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スペインの雨はどこに降る?/ 『スペインの雨』 佐藤 正午

『月の満ち欠け』で直木賞を受賞し注目を集める佐藤正午の短編集

 

知る人ぞ知る作家・佐藤正午直木賞受賞で注目を集めている。直木賞の授賞式は欠席したらしいが。『スペインの雨』はそんな佐藤正午の短編集だ。佐藤正午本人を思わせるような小説家を主人公に据えた短編が収録されている(「ジョン・レノンが撃たれた日」、「恋」、「木にのぼる猫」、「コンドーム騒動」、「ほくろ」、「ルームメイト」)。私小説のようなテイストの短編が多く収録されている。その他には「いつもの朝に」、「クラスメイト」、テレクラを通じての人妻との出会いと別れを「スペインの雨」が収録されている。感傷的な雰囲気が漂う短編集。

 

小説が生まれる舞台裏

「木にのぼる猫」、「コンドーム騒動」、「ほくろ」では主人公が友人からネタとなる奇妙な話を仕入れたり、巻き込まれながらも、それを小説に仕立てている様子が描かれている。この短編を読んでいると、小説が生まれる舞台裏を覗き込んだような気分になる。まるで映画製作の過程そのものを映画にした、フランソワ・トリュフォーの『アメリカの夜』ようだ。小説のそのもののストーリーに加え、小説が生まれる背景が描かれていて味わい深くなっている。個々のエピソードもありきたりの話じゃなくて面白い。特に「コンドーム騒動」での主人公が女の店員からコンドームを買うのに怖気ついて、必要でもない風邪薬を一緒に買ってしまうのには深く同意してしまう。分かる分かるあの気まずさ。

 

スペインの雨

この短編集で一番好きなのはやっぱり「スペインの雨」。「スペインの雨はどこに降る?」「平野に。おもに平野に。」のセンスにしびれる。テレクラでの人妻との会話もそれぞれ面白い。スマートフォンが普及し、出会い系のアプリが普及している現在ではテレクラというのがアナログ的でノスタルジックに感じられる。今となってはテレクラというものが信じられないというか、そんなものもあったんだなってなる。人妻との出会いと別れが、村上春樹を彷彿とさせる文体で感傷的に綴られた名作。この感傷さを味わいたくなる時がふと訪れて何度も読み返してしまう。

 

スペインの雨 (光文社文庫)

スペインの雨 (光文社文庫)

 

 

月の満ち欠け 第157回直木賞受賞

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