日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

イメージが織りなす迷宮 / 『快楽の館』 アラン・ロブ=グリエ

イメージの反復

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女の肉体に眺め入る。麻薬や人身売買が横行し、スパイが暗躍する英領香港の一郭、青い館が催す夜会。そこで出会った娼婦を手に入れるため金策に走り出す。一方では老人の不可解な死…あざやかな幻覚が紡ぎ出すエロティシズムの体験。小説の枠を解き放ち新しい小説の旗手となった、ロブ=グリエの代表作。

快楽の館』はヌーヴォー・ロマンを代表する作家:アラン・ロブ=グリエの小説だ。

この『快楽の館』はタイトルからするとただの官能小説のように見えるが、人を選ぶ前衛小説となっている。青い館で行われる夜会と舞台、老人の不可解な死、女を手に入れるために奔走する男。謎に惹きつけられてページをめくっていくが、さらに謎が深まり、真実は一つにならず、色々な解釈が生まれる。決してミステリーのように一つの真相に至らない。

一人称は「ぼく」のはずなのに、知りえないはずの光景まで記述されてゆく。まるで夢を見ているよう。そして「意識の流れ」の技法が使われていて、思考がとりとめもなく流れていく。小説内で起こる出来事は時系列に並べられることを拒絶し、ただイメージや場面が反復されてゆく。ある場面が複数の視点で繰り返し描かれている。ロブグリエが脚本を担当した『去年、マリエンバードで』のようにイメージの迷宮に迷い込んでしまう。読んでいると、出口のない迷宮に迷い込んだ気分になる小説だった。

 

 

 

去年マリエンバートで(字幕版)

去年マリエンバートで(字幕版)

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