日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

学生運動を背景とした青春小説まとめ

学生運動を背景とした青春小説

学生運動は、昔の日本で盛んに行われていた社会現象だ。日米安保条約の反対闘争やベトナム戦争の反戦運動など、全国的に行われていた。東京大学の安田講堂事件など、有名な事件も多い。中には、過激派の内ゲバが発生して、死傷者が出たこともあった。

学生運動は昭和を代表する出来事だが、その影響は小説にも表れている。小説自体が時代の雰囲気を反映しているものだから、学生運動を描いた小説は数多くある。そんな、学生運動をモチーフとした小説を紹介したい。

 

 

パルタイ

〈革命党〉に所属している〈あなた〉から入党をすすめられ、手続きのための〈経歴書〉を作成し、それが受理されると同時にパルタイから出るための手続きを、またはじめようと決心するまでの経過を、女子学生の目を通して描いた表題作。

ちょっと変わった二人称小説。 

 

 

されどわれらが日々 / 柴田 翔

1955年、共産党第6回全国協議会の決定で山村工作隊は解体されることとなった。私たちはいったい何を信じたらいいのだろうか。
「六全協」のあとの虚無感の漂う時代の中で、出会い、別れ、闘争、裏切り、死を経験しながらも懸命に生きる男女を描き、60~70年代の若者のバイブルとなった青春文学の傑作。第51回芥川賞受賞作品。

されどわれらが日々 』は1950年代末が舞台の小説だ。語り手の「私」こと文夫は東京大学大学院程に在籍中で、まさに「知識人予備軍」。文夫には節子という婚約者がいる。エリートの文夫と対照的な生き方をしている登場人物として佐野という男性が描かれている。彼は共産党員で、大学時代は「山村工作隊」として地下に潜っていた。しかし彼は後に自殺したのである。佐野を自殺に追い込んだのは、「六全協」だ。

六全協とは、1955年7月の日本共産党第六回全国協議会のことで、この会議を機に日本共産党は、「武装闘争」を放棄して、議会を重視した方針に変更した。「武力闘争」という生活の中心を失い、虚無感に襲われた佐野は自殺を選んだのだ。文夫と節子は佐野の死に衝撃を受け、自分の人生に後ろめたさを感じるのである。『されどわれらが日々』は、「革命に命をかける人もいる中で、自分は知識人として生きるだけでいいのか」というという問いを突きつけているのである。

 

 

赤頭巾ちゃん気をつけて / 庄司 薫

学生運動の煽りを受け、東大入試が中止になるという災難に見舞われた日比谷高校三年の薫くん。そのうえ愛犬が死に、幼馴染の由美と絶交し、踏んだり蹴ったりの一日がスタートするが―。真の知性とは何か。戦後民主主義はどこまで到達できるのか。青年の眼で、現代日本に通底する価値観の揺らぎを直視し、今なお斬新な文体による青春小説の最高傑作。

赤頭巾ちゃん気をつけて』は、庄司薫の作品で、第61回芥川賞を受賞しベストセラーにもなった小説だ。

東大入試が中止になるという災難に見舞われた薫くんのツイてない一日が綴られた小説だ。『ライ麦畑でつかまえて』を彷彿とさせるような、口語体の斬新な文体が用いられていることでも話題になった。主人公の薫くんの視点から描かれているのは、知性の危機と大衆消費社会の興隆、そして「優しさ」が失われてしまうことへの危惧だ。

 

 

 僕って何 / 三田 誠広

僕って何 (河出文庫)

田舎から上京し、学園闘争真っ只中の大学に入学した僕。受験勉強の他に何も知らない母親っ子の僕が、いつの間にかセクトの争いや内ゲバに巻き込まれ、年上の女子学生・レイ子と暮らすことになる…。僕って何?青春の旅立ちを描いた、芥川賞受賞の永遠の青春小説。

三田誠広の『僕って何』は学生運動を冷ややかな目で見ている小説で、過熱する学生運動やその空疎さを皮肉交じりに描いている。この小説は学生運動そのものが主題というわけではなくて、主人公の「僕」が「B派」というセクトに身を置き、セクト争いに巻き込まれる中で、自らのアイデンティティを模索するというのがあらすじだ。

「僕」は学生運動にのめり込んでいるという訳ではなく、部活やサークルの延長線上で、学生運動に参加しているに過ぎなかった。「僕」にとってセクトとは自らのアイデンティティを保つための装置にしか過ぎないのだ。「僕」が求めていたのは、自分を認めてくれる場所だった。コミュニティのとしての学生運動や派閥を描いているのが面白いなと思う。

 

 

優しいサヨクのための嬉遊曲 / 島田 雅彦

千鳥姫彦はもどかしい。大学のサークルでのサヨク=左翼活動では成果があがらず、美少女みどりとの恋は思い通りに進まない。とまどうばかりの二十代初めの混沌とした日々を、果てしない悪ふざけでごまかしながら漂い続ける姫彦と友人たち。若く未熟であるがゆえに、周囲との距離感が測れず、臆病で自虐的にならざるをえない――、そんな孤独な魂たちが、きらめく言葉の宇宙に浮遊する。

 サヨクの面が注目されがちな「嬉遊曲」だけれども、メインストーリーは千鳥姫彦と逢瀬みどりとの恋愛模様だ。二人の恋愛はどこか作り物めいていて、内面がなく軽薄な感じがする。千鳥は悩むことなんかないように見えるが、最後の最後にみどりに見抜かれる。「考えるっていうのはなやむことなのよ。悩んだり、苦しんだりしたくなかったら考えない方がいいんですって」著者いわく「青春小説を装ったポルノ小説」。

 

 

ノルウェイの森 / 村上 春樹

 

 

 タペストリーホワイト / 大崎 善生

「明日もあなたは私を愛してくれているのでしょうか?」学生運動華やかなりし70年代初頭。愛する姉を内ゲバで失った洋子は、札幌から上京し、姉の恋文の相手を探すが…。愛する者たちを喪い、打ちのめされながら、それでも前へ進んでいく主人公。キャロル・キングの名曲が全編を彩る、喪失と再生の物語。

 

 

番外編・大地のゲーム / 綿矢 りさ

二十一世紀終盤。かの震災の影響で原発が廃止され、ネオンの煌めく明るい街を知らないこの国を、新たな巨大地震が襲う。第二の地震が来るという政府の警告に抗い大学の校舎で寝泊まりを始めた学生たちは、カリスマ的〈リーダー〉に希望を求めるが……極限状態において我々は何を信じ、何を生きるよすがとするのか。大震災と学生運動をモチーフに人間の絆を描いた、異色の青春小説。

 『蹴りたい背中』で有名な綿矢りさの、異色の青春小説。この本は今まで紹介した本とは毛色が違って、実際の学生運動ではなく未来の学生運動を描いた小説でもあり、震災小説にもなっている。巨大震災に襲われる未来の日本を舞台に、極限状況や狭いコミュニティでの人間関係をあぶり出している。

 

 

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