日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

考察のお供に!夏目漱石『こころ』の解説本・評論を紹介する!

夏目漱石の『こころ』といえば、男女の三角関係を描いた名作小説だ。

高校の国語で扱うことが多いと思うが、『こころ』の解釈は想像以上に多数ある。

そんな時に役に立つのが、研究者や文芸評論家が書いた研究本や解説本だ。数多くある夏目漱石『こころ』の解説本・評論本・研究書の中でおすすめを紹介したい。

 

 

こころ

まずは、夏目漱石の『こころ』の元本だが、数ある文庫本の中でもちくま文庫版をおすすめしたい。『こころ』自体は色々な出版社から文庫本が発売されている。例を挙げてみると、新潮文庫、角川文庫、岩波文庫、文春文庫、集英社文庫、ちくま文庫と合計6つの出版社から文庫本が販売されている。

「内容は『こころ』なんだからどれも同じじゃないのか」と思うかもしれないが、解説の内容に選ぶ余地がある。じゃあ、ちくま文庫版『こころ』の何がいいのかというと、解説として小森陽一の論文「こころ」を生成する「心臓(ハート)」が収録されているからだ。

小森陽一の「こころ」を生成する「心臓(ハート)」というのは、『こころ』の解釈いや文学研究のおける解釈に一石を投じた記念的な論文だ。

実際にこの論文と石原千秋の論文・「「こゝろ」のオイディプス : 反転する語り」が元で「こころ論争」という「こころ」の解釈をめぐる大きな議論が巻き起こった。

では「こころ」を生成する「心臓(ハート)」という論文にはどんなことが書いてあるのだろうか?端的にいうと、「私」は先生の死後お嬢さんと共に生きているという論が提示されている。作者と作品を切り離し文章に基づいて解釈を行う「テクスト論」に基づいた方法で『こころ』を読み解いたのだ。「テクスト論」で有名なのが小森陽一と石原千秋だった。

『こころ』の新しい読み方を提示した論文が一緒に掲載されている点で、ちくま文庫版がおすすめだ。

 

 

夏目漱石「こゝろ」を読み直す / 水川 隆夫

欧化政策、村共同体の崩壊、新しい価値観の波―。現代にも似た転換期の日本、明治後期という時代を、「先生」も「私」も「K」も、それぞれの立場で必死に生きました。その心の揺れ、やむにやまれぬ行為の中にこそ、今をより深く長きるための、思いがけない光が潜んでいます。再読・精読の至福のうちに、どうかそれに出会ってください。漱石の「こゝろ」を、私たちはこれまで、ほんとうに、読んだといえるのだろうか。

夏目漱石「こゝろ」を読み直す」は、これまでのこころ解釈をコンパクトにまとめた新書だ。『こころ』の解釈を深めるためにも読んでおきたい一冊だ。

 

 

夏目漱石『こころ』をどう読むか

永遠の問題作は今いかに読まれうるのか。エッセイ、対談、必読研究論考など、これまでの『こころ』論をベストセレクション。

 

 

『反転する漱石』 / 石原 千秋

『こころ』『三四郎』『坊つちゃん』…。夏目漱石の名作に隠されたコードとは。家、階級、欲望、制度、他者など、多様な視点から解釈を掘り起こす。もはやこの一冊を読まずに漱石論を語ることはできない、必読の名著。

反転する漱石』は、作品から著者を切り離して解釈する「テクスト論」の観点で夏目漱石作品を分析した本だ。著者は「テクスト論」に基づいた読解で有名な石原千秋。夏目漱石研究の第一人者だ。夏目漱石の研究を行うとなれば、避けて通ることができないのが石原千秋の論文や研究だと思っている。

この本には「こころ論争」を引き起こすきっかけとなった「こゝろ」のオイディプス : 反転する語りという論文も収録されている。

現代において賛否は分かれるが、『こころ』を研究していく上では「こゝろ」のオイディプス : 反転する語りという論文は避けて通れないだろう。

 

 

「こころ」で読みなおす漱石文学 大人になれなかった先生 / 石原 千秋

なぜ『こころ』のKと先生は自殺しなくてはならなかったのか?以外なキーパーソンとして浮かび上がる静と青年。漱石を国民的作家にしたのは、「女の謎」の悩み方を教えたことにあった!青年たちが「悩み方の教科書」として読んだ『こころ』を題材に漱石文学を新たな視点からやさしく読み解く、高校生から大人まで、国民作家がぐっと身近になる文学入門。

 

 

なぜ漱石は終わらないのか / 石原 千秋、小森陽一

漱石研究をリードしてきた名コンビが、難解とされる『文学論』を解きほぐすことから始め、『吾輩は猫である』から『明暗』まで14作品を取り上げて、漱石文学の豊潤な可能性を阿吽の呼吸で語りつくす。

 

 

 

 

個人主義の運命 近代小説と社会学 / 作田 啓一

ジラールの欲望の三角形の理論を用いて、『こころ』を読み解いた名著だ。欲望の三角形という言葉をご存知だろうか。 ルネ・ジラールの欲望の三角形とは、自分が何かを欲望するのは、他人がそれを欲望するのをなぞっているからだという説のことだ。

夏目漱石の『こころ』に置き換えて考えてみると、「先生」が「お嬢さん」に恋するのは、「K」が「お嬢さん」に恋していると知り、Kの欲望をなぞったからだと解釈できる。 

 

 

現代文学論争 / 小谷野 敦

かつて「論争」がジャーナリズムの華だった時代があった。本書は、臼井吉見『近代文学論争』の後を受け、70年以降の論争を取り上げ、それらがどう戦われたかを詳説する。

夏目漱石の『こころ』の解釈を巡っては、1980年代に大きな議論が巻き起こった。これが『こころ』論争である。

『こころ』論争とは、小森陽一や石原千秋らのテクスト論派と、三好行雄といった作品論派の間に起きた夏目漱石『こころ』の解釈をめぐる論争のことである。テクスト論を活用した現代文学理論派と、作品論が中心の守旧派との対立だ。

テクスト論派が、「私」は先生の死後にお嬢さんと共に生きているという解釈を提示して論争が始まった。

この『こころ』論争の全容をまとめて書かれているのが『現代文学論争』だ。

 

 

漱石のリアル / 若林 幹夫

鉄道、都市、貨幣、帝国、個人、恋愛、日常性…漱石を「測量装置」として近代社会におけるリアリティの地形をあぶりだす。気鋭の社会学者による新しい漱石読解への誘い。

『漱石のリアル』は夏目激石作品の読解を通じて、「測量装置としての激石が明治から大正にかけての日本近代の社会の風景や地形をどのように見たのかを、 その作品に即しながら分析」した本である。

 

 

plutocharon.hatenablog.com

 

plutocharon.hatenablog.com