日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

伊坂幸太郎の最高傑作を独断で選出する

伊坂幸太郎は日本で大人気の作家の一人だと思う。

緻密に張り巡らされた伏線、個性的なキャラクターと軽妙な語り口、ウィットに富んだ文章が魅力だ。

特に巧みすぎる伏線回収には毎回驚かせられる。作中に張り巡らされた伏線が、後半にかけて回収されていく様はとても鮮やかで気持ちがいい。小説の構成も凝っているものが多く、どんでん返しが仕掛けられた小説もある。『ホワイトラビット』や『アヒルと鴨のコインロッカー』には本当に驚かされた。

 

数多くの名作を生み出している伊坂幸太郎だが、最高傑作は何だろうか

「あれも面白かったし、あの作品も捨てがたい」と、名作が多すぎてなかなか1つの作品に絞ることができなかった。かなり難しかったのだが、最高傑作と思える作品を5作品にまで絞り込んでみた。

独断と偏見で選んだ伊坂幸太郎の最高傑作を5冊紹介したい。

 

 

ラッシュライフ 

泥棒を生業とする男は新たなカモを物色する。父に自殺された青年は神に憧れる。女性カウンセラーは不倫相手との再婚を企む。職を失い家族に見捨てられた男は野良犬を拾う。幕間には歩くバラバラ死体登場――。並走する四つの物語、交錯する十以上の人生、その果てに待つ意外な未来。不思議な人物、機知に富む会話、先の読めない展開。巧緻な騙し絵のごとき現代の寓話の幕が、今あがる。

まず選出したのが『ラッシュライフ』だ。企みに満ちた小説の構成と魅力的な登場人物という点で先取した。伊坂幸太郎の作品の中で構成の妙が特に光っているのではないかと思う。『ラッシュライフ』は伊坂幸太郎の初期作品(一期)で、あっと驚く仕掛けが施された小説だ。初めて読んだ時には、驚愕の展開に驚かされた。

この小説では、一見するとなんの繋がりもない4つストーリーがパラレルに展開する。だが、ジグソーパズルのように一つ一つピースがはまっていくと、一枚の大きな絵(ストーリー)が浮かび上がってくる。だが、その絵はトリックアートである。エッシャーの騙し絵のような小説だ。映画で例えたらタランティーノ監督の『パルプ・フィクション』だろうか。とにかくこの構成と構成にあった作品のメッセージが素晴らしいと思っている。

また、登場人物も魅力的だ。特に泥棒の黒澤は伊坂作品の中でもベスト3に入るぐらい魅力的なキャラクターだと思っている。ちなみに『ラッシュライフ』に登場する泥棒・黒澤は、『重力ピエロ』や『首折り男のための協奏曲』、『フィッシュストーリー』、『ホワイトラビット』にも登場している。黒澤の魅力にはまってしまった人は他の伊坂作品に登場しているのか探してみてほしい。

 

 

 アヒルと鴨のコインロッカー

引っ越してきたアパートで出会ったのは、悪魔めいた印象の長身の青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。彼の標的は――たった1冊の広辞苑!? そんなおかしな話に乗る気などなかったのに、なぜか僕は決行の夜、モデルガンを手に書店の裏口に立ってしまったのだ! 清冽な余韻を残す傑作ミステリ。

次に選出したのが『アヒルと鴨のコインロッカー』だ。どんでん返し余韻を残すストーリーが素晴らしいので選出した。吉川英治文学賞を受賞した傑作である。

まず、アパートで出会った青年に本屋の襲撃を持ちかけられるというストーリーが魅力的だ。奇妙な展開にぐいぐい引き込まれてしまう。1冊の広辞苑を狙った書店襲撃というのが斬新よね。

また、事件の全貌が明らかになった時の全てがひっくり返る衝撃も魅力ポイントだ。伊坂幸太郎作品の中でもベスト3に入るぐらいのどんでん返しだと思う。

衝撃の展開と明かされる真実に切なさが胸に込み上げてくる。切ない余韻を残す、名作ミステリだ。

 

 

マリアビートル

幼い息子の仇討ちを企てる、酒びたりの元殺し屋「木村」。優等生面の裏に悪魔のような心を隠し持つ中学生「王子」。闇社会の大物から密命を受けた、腕利き二人組「蜜柑」と「檸檬」。とにかく運が悪く、気弱な殺し屋「天道虫」。疾走する東北新幹線の車内で、狙う者と狙われる者が交錯する――。

次にあげるのが『マリアビートル』だ。『マリアビートル』は『グラスホッパー』に続く殺し屋シリーズの作品だ。優れたエンタメ性と文学性を両立した作品として選出した。

マリアビートル』では、東北新幹線にクセの強い殺し屋たちが集結する。疾走する東北新幹線という密室の中で、殺し屋たちの対決が繰り広げられる。殺し屋たちのキャラクターや軽妙な会話が魅力的だ。伏線も張り巡らされテンポよく進むストーリーはエンターテイメントとして一級品だ。

だが、『マリアビートル』の良さはエンターテイメント性以外にもある。「王子」というキャラクターに象徴されるように、「悪とは何か」といったテーマが扱われている。この「王子」というキャラクターだが、一見普通の少年に見えるが、サイコパス的なキャラクターなのである。ちょうど『マリアビートル』という作品は伊坂幸太郎作品の中では第二期といわれる時期の作品だ。この第二期では、エンターテイメント性よりも純文学的なテーマを追求する傾向が強かった。なので、分かりやすいエンタメ的な面白さがない分、賛否両論が別れる作品が多かったように思う。そんな第二期と言われる時期の中でも、『マリアビートル』はエンタメ性と文学性を両立した稀有な作品だと思っている。

単なるエンタメだけでなく、「悪」というテーマを描いた重みのある作品として『マリアビートル』を最高傑作に選出した。

 

 

ホワイトラビット 

兎田孝則は焦っていた。新妻が誘拐され、今にも殺されそうで、だから銃を持った。母子は怯えていた。眼前に銃を突き付けられ、自由を奪われ、さらに家族には秘密があった。連鎖は止まらない。ある男は夜空のオリオン座の神秘を語り、警察は特殊部隊 SIT を突入させる。軽やかに、鮮やかに。「白兎事件」は加速する。誰も知らない結末に向けて。驚きとスリルに満ちた、伊坂マジックの最先端!

ホワイトラビット』も最高傑作として捨てがたい。伊坂幸太郎作品の中でどんでん返しが一番凄いという点で選出した。

舞台は仙台の高級住宅地。閑静な住宅街で人質事件が発生する。犯人と警察との緊迫した交渉戦や事件の鍵を握るオリオン座の秘密など、鮮やかな展開に目が離せない。怒涛の展開に圧倒される小説だ。構成の妙が光っていて、明かされる真相には必ず驚かされるだろう。まさに伊坂マジック!

『ラッシュライフ』で登場した人気キャラクター黒澤も再登場し、重要な役割を担っている。黒澤ファンは必読の一作だ。

 

 

ゴールデンスランバー 

衆人環視の中、首相が爆殺された。そして犯人は俺だと報道されている。なぜだ? 何が起こっているんだ? 俺はやっていない――。首相暗殺の濡れ衣をきせられ、巨大な陰謀に包囲された青年・青柳雅春。暴力も辞さぬ追手集団からの、孤独な必死の逃走。行く手に見え隠れする謎の人物達。運命の鍵を握る古い記憶の断片とビートルズのメロディ。スリル炸裂超弩級エンタテインメント巨編。

最後に紹介するのは『ゴールデンスランバー』だ。伊坂幸太郎の最高傑作として名前が上がることが多い小説だと思う。伊坂作品の代名詞と言える伏線回収が神がかっているという点で選出した。この作品はとにかく伏線回収がすごい!「これが伏線になるのか」と思うほど、ありとあらゆるところに伏線を張り巡らされている。特に後半にかけての怒涛の伏線回収には圧倒される。

首相暗殺の濡れ衣を着せられ、巨大な陰謀に巻き込まれた青柳雅春。彼はいろんな手段を使って追っ手から逃げようとする。逃走劇という手に汗握るストーリーにページをめくる手が止まらなくなる。エンタメ作品として一級品だと思う。巨大な陰謀に対して、個人的な繋がりで対抗するというモチーフが印象的だ。

 

 

 

選んでみた結果、割と初期の作品が多くなったなという印象だ。最高傑作を考えたときに真っ先に思いついたのが、『ゴールデンスランバー』と『マリアビートル』だった。

人によって伊坂幸太郎の最高傑作は何かは別れるところだろう。あなたが選ぶ伊坂幸太郎の最高傑作は何ですか?