野球をモチーフにした小説と言えば何を思い浮かべるだろうか?
大抵の方は、『バッテリー』といった王道の野球青春小説を思い浮かべるかもしれない。だが、個人的に野球小説といえば一癖も二癖もあるポストモダン的な野球小説が思い浮かぶ。『バッテリー』が王道の野球小説、いわばストレートとすれば、変化球のようなクセのある野球小説を紹介したい。
ニーズがあるのかは分からないのだけれど(多分無い)、参考になれば幸いだ。
ユニヴァ―サル野球協会
新人投手デイモン・ラザーフォードの完全試合達成まであと一人! スタンドの観客は固唾をのみ、デイモンの投球を見守る──ユニヴァーサル野球協会は、冴えない中年の会計士ヘンリーの頭の中だけに存在する野球リーグだ。試合展開を決めるのはサイコロと各種一覧表。架空のゲームのスコアをつけ、球団勝敗表や選手の成績を記録し、彼らの逸話やリーグの栄光の歴史を空想することにヘンリーの毎日は捧げられている。だが、完全試合を達成した新人投手を悲劇が襲った時から、虚構と現実の境界が崩れだし、ヘンリーの人生は狂い始める。野球ゲームの世界に没入する男の物語を通して、アメリカの歴史や政治や宗教を語り直し、現代の神話を創造するポストモダニズム文学の殿堂入り名作。
『ユニヴァーサル野球協会』は、パワプロのような野球ゲームやシミュレーションを題材にした小説だ。王道の野球小説のイメージのような高校生の青春小説でもなんでもなくて、冴えない中年の話だ。言わずもがな、可愛い女性マネージャーは登場しないし、恋も始まらない。野球シミュレーションをモチーフにしたポストモダン野球小説なのだ。
冴えない中年の会計士ヘンリーは、サイコロや各種一覧表を活用して野球リーグのシミュレーションを行なっている。選手の逸話やリーグの栄光の歴史を空想することにヘンリーの毎日は捧げられていた。だが、ヘンリーの架空の世界は音を立てて崩壊していく。
野球ゲームを題材として、虚構と現実の境目を描いた傑作だ。アメリカのポストモダン文学の代表作でもある。野球を題材にしてアメリカについて語っている作品だ。
『 素晴らしいアメリカ野球』 / フィリップ・ロス
ギル・ガメシュはリーグ史上唯一審判を殺そうとした監督、一塁手ジョン・バールはアル中の凶状持ち、三塁手ウェイン・ヘケットは最年長52歳と、放浪球団マンディーズは厄介者だらけ!珍記録を次々と樹立し、あげく反米スパイ事件の汚名まで着せられて…。アメリカの夢と神話を痛快に笑い飛ばした、米文学史上最凶の大問題作
『素晴らしいアメリカ野球』はアメリカ文学を代表するポストモダン文学だ。タイトルには野球というワードが入っているが、主にアメリカについて語られた作品だ。野球史について描かれながらも、文学史やアメリカ史を反映した内容になっている。
『優雅で感傷的な日本野球』 / 高橋 源一郎
ぼくは野球を知らなかった。ぼくの友だちもパパもママも先生さえも知らなかった。「野球を教わりたいんです」―“日本野球”創世の神髄が時空と国境を越えていま物語られる。一九八五年、阪神タイガースは本当に優勝したのだろうか?第一回三島由紀夫賞受賞の名作。
『素晴らしいアメリカ野球』に影響され、日本に置き換えて書かれた作品が『優雅で感傷的な日本野球』だ。こちらの作品も野球を題材としながら、日本について語られた作品だ。作者は日本前衛文学を代表する高橋源一郎だ。高橋源一郎はこの作品で三島由紀夫賞を受賞している。
ストーリーらしいストーリーはないのだが、全体を貫くストーリーラインとしてはランディ・バースの話が展開されている。また、パロディやパスティーシュもふんだんに使われている。
『オブ・ザ・ベースボール』 / 円城 塔
ほぼ一年に一度、空から人が降ってくる町、ファウルズ。単調で退屈な、この小さな町に流れ着き、ユニフォームとバットを身につけレスキュー・チームの一員となった男の物語。奇想天外にして自由自在、文學界新人賞受賞の表題作に、知の迷宮をさまようメタフィクション小説「つぎの著者につづく」を併録。
難解な作品を書くことで有名な円城塔だが、『オブ・ザ・ベースボール』はかなり読みやすい作品だ。舞台は空から人が降ってくる街、ファウルズ。空から降ってくる人を撃ち返すという奇想天外な内容だ。だが、ユーモアがかなり仕込まれていて、クスクス笑えるシーンもある。