日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

映画『ドライブ・マイ・カー』をより理解するための3冊


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村上春樹の「ドライブ・マイ・カー」を原作にした濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が数多くの映画賞を受賞し、アカデミー賞にノミネートされるなど、最近話題を集めている。

舞台俳優・演出家の家福(かふく)が、妻の喪失と残した秘密に苦しみ、演劇の演出やドライバー・渡利みさきとの交流を通じて自己回復していく過程を描いた映画だ。

 

『ドライブ・マイ・カー』は、第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、日本映画としては史上初となる脚本賞を受賞している。かの有名な三大映画祭のカンヌ映画祭である。また、ニューヨーク映画批評家協会賞作品賞も受賞している。これはアジア映画では初の受賞という快挙だ。その他にも、全米映画批評家協会賞やボストン、ロサンゼルスの批評家協会賞、ゴールデングローブ賞と数多くの賞を受賞した。圧巻である。

 

その勢いのままに、第94回アカデミー賞では、作品賞・監督賞・脚色賞・国際長編映画賞にノミネートされた。作品賞と脚色賞でのノミネートは日本映画では初のようだ。

映画を観た個人的な『ドライブ・マイ・カー』をみた個人的な感想だけど、アカデミー賞の脚色賞と国際長編映画賞あたりは取りそうだなと思ってる。

「ドライブ・マイ・カー」にチェーホフの『ワーニャ伯父さん』を上手く組み込んだ脚色は端的に言って神だと思う。

 

この記事では、読んでおくと映画『ドライブ・マイ・カー』をより深く理解できる本を三冊紹介したい。ストーリーと作中で演じられる作品が深く繋がっているので、登場する作品に触れておくとより深く作品を理解できると思う。

 

 

『女のいない男たち』

まずは原作となった「ドライブ・マイ・カー」が収録されている村上春樹の短編集『女のいない男たち』だ。女のいないとタイトルにあるように、色々な理由によって女に去られた男たちを描いた短編小説集だ。

映画『ドライブ・マイ・カー』だが、原作は「ドライブ・マイ・カー」だけだと思うかもしれないが、実はそうではない。メインの内容は「ドライブ・マイ・カー」だけれども、同じく『女のいない男たち』に収録されている「シェエラザード」と「木野」の内容も映画に組み込まれている。冒頭のシーンの、主人公の妻・家福音がセックスの際に物語を語るというのは「シェエラザード」で描かれた内容だ。

また、傷つくべく時にに傷つけなかったという映画のテーマは「木野」からきているのではないかなと思っている。

原作の「ドライブ・マイ・カー」を読み込むと映画を理解する助けになる。それと、渡利みさきの背景など、小説と映画とで内容が違う点があるのでそこを探してみるのも面白いかもしれない。

 

 

『ワーニャ伯父さん』

映画『ドライブ・マイ・カー』で登場するキーアイテムがチェーホフの『ワーニャ伯父さん』だ。『ワーニャ伯父さん』はチェーホフの四大戯曲の1つでもある。この『ワーニャ伯父さん』を全面的に映画に組み込んだのが、映画と小説との大きな違いだ。

小説でもチェーホフの『ワーニャ伯父さん』は登場するのだが、映画ほどメインで取り上げられていない。小説では、どちらかというと車の助手席に座り過去を語り直すことによって、家福は過去と自らの心の傷に向き合うことになっていると思うのだが、映画ではチェーホフの『ワーニャ伯父さん』の演出と演技を通じて家福は自分に向き合っていく。

家福が車の中で、『ワーニャ伯父さん』を暗唱するのは印象に残るシーンだろう。また、映画では、家福が広島国際演劇祭で『ワーニャ伯父さん』を演出する立場になっている。

この映画を深く理解するためには『ワーニャ伯父さん』が重要だ。『ドライブ・マイ・カー』のストーリーと映画内演劇『ワーニャ伯父さん』が重層的に重なるようになっているのだ。主人公の家福に、『ワーニャ伯父さん』の登場人物ワーニャの状況が重なるようになっているのだ。映画を見るだけで、『ワーニャ伯父さん』の内容が分かるようになっているのだが、『ワーニャ伯父さん』を読んでみるとより理解が深まると思う。

長い長い日々と、長い夜を生き抜きましょう」というチェーホフの言葉は、家福の現状に重なるものがあり、深く心に刺さるだろう。

 

 

『ゴドーを待ちながら』

『ドライブ・マイ・カー』の冒頭で家福が演じていたのがサミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』だ。この演劇は不条理劇として有名な作品で、数多くの作家や作品に影響を与えている。

劇の内容は、ウラジミールとエストラゴンという2人の浮浪者が、ゴドーという人物を待ち続けているという内容だ。そして、ゴドーは来ないのである。なんとも不条理な演劇である。

映画の中では、家福が『ゴドーを待ちながら』を他言語で演出を行なっている。

 

 

 

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