日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

パリコレ10回目にして原点回帰したANREALAGE / ANREALAGE 2019-20 A/W "DETAIL"

服の細部をテーマにしたANREALAGE 2019-20 A/W 

 

「神は細部に宿る」という言葉はANREALAGEの服作りを象徴する言葉だ。初期の頃からANREALAGEは服の細部に拘ってきた。服のボタンやタグを一つとっても、その時々のテーマに合った仕掛けがなされている。2010A/W"WIDESHORTSLIMLONG"では服だけではなくボタンも引き伸ばされていたような形になっていたし、2012A/W"TIME"ではボタンに残像が重なっているようになっており、パリコレデビューの2015S/S"SHADOW"ではボタンに影がついていた。とにかくANREALAGEは服の細部にこだわる。特に「クラフトの時代」と呼ばれる初期のコレクションでは圧倒されるほどのパッチワークを見せてきた。

 ANREALAGEの服作りは3つの時代に大きく分けることができると考えている。一つ目はパッチワークに代表されるような「クラフトの時代」。二つ目は、ボール型の服など服の形や定義について問い直した「造形の時代」(2009S/S"○△□" ~ 2013S/S "BONE")。そして三つ目が、フォトクロミックやメカロクロミック、ARなど最新のテクノロジーを服に応用した「テクノロジーの時代」(2013-14A/W "COLOR" ~)。2013-14A/W "COLOR" からANREALAGEはテクノロジーを服に応用することに重きを置いてきたように思う。パリコレクションに発表の場を移してからは、"COLOR"のテーマを深化させたような「光」をテーマにしたコレクションを発表してきた。だが、最近のANREALAGEは光やテクノロジーとファッションの融合をテーマにした服作りではない次の段階を模索しているように思えた。2017-18A/W"ROLL"は服の作り方や造詣をテーマにしたものだった。

  今回の2019-20 A/W "DETAIL"で、ANREALAGEは原点回帰を見せた。「光」をテーマにするのではなく、「神は細部に宿る」や、2009S/S"○△□"の頃のような服の形を問うようなコレクションを発表したのだ。

 

 

 

 服の細部を拡大し、再構築した服

 


ANREALAGE 2019-20 A/W COLLECTION

 

 今回のショーに先駆けて、SNSで服の細部が公開されていた。ショーが始まる前はどういう意図か分からなかったが、ショーを見るとその趣向の意味が分かる。会場には巨大トルソーが配置されていて、2009S/S"○△□"や2010A/W"WIDESHORTSLIMLONG"を彷彿とさせるような演出となっている。スマホの画面上では通常の服に見えるが、実際は服のパーツが拡大され再構築された服だったのだ。シャツの襟や袖、ブランドタグ、ブレザーのラペル、MA-1の袖など巨大な服のディテールが、それぞれ服に再構築されている。シャツの襟はスカートかワンピースになり、ブレザーのラペルはそれだけでアウターになっている。ブランドタグは、身体全体を覆うぐらいのビッグサイズになっていて、ブランケットに様変わりしている。

 

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 今回のコレクションでANREALAGEは、服の造詣をテーマにしていた時期に原点回帰したような印象を受けた。ANREALAGEは 2009S/S"○△□"で、人の体ではなく幾何学形にあわせた服や、2010A/W"WIDESHORTSLIMLONG"で服を横に引き伸ばしたりした服で服の形状について問いかけている。パリコレ10回目で、服の細部や形にこだわるアプローチに原点回帰したANREALAGE。ANREALAGEデザイナーの永邦彦は、第6回LVMHプライズに選出されている。ダブレットにつづいて受賞してほしいな。

 個人的には2009S/S"○△□"とか2010A/W"WIDESHORTSLIMLONG"みたいなアプローチが凄く好きだ。ボールの形に合わせて作られたボールシャツも持っている。このアプローチのANREALAGEに期待したい。2019-20 A/Wは買おうかな。