イメージの反復
女の肉体に眺め入る。麻薬や人身売買が横行し、スパイが暗躍する英領香港の一郭、青い館が催す夜会。そこで出会った娼婦を手に入れるため金策に走り出す。一方では老人の不可解な死…あざやかな幻覚が紡ぎ出すエロティシズムの体験。小説の枠を解き放ち新しい小説の旗手となった、ロブ=グリエの代表作。
『快楽の館』はヌーヴォー・ロマンを代表する作家:アラン・ロブ=グリエの小説だ。
この『快楽の館』はタイトルからするとただの官能小説のように見えるが、人を選ぶ前衛小説となっている。青い館で行われる夜会と舞台、老人の不可解な死、女を手に入れるために奔走する男。謎に惹きつけられてページをめくっていくが、さらに謎が深まり、真実は一つにならず、色々な解釈が生まれる。決してミステリーのように一つの真相に至らない。
一人称は「ぼく」のはずなのに、知りえないはずの光景まで記述されてゆく。まるで夢を見ているよう。そして「意識の流れ」の技法が使われていて、思考がとりとめもなく流れていく。小説内で起こる出来事は時系列に並べられることを拒絶し、ただイメージや場面が反復されてゆく。ある場面が複数の視点で繰り返し描かれている。ロブグリエが脚本を担当した『去年、マリエンバードで』のようにイメージの迷宮に迷い込んでしまう。読んでいると、出口のない迷宮に迷い込んだ気分になる小説だった。