日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

日本の前衛文学の巨匠!安部公房のおすすめ小説5選

安部公房という作家をご存知だろうか?日本を代表する作家の一人で、晩年はノーベル文学賞受賞間近とも言われた作家だ。

その作風は非常に前衛的・実験的で、文学の概念を更新するような作品を数多く残した。

日本で前衛文学というと安部公房の名前が一番に上がるのではないかと思うぐらい前衛文学の名作が多い。例えば、ダンボール箱を頭から被った男が登場する『箱男』は、見るものと見られるものの関係性を反転させる実験的な小説だ。また、男が砂の中に閉じ込められる様子を描いた『砂の女』は、日本文学の中でも最高傑作ではないかとの呼び声が高い。

また、名前を失った人間が壁になってしまう『』や、人間が棒になってしまう『棒になった男』のように、超現実的な展開も魅力の1つだ。日本におけるシュールレアリズム文学の代表作家だ。

純文学だけではなく、『第四間氷期』など、未来を予見するかのようなSF小説も数多く描いた。

そんな独特な作風を持つ唯一無二の作家・安部公房のおすすめ作品を紹介したい。

 

 

 

砂の女

砂穴の底に埋もれていく一軒家に故なく閉じ込められ、あらゆる方法で脱出を試みる男を描き、世界20数カ国語に翻訳紹介された名作。

安部公房の代表作といえばこの『砂の女』だろう。この本は間違いなくおすすめだ。あるネットの掲示板では、日本文学の最高傑作ではないかと挙げられていた小説だ。その人気は日本に留まらず、20数ヶ国語に翻訳され世界中で読まれている。

ある集落に迷い込んだ男が、砂穴の底にある一軒家に理不尽にも閉じ込められてしまう。その砂の中の家には砂が落ちてきて、毎日毎日砂を書き出さないと砂に埋もれてしまうのだ。あらゆる脱出方法で脱出を試みる男と、男を穴に閉じ込めておこうとする女を描き、極限状況における人間の姿を描いた。

『砂の女』には人間の本質がこれでもかと描かれている。いつの間にか手段と目的が入れ替わってしまうこと、人生とは単調な日々の繰り返しに過ぎないのかというようなこと、極限状況で人間はどう振る舞うのかということ。私自身、人生でもっとも感銘を受けた本を挙げろと言われれば、間違いなく『砂の女』を挙げるだろう。

また、安部公房の文章力が素晴らしく、読んでいると自分がまるで砂の中にいるかのように思えてくるのである。私も読んでいる時、体が砂でザラザラしているかのような錯覚に陥ったものだ。 

 

 

箱男

ダンボール箱を頭からかぶり都市をさ迷うことで、自ら存在証明を放棄する箱男は、何を夢見るのか。謎とスリルにみちた長編。

安部公房の中で最大の問題作・実験作と言ってもいいのが『箱男』だ。日本文学でベスト3に入るくらい前衛的な作品だと思う。ダンボールを頭から被った男が、都市を彷徨するという実験的な内容だ。「箱男」は、ダンボールの覗き窓から街を見つめる。見るものと見られるものの関係性を反転させる。さらには、贋箱男も登場し、目まぐるしく場面が展開していく。
読者を惑わすトリックをあなたは見抜くことができるか。

 

 

燃えつきた地図

失踪者を追跡しているうちに、次々と手がかりを失い、大都会の砂漠の中で次第に自分を見失ってゆく興信所員。都会人の孤独と不安。

燃えつきた地図』は探偵小説の常識をぶち壊した小説だ。探偵小説(ミステリ)は、一般的にいうと、探偵が登場し事件を解決するというフォーマットに収まると思う。しかし、『燃えつきた地図』は、謎を宙吊りにする謎解きミステリなのだ。

失踪者の捜索を依頼された主人公は、探索しているうちに、次々と手がかりを失い、現実の迷路に迷い込む。大都会という名の砂漠の中で次第に自分を見失ってゆく主人公。次第に追う者と追われる者の関係がメビウスの輪のように反転してしまう。都会人の孤独を描いた名作だ。

 

 

第四間氷期

万能の電子頭脳に、ある中年男の未来を予言させたことから事態は意外な方向へ進展、機械は人類の苛酷な未来を語りだす。SF長編。

安部公房はSF小説でも名作を残している。それが『第四間氷期』だ。万能の電子頭脳という今で言うところの人工知能が登場する作品だ。まさに今の時代にぴったりな小説で、安部公房の先見性には脱帽してしまう。

電子頭脳にある中年男の未来を予言させたことから事態は意外な方向へ進展していく。電子頭脳は人間にとって薔薇色とはいえない未来を語り出すのだ...

未来というものは本質的に残酷なものではないかということを考えさせられる小説だ。

 

 

水中都市・デンドロカカリヤ 

突然現れた父親と名のる男が奇怪な魚に生れ変り、何の変哲もなかった街が水中の世界に変ってゆく……。「水中都市」など初期作品集。

安部公房は短編小説でも抜群の完成度を誇る。短編集でおすすめなのが『水中都市・デンドロカカリヤ』だ。父親と名のる男が奇怪な魚に変化し、街が水中の世界に変ってゆく「水中都市」、主人公が見馴れぬ植物になってしまう「デンドロカカリヤ」など名作揃いだ。特におすすめなのが、「闖入者」という短編小説だ。 世にも奇妙な物語にありそうな、薄気味悪い小説である。

ある男の部屋に見知らぬ家族が押しかけてくる。その「闖入者」は、民主主義の名の下に多数決で「民主的」に男の部屋を占拠していく。民主主義で広く信じられている「多数決」という制度の暴力性を表現した小説だ。ぜひ、居心地が悪くなるような読後感を楽しんでみて欲しい。

ちなみにこの「闖入者」は『友達』というタイトルの戯曲にもなっている。

 

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