日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

洋上の激闘!巨大カジキ戦争 / 『老人と海』 ヘミングウェイ

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八十四日間の不漁に見舞われた老漁師は、自らを慕う少年に見送られ、ひとり小舟で海へ出た。やがてその釣綱に、大物の手応えが。見たこともない巨大カジキとの死闘を繰り広げた老人に、海はさらなる試練を課すのだが――。自然の脅威と峻厳さに翻弄されながらも、決して屈することのない人間の精神を円熟の筆で描き切る。著者にノーベル文学賞をもたらした文学的到達点にして、永遠の傑作。

 ヘミングウェイの代表作といえば、『老人と海』だろう。『老人と海』がヘミングウェイの最高傑作かどうかは分からないけど、日本における知名度においては『老人と海』が一番ではないかと思う。

老人と海』のおかげで、ヘミングウェイノーベル文学賞ピューリッツァー賞を受賞した。『老人と海』が描くのは、老人VS巨大カジキの壮絶な戦いだ。それはまさに死闘と言っても過言ではない。老人とカジキが繰り広げる死闘を通じて、人間は自然の力には圧倒されてしまうこと、人間は負けてもまた立ち上がることができることを教えてくれる。

ヘミングウェイといえばハードボイルドな作風だが、『老人と海』もThe 男の戦いを描いた作品だ。一文が短く装飾も少ない歯切れの良い文体で、内面描写が抑えられたハードボイルドになっている。

 

 

老いからは逃れられない

どんな人にだって老いは訪れる。一流のスポーツ選手も、歳を取ると全盛期のパフォーマンスが出せなくなる。漁師のサンチアゴも、老いによる能力のピークアウトに悩んでいた。思う様に魚が取れないのだ。

サンチアゴはかれこれ84日間不漁に見舞われていた。サンチアゴには自らを慕ってくれるマノーリンという少年がいた。マノーリンは、漁を教えてもらったこともありサンチアゴを慕っているのだが、サンチアゴの不漁続きに周りの人からは一緒に漁に出ていくことを止められている。マノーリンがサンチアゴのプライドを気にして話すシーンは心が痛くなる。サンチアゴは、85日目には成果を上げることを決意し、一人でいつもより沖で漁を行うことを決意するのであった。

 

 

洋上での孤独な戦い! 老人VS巨大カジキ

マノーリンに見送られ、漁に向かったサンチアゴ。ここからは孤独な戦いである。沖に出てからは登場人物がサンチアゴだけになり、他は鳥や魚などの動物だけだ。自然の描写とサンチアゴの回想や独り言が続くことになる。サンチアゴは鳥や小魚の動きをみて、巨大な獲物がいることをしる。そして巨大な魚が仕掛けた餌に引っかかる。ここから老人と巨大魚の戦いが始まる。この巨大魚はカジキマグロだったのだが、かなり巨大なサイズだった。

老人vs巨大カジキの戦いは数時間で終わらず日をまたぐことになる。カジキはつり針を離さずに、サンチアゴの船をひたすらに引っ張る。サンチアゴもこの大物を逃さまいと必死に釣り糸を引っ張る。進撃の老人・サンチアゴここからひたすら膠着状態が続く。

この激闘を通じて、サンチアゴは巨大カジキに敵対心だけでなく友情の様な感情を抱く。巨大カジキの激闘ぶりを称えているのだ。サンチアゴは満身創痍になり、途中何度も弟子のマノーリンがいればなぁと思うが、なんとかして巨大カジキを仕留める。約1日に渡る戦いだった。しかし、自然の攻撃の手は緩まるところを知らなかったのである...

 

 

もうやめて、サンチアゴのライフはとっくにゼロよ!

巨大カジキとの死闘を制したサンチアゴ。だが、自然は無慈悲にも攻撃の手を緩めない。自然側のバトルフェイズはまだ終了していなかったのだ。

サンチアゴは捕獲したカジキを船にくくりつけ、町に帰還しようとするのだが、カジキマグロから流れ出る血に引き寄せられたサメが疲労困憊のサンチアゴを襲う。なんとかして残る力を振り絞りサメを追い払うサンチアゴだったが、血によってどんどんサメがおびき寄せられる。最後はサメを追い払う力も残っていない。サンチアゴはなんとかして港に戻るのだが、カジキはサメにほとんど食いちぎられ、頭しか残っていないのであった。ああ、なんて無慈悲な。疲労困憊で港に戻ったサンチアゴを、弟子のマノーリンは暖かく迎えるのであった。

この老人と巨大カジキ・サメとの戦いは実話だそうだ。それをヘミングウェイが小説に昇華したのだ。自然の脅威と峻厳さ、そして決して屈することのない人間の尊厳を描いた名作に。

 

 

人間ってやつ、負けるようにはできちゃいない

老人と海』では、サンチアゴは自然に徹底的に打ちのめされている。それでも、サンチアゴは何度も立ち上がり自然に立ち向かった。「手のひらを釘で板まで打ち貫かれた人間が思わず発する声 」に似ていたという叙述など、サンチアゴの姿がキリストに重なる。ラストシーンの、港に帰り着いたサンチアゴがマストを背負って坂を登る姿は、まさに十字架を背負って坂を登るキリストの姿に近いだろう。自然の前では人間はちっぽけな存在に過ぎない。だが、人間は負けてもまた立ち上がることができる。そんな敗者の戦いを生きるサンチアゴの姿にはじーんとくるものがある。サンチアゴの台詞にこんなものがある

人間ってやつ、負けるようにはできちゃいない

どんなけ打ちのめされても立ち上がることのできる人間の尊厳が描かれている。地震や台風、火山、津波、大雪などありとあらゆる自然の脅威に晒されている日本人にとっては心に響く内容じゃないかなと思う。

 

老人と海(新潮文庫)

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栞の一行

人間ってやつ、負けるようにはできちゃいない

 

 

 

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