毎年恒例のミステリーランキング、「ミステリが読みたい!」の2026年版が発表された。
今年も多くの話題作が登場し、ミステリファンにとっては見逃せないランキングとなっている。
この記事では2026年版の「ミステリが読みたい!」に入ったミステリ小説を紹介したい。
「ミステリが読みたい!」とは?
早川書房の「ミステリが読みたい!」は、毎年年末に発表される日本のミステリー小説ランキングである。このランキングは、読者の投票によって決定され、国内外の優れたミステリー作品を広く紹介することを目的としている。
特に、読者の支持を受けた作品が上位にランクインし、ミステリー愛好者にとってのバイブル的存在となっている。ランキングは、各年のミステリーのトレンドや人気作を反映し、読者に新たな発見を提供する。
ちなみに「ミステリが読みたい!」の2025年版国内ベスト10の1位に輝いたのは青崎有吾の『地雷グリコ』だ。年末に公表されるランキングで4冠を達成した作品だ。
ミステリが読みたい!2026年版国内ベスト10
それでは「ミステリが読みたい!」の2026年版国内ベスト10に輝いた作品を紹介したい。
1位:失われた貌 / 櫻田 智也
山奥で、顔を潰され、歯を抜かれ、手首から先を切り落とされた死体が発見された。不審者の目撃情報があるにもかかわらず、警察の対応が不十分だという投書がなされた直後、上層部がピリピリしている最中の出来事だった。事件報道後、生活安全課に一人の小学生男子が訪れ、死体は「自分のお父さんかもしれない」と言う。彼の父親は十年前に失踪し、失踪宣告を受けていた。間を置かず新たな殺人事件の発生が判明し、それを切っ掛けに最初の死体の身元も判明。それは、男の子の父親ではなかった。顔を潰された死体は前科のある探偵で、依頼人の弱みを握っては脅迫を繰り返し、恨みを買っていた男だった。
1位に輝いたのは、櫻田智也の『失われた貌』だ。櫻田智也は、2025年8月20日に初の長編小説『失われた貌』を発表した作家である。彼は、短編ミステリ『蟬かえる』で日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞を受賞し、注目を集めてきた。『失われた貌』は、彼のキャリアにおける新たな挑戦であり、警察小説という形でハードボイルドな要素を取り入れた作品である。
物語は、山奥で発見された顔のない死体から始まる。この死体は、十年前に失踪した父親の可能性を持つ小学生が登場し、事件は過去と現在が交錯する複雑な展開を見せる。櫻田は、緻密に張り巡らされた伏線と、意外な真相を用意し、読者を引き込む手法を駆使している。彼の作品は、単なる謎解きにとどまらず、人間ドラマや社会の暗部を描く深みを持っている。
『失われた貌』は、櫻田の独自の視点とスタイルが光る作品であり、ミステリーファンにとって見逃せない一冊である。
2位:禁忌の子 / 山口 未桜
救急医・武田の元に搬送されてきた、一体の溺死体。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、なんと武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか、そして自身との関係は何なのか、武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。しかし鍵を握る人物に会おうとした矢先、相手が密室内で死体となって発見されてしまう。自らのルーツを辿った先にある、思いもよらぬ真相とは――。過去と現在が交錯する、医療×本格ミステリ!
山口未桜の『禁忌の子』は医療×本格ミステリだ。医療ミステリという枠組みの中で、生命倫理、親子関係、そして人間の業といった深淵なテーマが描かれている。
救急医の武田航のもとに、自分と瓜二つの溺死体が運び込まれる。身元不明のその遺体「キュウキュウ十二」の謎を追う中で、武田は自らの出生の秘密、そして生殖医療の闇に迫っていく。
3位:名探偵再び / 潮谷 験
私立雷辺(らいへん)女学園に入学した時夜翔(ときやしょう)には、学園の名探偵だった大叔母がいた。数々の難事件を解決し、警察からも助言を求められた存在だったが30年前、学園の悪を裏で操っていた理事長・Mと対決し、ともに雷辺の滝に落ちて亡くなってしまった……。悪意が去ったあとの学園に入学し、このままちやほやされて学園生活を送れると目論んでいた翔の元へ、事件解明の依頼が舞い込んだ。どうやってこのピンチを切り抜けるのか!?
潮谷験の『名探偵再び』は、私立雷辺女学園を舞台にした学園ミステリーである。主人公の時夜翔は、名探偵として名を馳せた大叔母・時夜遊の血を引く高校生である。遊は30年前、学園内で起きた数々の難事件を解決したが、悪の黒幕である理事長Mとの対決の末、滝壺に落ちて命を落としたとされている。翔はその名探偵の子孫として、学園生活を楽しむことを期待して入学するが、次々と事件が舞い込むことになる。
本作では、翔が事件解決に挑む姿が描かれ、彼女の俗物的な性格がユーモアを生む。特に、彼女は名探偵の子孫としての期待に応えようとする一方で、自身の能力を過信し、ズルを使って解決を図る様子が面白い。潮谷は、緻密な伏線とキャラクター配置を駆使し、読者を飽きさせないストーリー展開を実現している。翔の成長と事件の真相が絡み合い、最後には驚きの結末が待ち受けている。『名探偵再び』は、ミステリーの魅力を存分に引き出した作品であり、潮谷験の独自の視点が光る一冊である。
4位:崑崙奴 / 古泉 迦十
大唐帝国の帝都・長安で生ずる、奇怪な連続殺人。屍体は腹を十文字に切り裂かれ、臓腑が抜き去られていた。犯人は屍体の心肝を啖(く)っているのではーー。崑崙奴ーー奴隷でありながら神仙譚の仙者を連想させる異相の童子により、捜査線は何時しか道教思想の深奥へと導かれ、目眩めく夢幻の如き真実が顕現するーー!
古泉迦十『崑崙奴』は、唐代の長安を舞台にしたミステリ小説だ。物語は、連続殺人事件を追う主人公・磨勒と彼の仲間たちの視点から描かれる。事件の被害者は内臓を抜かれた状態で発見され、謎が深まる中、磨勒は崔静の行動に疑問を抱く。彼は崔静の調査を依頼し、事件の真相を探ることになる。
本作の最大の魅力は、磨勒というキャラクターの神秘性にある。彼は崑崙奴としての特異な存在であり、道教思想が色濃く反映されている。物語は、磨勒の超人的な能力と、彼が関わる事件の背後に潜む深い真実を探求する過程を描いている。読者は、彼の行動を通じて、道教の教えや人間の本質について考えさせられる。
5位:目には目を / 新川 帆立
重大な罪を犯して少年院で出会った六人。彼らは更生して社会に戻り、二度と会うことはないはずだった。だが、少年Bが密告をしたことで、娘を殺された遺族が少年Aの居場所を見つけ、殺害に至る――。人懐っこくて少年院での日々を「楽しかった」と語る元少年、幼馴染に「根は優しい」と言われる大男、高IQゆえに生きづらいと語るシステムエンジニア、猟奇殺人犯として日常をアップする動画配信者、高級車を乗り回す元オオカミ少年、少年院で一度も言葉を発しなかった青年。かつての少年六人のうち、誰が被害者で、誰が密告者なのか?
新川帆立の『目には目を』は、少年犯罪をテーマにした衝撃的なミステリーである。物語は、少年院で出会った六人の少年たちが中心となり、彼らの過去とその後の人生を描く。特に、少年Aが出所後に被害者の母親に殺されるという事件が発端となり、密告者である少年Bの存在が物語の鍵を握る。ルポライターである「私」は、少年たちの証言を通じて、彼らの罪と贖罪の物語を掘り下げていく。
本作は、ただのミステリーに留まらず、復讐と贖罪、友情と更生といったテーマを深く掘り下げている。新川は、社会に適応できない人々の心情を描くことで、読者に深い共感を呼び起こす。特に、少年たちのそれぞれの背景や心理描写が巧みに描かれており、彼らの複雑な人間関係が物語に厚みを与えている。
6位:夜と霧の誘拐 / 笠井 潔
1978年の秋、矢吹駆とナディアは“三重密室事件”の記憶を持つダッソー家での晩餐会に招待され、アイヒマン裁判の傍聴記で知られるユダヤ人女性哲学者と議論する。晩餐会の夜、運転手の娘・サラがダッソー家の一人娘・ソフィーと間違えて誘拐される。さらに運搬役に指名されたのはナディアだった。同夜、カトリック系私立校の聖ジュヌヴィエーヴ学院で女性学院長の射殺体が発見された。「誘拐」と「殺人」。混迷する二つの事件を繋ぐ驚愕の真実を矢吹駆が射抜く。
6位に輝いた『夜と霧の誘拐』は、笠井潔による矢吹駆シリーズの最新作であり、1978年の秋を舞台にしたミステリーである。物語は、晩餐会の夜に運転手の娘・サラが資産家ダッソー家の一人娘・ソフィーと間違えて誘拐されるところから始まる。さらに、身代金の運搬役に指名されたのはナディアであり、同じ夜にカトリック系私立校の学院長が射殺されるという二つの事件が同時に発生する。
この作品は、誘拐と殺人という二つの事件がどのように絡み合い、混迷を極めるのかを描いている。矢吹駆は、これらの事件を解決するために、哲学者との議論を通じて真実に迫る。特に、ハンナ・アーレントの思想が作品に影響を与えており、ナショナリズムや政治的暴力についての考察も含まれている。
7位:寿く嫁首 / 三津田 信三
大学生の瞳星愛は、友人の皿来唄子に誘われ、彼女の実家で行われる婚礼に参加することになる。「山神様のお告げ」で決まったというこの婚姻は、「嫁首様」なる皿来家の屋敷神の祟りを避けるため、その結婚相手から儀礼に至るまで、何もかもが風変りな趣向が施されていた。婚礼の夜、花嫁行列に加わった愛は、行列の後ろをついてくる花嫁姿のような怪しい人影を目撃する。そして披露宴を迎えようというその矢先、嫁首様を祀る巨大迷路の如き「迷宮社」の中で、奇怪な死体が発見された――。
三津田信三の『寿ぐ嫁首 怪民研に於ける記録と推理』は、大学生の瞳星愛が友人の婚礼に参加する物語を描いている。この婚礼は「山神様のお告げ」に基づいており、皿来家の屋敷神「嫁首様」の祟りを避けるために特異な儀礼が施されている。
物語は、愛が婚礼の夜に目撃する不気味な人影から始まる。披露宴の準備が進む中、嫁首様を祀る迷宮社で奇怪な死体が発見され、愛は皿来家の分家の四郎と共に事件の謎解きに挑む。三津田の作品は、民俗学的要素と緻密な推理が絡み合い、読者を引き込む力を持っている。
8位:神の光 / 北山 猛邦
一攫千金を夢見て忍び込んだ砂漠の街にある高レートカジノで、見事大金を得たジョージ。誰にも見咎められずにカジノを抜け出し、盗んだバイクで逃げだす。途中、バイクの調子が悪くなり、調整するために寄った小屋で休むが、翌朝外へ出ると、カジノがあった砂漠の街は一夜のうちに跡形もなく消えていた──第76回日本推理作家協会賞短編部門の候補に選ばれた表題作を始め、奇跡の如き消失劇を5編収録。
8位に輝いたのは、北山猛邦の『神の光』だ。北山猛邦の短編集『神の光』は、物理トリックに定評のある著者が描く、幻想的かつミステリアスな世界を堪能できる作品である。本書には、家や街が一瞬で消失するというテーマのもと、五つの短編が収められている。各短編は、異なる時代や場所を舞台にし、消失の謎を解き明かすストーリーが展開される。
例えば、旧レニングラードの屋敷が一夜にして消える話や、1955年のネバダ州のカジノ街が跡形もなく消失する様子が描かれている。また、近未来のカスピ海西岸から平安時代の京都に至るまで、時空を超えた幻想的な旅が楽しめる。
9位:裏路地の二・二六 / 伊吹 亜門
憲兵大尉・浪越破六【なみこし・ばろく】は、この事件には、語られていない「真実」があると確信する。そんな折、浪越は渡辺錠太郎陸軍大将から、密命を受ける。そして運命の日に向けてのカウントダウンが始まった。気鋭のミステリ作家が、2.26事件と同時進行していた「ある事件」を大胆に描き出した本格長編。昭和史を揺るがす重大事件の謎をめぐる圧巻の歴史ミステリ。
伊吹亜門の『裏路地の二・二六』は、昭和10年から11年にかけての歴史的事件「二・二六事件」を背景にした本格ミステリーである。本作は、実際に起きた陸軍省での暗殺事件を基にしつつ、フィクションを巧みに織り交ぜている。物語は、相沢三郎中佐が軍務局長・永田鉄山少将を刺殺する事件から始まり、その背後に潜む謎を追う形で展開する。
伊吹は、歴史的事実を踏まえながらも、登場人物の心理描写や人間関係に深く切り込むことで、読者を引き込む。特に、相沢の狂信的な尊皇主義と純朴な性格が、事件の緊迫感を一層高めている。作品全体を通じて、昭和の時代背景や社会情勢が巧みに描かれ、歴史ミステリーとしての魅力を存分に発揮している。
10位:ブレイクショットの軌跡 / 逢坂 冬馬
自動車期間工の本田昴は、Twitterの140字だけが社会とのつながりだった2年11カ月の寮生活を終えようとしていた。最終日、同僚がSUVブレイクショットのボルトをひとつ車体の内部に落とすのを目撃する。見過ごせば明日からは自由の身だが、さて……。以降、マネーゲームの狂騒、偽装修理に戸惑う板金工、悪徳不動産会社の陥穽、そしてSNSの混沌と「アフリカのホワイトハウス」――移り変わっていくブレイクショットの所有者を通して、現代日本社会の諸相と複雑なドラマが展開されていく。人間の多様性と不可解さをテーマに、8つの物語の「軌跡」を奇跡のような構成力で描き切った、『同志少女よ、敵を撃て』を超える最高傑作。
逢坂冬馬の『ブレイクショットの軌跡』は、自動車工場の期間工である本田昴が、勤務最終日に人気の四輪駆動車「ブレイクショット」のボルトを車体の内部に落とすのを目撃するところから物語が始まる群像劇である。この一台の車を起点に、様々な所有者や関係者の人間ドラマが連鎖的に展開されていく。
本作は、格差社会、LGBTQ、特殊詐欺といった現代社会が抱える多岐にわたる社会問題に鋭く切り込み、時に会議室からアフリカの紛争地帯、詐欺現場、青春の恋模様まで、舞台は広範に及ぶ。非正規雇用やSNS、マネーゲームといった問題がビリヤードのブレイクショットのように広がり、最終的にすべてが繋がる構成は圧巻である。努力が報われない若者たちの姿や、板金職人の父と息子の葛藤など、心揺さぶる人間ドラマが描かれ、圧倒的な構成力と社会への洞察が詰まった、2025年を代表するミステリー作品の一つと言っても過言ではない。
まとめ
「ミステリが読みたい!2026」国内編ベスト10には、個性豊かな作品が揃ったなと思う。本格ミステリから歴史ミステリ、エンターテインメント性の高い作品まで、幅広いジャンルの作品がランクインしている。
このランキングを参考にミステリを読んでみるのはどうだろう。
![ミステリマガジン 2026年 01 月号 [雑誌] ミステリマガジン 2026年 01 月号 [雑誌]](https://m.media-amazon.com/images/I/61-vHtsh7nL._SL500_.jpg)









