日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

安部公房が好きな人におすすめの作家

 

日本を代表する作家の一人、安部公房。前衛的・実験的すぎる作風で知られ、未来の残酷さを見抜いたSFなど数多くの作品を残した。極限状況における人間を描き、日本文学最高傑作とも称される『砂の女』、未来が本質的に残酷である事を描いた『第四間氷期』、段ボールを頭からかぶった人間が登場する実験的な問題作『箱男』など、名作が多い。

そんな独特な作風を持つ安部公房だが、安部公房が好きならこの作家も好きそうだなというのをまとめてみた。安部公房に通じる作風をもった作家を紹介したい。

 

 

フランツ・カフカ

安部公房のシュールな部分や不条理文学的な部分に惹かれた人にはフランツ・カフカをおすすめしたい。安部公房が好きな人におすすめしたい作家といえば真っ先にカフカが思い付いた。

気がかりな夢から目をさましたら虫になっていたでおなじみの『変身』や、官僚機構のナンセンスさを描いた『城』や訳の分からない裁判に巻き込まれる男が主人公の『審判』など名作が多い。おすすめはやっぱり『変身』、『』、『審判』だ。

 

 

ポール・オースター

安部公房の作品の中でも『燃えつきた地図』のような謎を宙吊りにするようなミステリが好きな人におすすめしたいのが、ポール・オースターだ。ポール・オースターの作風を一言で言うとエレガントな前衛というところか。

安部公房好きにおすすめしたいのが、ニューヨーク三部作と呼ばれる3つの探偵小説だ。1つ目が『ガラスの街』だ。一見すると探偵小説の枠組みを用いているが、謎は一向に解決しないし、理不尽な方向にストーリーは進んでいく。

ニューヨーク三部作の二作目が『幽霊たち』だ。 ブラック、ホワイトなど登場人物の名前が色の名前になっているのが特徴だ。私立探偵ブルーはホワイトから奇妙な依頼を受ける。その依頼は、ブラックという男を見張るというものだった。ブルーはブラックを見張り続けるが何も起こらない。その見張りの中で、ブルーは自分を見失っていく。

ニューヨーク三部作の3作目が『鍵のかかった部屋』だ。『鍵のかかった部屋』では、失踪した友人を追ううちに自己を見失っていく「僕」が描かれている。

『燃えつきた地図』が好きな人であれば、ポール・オースターは気にいると思う。

 

 

アラン・ロブ=グリエ

安部公房の前衛的・実験的なところが好きな人には アラン・ロブ=グリエをおすすめしたい。アラン・ロブ=グリエは、ヌーヴォー・ロマンを代表するフランスの作家だ。ヌーヴォー・ロマンとは、1950年代のフランスで盛り上がった、前衛・実験文学の潮流だ。戦後のフランスでは、これまでの小説の根幹を覆すような小説が次々と発表されていた。その小説群は前衛的で実験的な内容から「ヌーヴォー・ロマン(新しい小説)」と呼ばれるようになった。ヌーヴォー・ロマンを代表する作家としては、アラン・ロブ=グリエ、ミシェル・ビュートル、クロード・シモン、ナタリー・サロートなどが挙げられる。ヌーヴォー・ロマンの作家たちが追い求めたのは、文章の魅力やストーリーの面白さではなく、小説の可能性だ。二人称などの人称の実験(『心変わり』)、プロットの一貫性や心理描写の欠落、意識の流れの叙述、客観的な描写の徹底など、ヌーヴォー・ロマンでは様々な実験が試みられた。

ロブ=グリエは、『燃えつきた地図』と同様に謎を宙吊りにするミステリを書いている。それが『消しゴム』という小説だ。『消しゴム』では、謎が宙吊りにされて「宿命的結末」を招いてしまう様子が描かれている。殺人事件発生の報せを受けてやってきた捜査官ヴァラスだったが、肝心の遺体も犯人も見当たらない。オイディプス王のように、宿命的としか言いようがない結末を招くのだ。

この謎解きを宙吊りにするミステリという枠組みは『消しゴム』が最初で、これが安部公房やポール・オースターに受け継がれたんじゃないかなと思っている。『消しゴム』以外だと『迷路のなかで』がおすすめ。

 

 

サミュエル・ベケット

安部公房の「闖入者」ような不条理文学が好きな人におすすめなのが、サミュエル・ベケットだ。サミュエル・ベケットは不条理演劇の傑作『ゴドーを待ちながら』を生み出している。

 

 

小島 信夫

ここまでは海外の作家を紹介してきたが、ここからは日本の作家を紹介したい。まずは小島信夫だ。理由はうまく説明できないけど、安部公房が好きな人であれば、小島信夫の作品のいくつかはハマるんじゃないかなと思う。おすすめは『アメリカンスクール』と『美濃』、『別れる理由』だ。

 

 

後藤 明生

続いては後藤明生だ。安部公房とは前衛的な作風が共通項だ。おすすめは代表作の『挟み撃ち』だ。

 

 

倉橋由美子

安部公房の作品には実存主義的な部分があると思っているのだが、その点に関連して倉橋由美子をおすすめしたい。特に勧めたいのが『スミヤキストQの冒険』、『パルタイ』だ。

 

 

筒井 康隆

安部公房の実験的な作風が好きな人におすすめしたいのが、筒井康隆だ。安部公房と同様に前衛的な作品を多く生み出している。おすすめはTikTokでも最近話題になった『残像に口紅を』と『夢の木坂分岐点』だ。

 

 

三崎亜記

安部公房の不条理な部分と非リアリズムの部分に惹かれた人におすすめしたいのが三崎亜記だ。三崎亜記は不条理をテーマにした作品を数多く執筆している。人が失われるなどの理不尽な不条理を前にした時の人間を描くのが上手い。また、いわゆる「お役所的な」縦割りなど、官僚的ナンセンスを表現した作品も多く描いている。三崎亜記のオススメは、となり町との見えない戦争を描いた『となり町戦争』、本物とニセモノの妻に関する話の『ニセモノの妻』、鼓笛隊が日本に襲来する様子や彼女の痕跡が展示された展覧会の話など短編を集めた『鼓笛隊の襲来』だ。

 

 

円城 塔

最後に紹介したいのが円城塔だ。この作家は安部公房に劣らないぐらい前衛的な作風で知られる作家だ。理系出身の作家でもあり、作品には理系用語が飛び交うことがしばしば。内容は非常に難解だけど、文章はとてもユーモラスで面白い。おすすめは『Self-Reference ENGINE』や『これはペンです』、『道化師の蝶』だ。

 

 

 

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