていなくて、敵対心をむき出す相手として描かれている。
また、『ねじまき鳥クロニクル』では、渡辺昇をより発展させたような存在として綿谷ノボルが登場する。こちらは猫ではなく、人間だ。『ねじまき鳥クロニクル』では、綿谷ノボルは絶対的な悪の象徴のように描かれているのだ。
渡辺昇はイラストレーター・安西水丸の本名?
このように、村上春樹の小説によく登場する渡辺昇だが、何か由来があるのだろうか?先に答えを言ってしまうと、村上春樹と親交のあったイラストレーター安西水丸の本名が渡辺昇なのだ。
村上春樹と安西水丸は親交が深く、共著で『夜のくもざる』というショートショートを出版している。村上春樹のショートショートに、安西水丸のイラストを組み合わせた本だ。
この『夜のくもざる』においても、渡辺昇は登場している。
村上春樹の影響もあってか、安西水丸は小説も書いている。
「アマリリス」という短編を読んでみたが、とても官能的で刺激的な恋愛小説だった。安西さんって、こんな小説を書くんだな。あんまりイメージが湧かなかった。