日々の栞

生活にカルチャーを。本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

ハムレットのオマージュ?細田守監督の新作『果てしなきスカーレット』とは?


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時をかける少女』や『サマーウォーズ』、『竜とそばかすの姫』など少年少女や家族が困難を乗り越え成長していく姿を描き、日本のみならず世界中の観客を魅了してきたのが細田守監督だ。
2025年に細田守監督の最新作『果てしなきスカーレット』が公開される。公開される待望の最新作『果てしなきスカーレット』は、細田守監督のイメージを根底から覆す、極めて挑戦的な一作となりそうだ。これまでに解禁された情報には、「復讐」「狂気」「死者の国」といった、これまでの細田監督の作風とは対極にあるダークなキーワードが並ぶ。
あらすじを確認してみると、『果てしなきスカーレット』は『ハムレット』のオマージュになっていそうだ。

この記事では、現時点で公開されている情報を集め、『果てしなきスカーレット』がどんな作品になるのか考えていきたいと思う。

 

 

細田守監督の新作『果てしなきスカーレット』とは?


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『果てしなきスカーレット』は、細田監督自身が原作と脚本を手がける完全オリジナルストーリーである。前作『竜とそばかすの姫』から4年ぶりとなる待望の新作だ。そして、制作を担うのは『おおかみこどもの雨と雪』以来、監督とタッグを組んできたスタジオ地図である。

細田守作品といえば、『時をかける少女』や『サマーウォーズ』、『おおかみこどもの雨と雪』、『竜とそばかすの姫』など少年少女の青春や家族を描いてきた。だが、『果てしなきスカーレット』はこれまでの作風とは違った作品になりそうだ。これまでに解禁された情報には、「復讐」「狂気」「死者の国」といった、これまでの細田監督の作風とは対極にあるダークなキーワードが並ぶ。後に書くがハムレットのオマージュになっていることもあり、特に「復讐」がキーワードになりそうだ。細田守監督の新境地といったところだ。脚本も細田守監督が担当しているというのが期待もありつつ不安もあるところだが。

まだ、映像もこれまでとは違ってCGメインになりそうだ。前作『竜とそばかすの姫』でも現実世界(手描き)と仮想世界<U>(CG)で書き分けていたしな。

『果てしなきスカーレット』では、アニメーションを制作する前に声優のセリフを収録する「プレスコアリング(プレスコ)」という手法が全面的に採用されているようだ。プレスコ方式では、声優は絵のタイミングや口の動きといった制約を受けずに、自由な感情表現で芝居に集中できる。アニメーターは、その魂のこもった「声の芝居」に合わせてキャラクターの表情や動きを描き起こしていくため、よりリアルで繊細な感情表現が可能となるみたいだ。

主人公・スカーレットを演じるのは芦田愛菜で、聖(ひじり)を演じるのは岡田将生だ。

映画公開に先駆け、2025年10月24日には、監督自らが書き下ろした原作小説が角川文庫から発売されるようだ。

 

 

『果てしなきスカーレット』のあらすじ

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現時点で明かされている『果てしなきスカーレット』のあらすじを紹介したい。

物語は、衝撃的な出来事から幕を開ける。とある国の王女スカーレットは、敬愛する父であり国王であったアムレットを、叔父のクローディアスによって殺されてしまう 。父の仇を討つべくクローディアスに挑むも、復讐は失敗に終わる。
次に彼女が目を覚ました場所は、常軌を逸した「死者の国」だった。この「死者の国」こそ、本作の主要な舞台となる異世界である。そこは、略奪と暴力がすべてを支配する狂気に満ちた世界。この過酷な世界で存在を維持するためには、二つの絶対的な条件を満たさなければならない。一つは、宿敵への復讐を果たすこと。そしてもう一つは、誰もが夢見るという謎の場所「見果てぬ場所」に辿り着くことだ。
もし、このいずれかの条件も満たせなければ、その者は力や存在意義を失い、やがて存在そのものが消滅してしまう「虚無」という状態に陥る。この残酷なルールが、スカーレットの旅に強烈な切迫感とサスペンスを与えている。
そんな絶望的な状況の中、スカーレットは運命的な出会いを果たす。現代の日本から、なぜかこの「死者の国」に迷い込んできた看護師の青年・「聖(ひじり)」である 。戦うことでしか生きる術を知らないスカーレットと、戦いを望まず、敵味方の区別なく傷ついた者を癒やす聖。価値観が正反対の二人は、時に衝突しながらも、共に旅をすることになる。聖の無償の優しさに触れるうち、復讐心で凍てついていたスカーレットの心には、やがて変化の兆しが見え始めるのだった。

 

 

『果てしなきスカーレット』は『ハムレット』のオマージュ?

『果てしなきスカーレット』は、細田監督のオリジナルストーリーであるのだが、そのプロットには明確なモチーフが存在するのではと思う。そのモチーフは、ウィリアム・シェイクスピアの四大悲劇の一つ『ハムレット』である。『果てしなきスカーレット』と『ハムレット』のオマージュになっているのではないかと思う。

 

簡単にシェイクスピアの『ハムレット』のあらすじを紹介したい。ウィリアム・シェイクスピアの四大悲劇の一つ「ハムレット」は、ハムレットによる復讐劇である。父王の急死後、叔父クローディアスが母ガートルードと再婚し王位に就く。ある夜、父王の亡霊が現れ、クローディアスによる毒殺を告げ、ハムレットは復讐を誓う。彼は狂気を装いながら復讐の機会をうかがうが、その内面の葛藤や逡巡、そして行動は、周囲の人間を巻き込み多くの悲劇を引き起こす。愛するオフィーリアを失い、侍従長ポローニアスを誤殺するなど、次々と犠牲者が出る。最終的に毒剣と毒酒を用いた決闘において、ハムレットは叔父への復讐を果たすが、自身も致命傷を負い命を落とす。


『果てしなきスカーレット』と『ハムレット』にはいくつかの共通点がある。第一に、登場人物の名前だ。殺された父王の名が「アムレット」、そして王位を奪った叔父の名が「クローディアス」。これは『ハムレット』の主人公「ハムレット」と、その叔父「クローディアス(」の名と似ている。
第二に、物語の基本構造が似ている点だ。「叔父が父王を殺し、王位と王妃を奪う。主人公が父の亡霊(本作では『死者の国』という形で具現化)に導かれ、復讐を誓う」というプロットは、『ハムレット』のそれと完全に重なる。ただ、完全にストーリーをなぞると復讐が成功してスカーレットが命を落とすことになるのだが。
そして決定的なのがキャッチコピーだ。ティザービジュアルに刻まれた「生きるべきか。」というキャッチコピーだ。これは、ハムレットの最も有名な独白 "To be, or not to be"(生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ)をもじっているのだろう。
細田監督は、復讐劇の普遍的な原型である『ハムレット』の構造を借りることで、時代を超えた普遍的なテーマを現代の観客に向けて再提示しようとしているのかもしれない。『果てしなきスカーレット』は細田守版ハムレットになるのかもしれない。

 

 

『果てしなきスカーレット』は2025年11月21日に公開


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細田守監督の最新作『果てしなきスカーレット』は、これまでの細田守監督作品とは一風違ったダークなファンタジー映画になりそうだ。
古典悲劇『ハムレット』の普遍的な骨格を持ちながら、現代社会が抱える「復讐の連鎖」という課題に鋭く切り込み、「生きるとは何か」という根源的なテーマを、かつてないスケールで探求する。かなり野心的な物語だな。
復讐に燃える王女が、果てしなき旅路の先に何を見出し、どのような決断を下すのか。その結末をスクリーンで見れることを楽しみにしている。