日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

2021-02-01から1ヶ月間の記事一覧

愛についてのドタバタ喜劇 / 『湖畔の愛』 町田 康

今日も一面霧が立ちこめて。ときに龍神が天翔るという伝説がある九界湖の畔で、むっさいい感じで営業している九界湖ホテル。支配人新町、フロント美女あっちゃん、怪しい関西弁の雑用係スカ爺が凄絶なゆるさで客を出迎える。真心を込めて。そこへ稀代の雨女…

孤独な少女たちの魂の邂逅 / 『至高聖所』 松村 栄子

新構想大学という無機質な世界で出会った孤独な少女たちの魂の邂逅を描いたのが、松村栄子の『至高聖所』だ。『至高聖所』は、センター国語でも話題になった『僕はかぐや姫』の作者・松村栄子の小説で、第106回芥川賞受賞作である。この小説でも研ぎ澄まされ…

新型感染症と組織の不条理 / 『臆病な都市』 砂川 文次

新型コロナウイルスが流行し、注目された小説がいくつかある。カミュの『ペスト』が代表的な小説だ。しかし、『ペスト』以外にも感染症を題材にして、話題になった小説がある。それが砂川文次の『臆病な都市』だ。端的に言って、この小説は傑作だと思う。『…

麻耶雄嵩の超問題作 / 『夏と冬の奏鳴曲』 麻耶 雄嵩

麻耶雄嵩の超問題作 首なし死体が発見されたのは、雪が降り積もった夏の朝だった!20年前に死んだはずの美少女、和音の影がすべてを支配する不思議な和音島。なにもかもがミステリアスな孤島で起きた惨劇の真相とは?メルカトル鮎の一言がすべてを解決する。 …

謎解き『羊をめぐる冒険』 / 「依頼」と「代行」による「宝探し」の物語

羊をめぐる冒険 (講談社文庫) 作者:村上春樹 講談社 Amazon 物語にはいくつかの基本パターンみたいなものがある。有名なもので言えばオイディプス王に見られる様な「父殺し」の物語骨格がある。「父」というモチーフは色んな文学作品で扱われていて、志賀直…

演劇畑からデビューした現代文学作家のまとめ

戯曲と小説には綿密な関係がある。三島由紀夫や安部公房など優れた小説家は、素晴らしい戯曲も書き残してきた。また、小説家が戯曲を書くだけではなく、劇作家が小説を書き小説家としてデビューした事例も数多くある。演劇畑出身で活躍している小説家を紹介…

ゲシュタルト崩壊は「文字の精霊」の仕業?/ 『文字禍』 中島 敦

小学生の頃、漢字をひたすら書き写すという宿題を経験した人は多いはずだ。宿題をやっている時、こんな経験はなかっただろうか?ずっと同じ感じを描いていると、漢字の線の一つ一つが分解して、意味をなさない図形のように見えてしまう。このような現象には…

概念を奪い取る宇宙人の侵略 / 『散歩する侵略者』 前川 知大

真治と鳴海の夫婦は、ちいさな港町に住んでいる。亭主関白ぶって浮気する真治、気づかないふりで黙っている鳴海。だが真治が、3日間の行方不明ののち、まったく別の人格になって帰ってきた。「真ちゃん」と呼ばせてくれる新しい真治と、鳴海はやりなおそう…

センター試験で話題になったボクっ娘小説 / 『僕はかぐや姫』 松村 栄子

進学校の女子高で、自らを「僕」と称する文芸部員たち。17歳の魂のゆらぎを鮮烈に描き出した著者のデビュー作「僕はかぐや姫」。 センター試験の国語で出題される小説は毎回話題になってきた。 スピンスピンスピンというパワーワードが話題を集めたこともあ…