日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

日本三大奇書、あるいは第四、第五の奇書

日本三大奇書という言葉は本好きではない人でも聞いたことがあるのではないだろうか。日本三大奇書とは、『ドグラ・マグラ』を筆頭に、日本の推理小説におけるアンチミステリの傑作とされる三つの小説の総称だ。その三つの小説とは『ドグラ・マグラ』『黒死館殺人事件』『虚無への供物』。メタ構造、ペダンチック、ミステリへのアンチテーゼなど独特な雰囲気が醸し出された小説だ。その三大奇書の影響を色濃く受けた第四の奇書『匣の中の失楽』もあって、三大奇書とまとめて日本四大奇書とも言われる。

最近でも第五の奇書と呼ばれるんじゃないかなと思える小説も出てきている。三大奇書とその系譜に連なる問題作ミステリを紹介したい。

 

 

一度は聞いたことがある!?日本三大奇書

まずは三大奇書から紹介したい。

 

読むと気が狂う!?『ドグラ・マグラ』

僕はいったい何者なんですか!?大正末期の九州大学精神科病棟。記憶喪失の青年と彼を見守る法医学教授。青年の脳裏に眠る迷宮入りの怪事件を巡り、精神科教授が謎の死を遂げ、怪奇なる因縁に彩られた殺人事件が次々と巻き起こる。怪奇と幻想の色濃い作風で名高い夢野久作の代表作。

三大奇書で真っ先に名前が挙がるのが『ドグラ・マグラ』だろう。もう、本の表紙からして危ない香りが漂っている。読むと気が狂うと言われている。けれど、『ドグラ・マグラ』を読んだ友人は全員ぴんぴんしているので大丈夫。精神疾患や入れ子構造が合わさって、よくわからないことになってくる。

 

 

ペダンチック過ぎて読み切れない!?『黒死館殺人事件』

 黒死館の当主降矢木算哲博士の自殺後、屋敷住人を血腥い連続殺人事件が襲う。奇々怪々な殺人事件の謎に、刑事弁護士・法水麟太郎がエンサイクロペディックな学識を駆使して挑む。江戸川乱歩も絶賛した本邦三大ミステリのひとつ、悪魔学と神秘科学の結晶した、めくるめく一大ペダントリー。

ミステリーそっちのけで、神秘主義や呪術、暗号学の蘊蓄で満ち溢れている。あまりの蘊蓄の多さに読み通すのが困難になっている。

 

 

 激しい推理合戦が繰り広げられる『虚無への供物』

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

 

 昭和二十九年の洞爺丸沈没事故で両親を失った蒼司(そうじ)・紅司(こうじ)兄弟、従弟の藍司(あいじ)らのいる氷沼(ひぬま)家に、さらなる不幸が襲う。密室状態の風呂場で紅司が死んだのだ。そして叔父の橙二郎(とうじろう)もガスで絶命――殺人、事故?駆け出し歌手・奈々村久生(ななむらひさお)らの推理合戦が始まった。

洞爺丸沈没事故で不運に見舞われた氷沼家で殺人事件が続発する。主人公たちが推理合戦を繰り広げていくのが『虚無への供物』の面白いところだ。各人が推理を披露していくのだが、どんどん衒学的な推理になっていき、最後には混迷を迎える。

 

 

第四の奇書

 

オマージュに満ちた第四の奇書『匣の中の失楽』

三大奇書へのオマージュに満ちたアンチミステリ。第四の奇書と呼ぶにふさわしい小説。

 

 

じゃあ第五の奇書は何?

今では第四の奇書までが定番になっているけれど、第五の奇書と呼ぶのにふさわしい小説はないのだろうか。個人的に第五の奇書候補を以下に上げてみた。まずは「第4'の奇書」とでもいえそうな小説から紹介

 

『匣の中』

探偵小説愛好家グループの中心人物・伍黄零無が謎の言葉を残して密室から消失。その後もグループの一員・仁行寺馬美が書くモデル小説どおりに密室殺人が連続する。衒学的な装飾と暗号。推理合戦の果てに明かされる、全世界を揺るがす真相とは!?新本格の聖典『匣の中の失楽』に捧げる華麗なるオマージュ。

『イニシエーション・ラブ』で有名な乾くるみの小説。タイトルの『匣の中』から分かるように、第四の奇書『匣の中の失楽』を意識した作品となっている。

 

 

 『奇偶』

奇偶(上) (講談社文庫)

奇偶(上) (講談社文庫)

 

 偶然をテーマにした奇書。

 

 

 『綺想宮殺人事件』

綺想宮殺人事件

綺想宮殺人事件

 

琵琶湖畔に佇む壮大な異形建築・綺想宮。四大精霊の呪文と天地創造の七日間を表わす音楽に導かれて起きる連続見立て殺人の真相とは――最後の探偵小説、あるいは探偵小説の最期。

 

 

コズミック 世紀末探偵神話

本格ミステリ史上、最もバッシングを受けた鬼才のデビュー作。メフィスト賞の性格を決定づけ、後の作家に絶大な影響を与えた超問題作。1200の密室で1200人が殺されるという、密室卿を名乗る正体不明の人物からの犯罪予告が届く。1200年間、誰にも解けなかった密室の秘密を知ると豪語する密室卿の正体とは何か。JDC(日本探偵倶楽部)きっての天才にして、名探偵をも超越したメタ探偵・九十九十九が挑む! 

 本格ミステリ史上、最もバッシングを受けたと言われるのが清涼院流水の『コズミック』だ。メフィスト賞がイロモノ作品のための賞と言われるようになった原因でもある。1200の密室で1200人が殺されるという時点で雲行きが怪しい。1200の密室とか、密室のインフレがすごい。登場する探偵も、名探偵をも超越したメタ探偵・九十九十九とあってクセが強い。

 

 

ジョーカー

ジョーカー―旧約探偵神話 (講談社ノベルス)

ジョーカー―旧約探偵神話 (講談社ノベルス)

 

究極の連続不可能犯罪を企む天才犯罪者が、陸の孤島で「幻影城殺人事件」を演出する。作家・江戸川乱歩と同じ本名を持つ富豪が、生涯を賭して築いた幻影城。美しい湖の小島に浮かぶ紅の城は、様々な趣向が凝らされた「異形の館」である。推理作家たちが秘境を訪れる。――老いた探偵が惨劇に引き寄せられた時、舞台は整い、物語が始まる。すべてのミステリの総決算!

 

 

 九十九十九

「苦しさを感じるなら、僕なんて愛さなくていいんだ」 聖書や創世記などの見立て連続殺人を主旋律に踊る、世界をゆるがす超絶のメタ探偵の魂の旅。ダンテの「神曲」をイメージさせる圧倒的なスケール感で迫る。

 

 

ディスコ探偵水曜日

迷子専門の米国人探偵ディスコ・ウェンズデイは、東京都調布市で、六歳の山岸梢と暮らしている。ある日、彼の眼前で、梢の体に十七歳の少女が〈侵入〉。人類史上最大の事件の扉が開いた。魂泥棒、悪を体現する黒い鳥の男、円柱状の奇妙な館に集いし名探偵たちの連続死──。「お前が災厄の中心なんだよ」。ジャスト・ファクツ! 真実だけを追い求め、三千世界を駆けめぐれ、ディスコ!!

純文学のフィールドでも活躍している舞城王太郎の問題作が『ディスコ探偵水曜日』だ。この小説も現代版日本三大奇書を選ぶなら間違いなくランクインするだろう。その内容はとにかく破天荒の一言に尽きる。後半にいくにつれて既存の物理法則が破壊され、壮大なスケールの話になっていく。ゼロ年代を代表するメタフィクションの傑作。

 

 

 『夏と冬の奏鳴曲』

首なし死体が発見されたのは、雪が降り積もった夏の朝だった!20年前に死んだはずの美少女、和音の影がすべてを支配する不思議な和音島。なにもかもがミステリアスな孤島で起きた惨劇の真相とは?メルカトル鮎の一言がすべてを解決する。

麻耶雄嵩の小説というだけですでに問題作なのだけれど、『夏と冬の奏鳴曲』は麻耶雄嵩の中でも最大の問題作だ。作中を彩るキュビズムの衒学的な話といい、小説の構成といい、トリックの馬鹿馬鹿しさといい、奇書に相応しい問題作。特に密室トリックは唖然とするしかなかった。こんなに呆気にとられた密室トリックはないだろう。

最後のカタルシスというか、今までの展開を完全にひっくり返すカタストロフィーは見もの。この本を読んだ10人中9人ぐらいは怒りだしそうだな。ミステリの解答編はカットされているので、ミステリの真相は自分で解釈して見つけないといけないことになっている。解釈サイトをみないとさっぱり意味が分からなかった。

 

 

 天帝のはしたなき果実

勁草館高校の吹奏楽部に所属する古野まほろは、コンテストでの優勝を目指し日夜猛練習に励んでいた。そんな中、学園の謎を追っていた級友が斬首死体となって発見される。犯人は誰か?吹奏楽部のメンバーによる壮絶な推理合戦の幕が上がる!

 

 

神戯-DEBUG PROGRAM-Operation Phantom Proof 』 

神戯-DEBUG PROGRAM-Operation Phantom Proof (講談社BOX)

神戯-DEBUG PROGRAM-Operation Phantom Proof (講談社BOX)

 

深夜、おれが学院の屋上で出会ったのは、重装の美少女だった。トーマと名のる彼女は、愛くるしい転校生と同一なのか?徘徊する白き殺人姫とは、この絶対の美少女なのか?部長、武藤天馬以下学院新聞部の“Operation Phantom Proof”のさなか謎は、雪原の死霊館での忌まわしき大量殺人事件へと至る。第2回講談社BOX新人賞Powers受賞作。