日々の栞

本、映画、ファッションについて気ままに書く。理系の元書店員。

本当に怖いものは... / 『鏡』 村上 春樹

村上春樹版「世にも奇妙な物語

鏡にはこの世でないものを移すと言われていて、心霊話によく出てくる題材だ。この村上春樹「鏡」はそう言う類の怖い話ではなく、別の意味での怖さがある話だ。『鏡』は、来客が次々と怖い話を語り合う会で、主催者が最後に自分の話を語るという体裁になっている。このスタイルは村上春樹の別の短編『7番目の男』と共通している。こんな話だ。語り手の「僕」は高校を卒業したあと肉体労働をしながら放浪生活を送っていた。その事件は中学校に夜警の仕事をしていた時に起こった。夜3時の見回りをした時に、「僕」は暗闇の中で何かの姿を見かける。それは鏡の中の「僕」だった。

しかし、鏡の中の「僕」は単なる鏡像ではなく、「僕」とは異なるものだった。そう、鏡の中の僕は僕ではなかったのだ。「僕」は恐怖に駆られ、鏡を割って逃げてしまう。しかし、そんな鏡は中学校にはなかった。その影響で「僕」の家には鏡が置かれていない。

 

読んでみると、3時の見回りの部分は「僕」が見た夢のように思える。「僕」は夢の中で、自分自身のもう一つの面に向き合ったとも解釈できる。あるいは鏡を通じて「死の世界」を覗き込んだとも。僕の解釈は現実的にもうひとりの自分に向き合ったものだというものだ。人には、自分が認識もしていなかった別の面があると思う。そんな別の面に気付いてしまうという怖さを描いているのではないか。幽霊よりも怖いのは、自分自身だったりするのだ。

 

 

カンガルー日和 (講談社文庫)

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