日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

幻想に取りつかれた大人たち / 『恋のロンドン狂騒曲』 ウディ・アレン

 軽いラブコメディと思いきや...

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ウディ・アレン監督の映画といえば、ユーモアに富んだ会話と、「人生は無意味だ」といったシニカルな作風で知られている。

恋のロンドン狂騒曲』は、ウディ・アレン映画の中でも人生の諦念に満ちた映画だ。ウディ・アレン初心者には勧めにくい激苦映画。観る前は『恋のロンドン狂騒曲』というタイトルからラブコメ的なものを想像したけれど、観てみるとなかなかシニカルな内容である。原題は『You Will Meet a Tall Dark Stranger』だ。Tall Dark Strangerというのは死神のことだろうか。『ミッドナイト・イン・パリ』と同じような感じの映画を期待して観ると、全身大火傷するので注意が必要。

人生は死ぬまでの空騒ぎに過ぎないを体現するかのように、登場人物たちはそれぞれの妄念に憑りつかれてドタバタ劇を繰り広げていく。

 

登場人物たちはそれぞれ何かに憑りつかれたみたいに生きている。フィクションや幻想、ノスタルジーに頼らなければ、人間は生きていけないのかもしれない。

『カイロの紫のバラ』や『ミッドナイト・イン・パリ』以上に、そのことをほろ苦く描いている。

アルフィは死を恐れ、永遠の若さや自分の子どもを残そうとすることで死に抗おうとする。小説家のロイは新作の小説が書けずに、犯罪的行為に手を染めていく。ロイの妻のサリーも夫婦関係が上手くいかず、ギャラリーのオーナーに惹かれていく。一方でサリーの母で、アルフィの元妻であるヘレナはスピリチュアルな方面に走り、怪しい占い師にはまっている。

みんながみんなそれぞれのファンタジーに振り回されていき、とち狂った行動を起こしていく。そして破滅的な結末を迎えてしまう。現実を直視している登場人物はそれぞれが不幸な結末に至る中で、幻想に浸り続けているヘレナが一番幸せなように描かれている。幻想でも信じるものは救われるといったところだろうか。

最後のシーンではハッピーエンディングを迎えているような演出になっているけど、むしろバッドエンディングである。それも、人生のやるせなさが詰まった激苦エンディング。

人生は現実を直視するには辛すぎる。きっと、幻想がなければ人は生きられないのだろう。

 

ウディ・アレンの映画の中でもシニカルすぎる作品だ。心が強い人は観てみて。

 

恋のロンドン狂騒曲 (字幕版)

恋のロンドン狂騒曲 (字幕版)

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