日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

2020年に読んで印象に残った本ベスト10選

いよいよ大晦日だ。一年のグランドフィナーレ。未曾有の災害、新型コロナウイルスに襲われた一年でした。本当なら東京でオリンピックが開催されていたはずだったのかと考えると不思議な気分になる。こんな一年になることを誰が予想できたであろうか。何が起こるかわからないものである。

パリや東京、ニューヨークなど人が街からいなくなることが起こりうるとは思っていなかった。もし、過去から2020年のロックダウン時の世界にタイムスリップした人がいたら、人がいなくなった街を見てさぞ驚いただろう。

 

今年一年を振り返りつつ、今年読んだ本の中で印象に残ったものを10冊選んでみた。今年出版された本ではなく、今年読んだ本の中から選んでいる。結構昔に出版された本も混じっている。今年は家にいることが多かったこともあって、年間で100冊ほど読んだ。いつもこのくらい読めればいいのだけれど。

 

 

 風の歌を聴け

風の歌を聴け (講談社文庫)

風の歌を聴け (講談社文庫)

 

まずは村上春樹の『風の歌を聴け』。今年初めて読んだわけではなく、4度目ぐらいの再読だ。村上春樹のデビュー作だ。読んだ人ならわかると思うのだが、『風の歌を聴け』は明確なストーリーが分かりにくい小説だ。今までに読んだ時も、村上春樹の饒舌な文体やほろ苦い青春の雰囲気を楽しむ感じで読んでいて、内容については解釈しきれていなかった。今回『風の歌を聴け』を再読する前に、斎藤美奈子の『妊娠小説』 と石原千秋の『謎解き村上春樹』を読んで考察を行ったので、かなり内容をつかむことができた。テクスト中に散りばめられた数字やキーワードを丹念に追っていくと内容がつかめる。40の断章で構成されていてメインストーリーがないように思えるが、2つの出来事が語られていると思う。「僕が彼女(直子)を自殺で失う話」と「鼠が小指のない女の子を妊娠させて、それが原因で女の子を失う話」だ。『風の歌を聴け』は何度でも再読したくなるし、読むたびに色んな解釈が深まっていく名作だ。

 

 

限りなく透明に近いブルー 

こちらは村上でも龍の方。村上春樹はほとんどの小説を読んでいるが、村上龍の方は一冊も読んだことがなかった。なので、代表作でもある『限りなく透明に近いブルー』を読んだ。ドラックにまみれた『トレインスポティング』みたいな小説で、感性で書いたような印象を受ける小説だ。しかし、イメージを繰り返すなど細かいところの小説技法がしっかりとしていて、勢いだけで書いた小説ではない印象を受ける。とにかく主人公たちが吐くシーンが多いのだけれど、これはサルトルの『嘔吐』をイメージしているのかな。来年は『コインロッカーベイビーズ』を読もうと思う。

 

 

一人称単数 

一人称単数 (文春e-book)

一人称単数 (文春e-book)

 

今年出版された村上春樹の最新短編集。過去を振り返るテイストの話が多く、村上春樹も年をとったからこんな話を書いたのかなと考えるとしみじみする。 

 

 

キャプテンサンダーボルト 

伊坂幸太郎阿部和重の共作小説。エンタメと純文学を代表する作家のコラボということもあって、期待に胸を膨らませて読んだ。単行本が発売された当初から話題になっていて読みたかったが、結局文春文庫になっても読まずに新潮文庫の新装版になってから読むことになった。阿部和重の陰謀的な要素と伊坂幸太郎ストーリーテリングが合わさって面白いエンタメに仕上がっている。伊坂作品をベースにして比較すると伏線回収の量はそこまでないが、陰謀や謎の組織の計画など気になる謎に引っ張られて一気に読んだ。また本編には「村上病」という感染症が登場するのだが、新型コロナのこともあってタイムリーに感じた。

 

 

こころ 

こころ (新潮文庫)

こころ (新潮文庫)

 

高校生の時以来に再読した。言わずと知れた夏目漱石の三角関係小説。「恋は罪悪ですよ」というパワーワードで有名だ。高校の国語の授業でも読んだが、今読み直すとまた違った解釈ができる。人生経験が増えたからか。

 

 

レプリカたちの夜 

レプリカたちの夜(新潮文庫)

レプリカたちの夜(新潮文庫)

 

『レプリカたちの夜』はタイトルと最初の掴みが面白かったので読んだ。まあ、ヘンテコりんな小説だ。映画監督に例えるとデヴィッド・リンチのよう。まるでマルホランドドライブを見ているかのような気分になった。文体はユーモアに溢れていて面白いが、内容は脈略がなく意味不明なところがある。ミステリかと聞かれれば、ミステリのフリをした何かだと答えるだろう。既存の方に収まらない、ぶっ飛んだ小説だった。この作家の今後に注目したい。

 

 

虹の色歯ブラシ 上木らいち発散 

虹の歯ブラシ 上木らいち発散 (講談社文庫)

虹の歯ブラシ 上木らいち発散 (講談社文庫)

 

今年読んだミステリの中で一番の問題作が『虹の色歯ブラシ 上木らいち発散』 。もう、めちゃくちゃ問題作。『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』もブッとんだ問題作だが、この小説も引けを取らない。こんな試みをしているミステリを見たことがない。連作短編ミステリで最後の短編で話がつながる構成なのだが、話の繋げ方がナナメ上過ぎて度肝を抜かれた。

 

 

 イシューからはじめよ

社会人2年目ということもあり、ビジネス書を多く読んだ一年でもあった。『イシューからはじめよ』は論理的思考・仮説思考・論点思考についての本だ。重要な問題に絞り、闇雲に考えるのではなく仮説を立ててポイントを絞って検証していく。研究者にも役立つ内容の本だ。今気付いたが、自分が読んで面白いと感じた本は大体マッキンゼー出身の人の本だ。 

 

 

 2020年6月30日にまたここで会おう

 

 もっとも影響を受けたビジネス本は瀧本哲史の『僕は君たちに武器を配りたい』だ。大学生の時に読んで感銘を受けた本の1つだ。その瀧本哲史の講義を本にしたものだ。講義の熱量が伝わってくる内容になっている。ちなみに瀧本哲史もマッキンゼー出身。

 

 

 君に友だちはいらない

君に友だちはいらない

君に友だちはいらない

 

こちらも瀧本哲史の本。『君に友だちはいらない』というタイトルは刺激的だが、内容としては仲間を集めてチームを作るにはどうしたらいいかということについての本だ。起業するにしても、一人だけでは事業をうまく軌道に乗せることができない。この本はどうすれば最大限の成果を生み出せるチームを作れるかということを力説した本だ。

 

 

 

来年も100冊ぐらいは本を読むようにしたいなと思う大晦日であった。