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死に憑りつかれた者たち / 『MISSING』 本多 孝好

死の香りが漂う短編集

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この『MISSING』を読んでいると、真夜中の学校のプールが思い浮かぶ。どこか寂しげな透明感があり、死の香りが漂っている雰囲気。収録されている5編全部が死と関係している。死に憑りつかれたもの、死に向き合い自分が生きた証を残そうとするもの、暗い感情に憑りつかれたもの。決して明るい話ではないのだけれども、なぜか悲壮感が漂うこともなく、むしろ透明感に満ちている。これは村上春樹を彷彿とさせるような洒脱な文体によるものじゃないかなと思う。本多孝好村上春樹に影響を受けた村上春樹チルドレンと呼ばれていて、確かにと思うほど文体的には影響を受けているように思えた。主人公の会話のユーモアさはまさに村上春樹だなと。収録作品は「眠りの海」、「祈灯」、「蝉の証」、「瑠璃」、「彼の棲む場所」。特に「眠りの海」、「蝉の証」、「瑠璃」が良かったので主にそれについて書こううかなと。以下内容に触れるので注意!

 

彼女の深意は?「眠りの海」

小説推理新人賞を受賞した短編。彼女を交通事故で亡くした主人公が自殺に失敗したところから始まる。恋人と過ごした日々を回想しているうちに、交通事故の真実に気付いていく。二人の気持ちが重ならないことの切なさ、人を愛することの複雑さがミステリーと絡めて描かれた秀作。最後にちょっとしたどんでん返しがある。

 

自分が生きた証 「蝉の証」

この短編集で一番印象に残った作品。人は自分が生きた証を残したいから、芸術作品や偉業を成し遂げたりしようとするのだろうか。「蝉の証」は死を目前にして、生きた証を残すことに憑りつかれた老人の話である。

 

「蝉があんなにうるさい声で鳴くのはきっと、一夏しか生きられないからなんだね」

 

 

 

 

劇中のこの一節が凄く心に響く。この作品で扱われたテーマは『MOMENT』『真夜中の5分前』などにひきつがれているかなとも思った。

 

感受性が損なわれていくことの悲しさ 「瑠璃」

限定されたある特別な時期にしか持つことを許されない感受性がある。自分がその感受性をすでに失ってしまったことに気づいてしまうことは本当に哀しい。「瑠璃」は二度と戻ることのないもの、決して戻ることのできない時期を失ってしまうことに上手く順応できなかった「女の子」についての話。失われていく様子は物悲しくもあり、美しくもあった。

 

 

 

 

MISSING (角川文庫)

MISSING (角川文庫)

 

 

 

人はみな孤独な旅人 / 『スプートニクの恋人』 村上 春樹

恋愛の痛みと不条理さを描いた『スプートニクの恋人

 

 22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。それは行く手のかたちあるものを残らずなぎ倒 し、片端から空に巻き上げ、理不尽に引きちぎり、完膚なきまでに叩きつぶした。そして勢いをひとつまみもゆるめることなく大洋を吹きわたり、アンコール ワットを無慈悲に崩し、インドの森を気の毒な一群の虎ごと熱で焼きつくし、ペルシャの砂漠の砂嵐となってどこかのエキゾチックな城塞都市をまるごとひとつ 砂に埋もれさせてしまった。みごとに記念碑的な恋だった。

 

 印象的な恋の比喩で始まる『スプートニクの恋人』。この冒頭が示すように、『スプートニクの恋人』は全編比喩が過剰に使われた、かなりリリカルな小説である。一般的に比喩表現が多い村上春樹作品だけど、特に『スプートニクの恋人』は比喩表現が多い。村上春樹の長編小説は一通り読んだけれど、スプートニクの恋人の文体が一番リリカルじゃないかなと思う。しかも、その一つ一つがお洒落で秀逸すぎる。特に冒頭の比喩には痺れた。感傷的な恋愛小説にはリリカルな文体がよく似合う。
スプートニクという言葉は旅の同伴者と孤独な衛星を表す。スプートニクの恋人というタイトルが表すのは、人は究極的には孤独であるということなのかもしれない。スプートニクは旅の同伴者と同時に、孤独な衛星、分かり会えない孤独な人々を意味している。スプートニクの恋人ビートニクスプートニクと間違えた事に由来している。ビートニクを代表する作家・ジャック・ケルアックの作品に「孤独な旅人」というのがある。この繋がりに気付いたとき鳥肌がたった。人はどこにも行けない状況であろうとも、自分が損なわれようとも、それを抱えて生きなけばならない。喪失と孤独にどう向き合うか。この小説の一部分は短編小説の『人食い猫』からきている。

スプートニクの恋人ノルウェイの森 

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

 

 

この『スプートニクの恋人』で重要な要素として、にんじんの存在がある。にんじんは『あちら側』の世界に片足を突っ込んでいる主人公をこちら側に繋ぎとめる役割を果たしている。『ノルウェイの森』でいう緑のような存在だ。最後の電話のシーンは『ノルウェイの森』を彷彿とさせる。『スプートニクの恋人』は『ノルウェイの森』の一つの変奏と言えると僕は思っている。
 
スプートニクの恋人 (講談社文庫)

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

 

 

 

めくらやなぎと眠る女

めくらやなぎと眠る女

 

 

村上春樹のセルフオマージュ / 『騎士団長殺し』 村上 春樹

 村上春樹の総集編とも言える『騎士団長殺し

謎めいたタイトルと内容が明かされないことで同発売前から大きな注目を集め、発売当日には長蛇の列ができるなど、注目を集めている村上春樹の最新長編小説 『騎士団長殺し』。どこの書店に行っても『騎士団長殺し』が山積みになっていて、村上春樹の人気の凄さを感じる。僕も村上春樹が好きで(ハルキストと言われるのは嫌いだが)、長編小説なら全部、短編小説なら大半を読んでいる。発売から一か月経ち、ちらほらと評論家の批評が出てきている。僕も読み終わったので、感想というか考察を書こうと思う。読み終わってまず思ったのが、『騎士団長殺し』は村上春樹セルフパロディだなということだ。実際に『騎士団長殺し』では、これまでの村上春樹作品や村上春樹が翻訳した海外作品に出て来たモチーフがたくさん使われていて、村上春樹オールスターみたいな内容となっている。これまでの村上春樹作品を読んでいる人ならかなり楽しめるのではないだろうか。また、人称が、『海辺のカフカ』・『1Q84』の時の三人称から、初期作品で使われていた一人称(「僕」ではなく「私」だが)になっていて、雰囲気も初期作品に近いものになっている。特に『ねじまき鳥クロニクル』に雰囲気が近いなと感じた。僕はねじまき鳥クロニクルぐらいまでの初期作品が好きなので、『騎士団長殺し』はかなり好きだなと。以下ネタバレを含むので、未読の人はお気をつけて。

 

 

村上春樹版『グレート・ギャツビー』!?不思議な隣人「免色」

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 (文春文庫)
 

 

 

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

 

 本作の主要な登場人物である免色は『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』のタイトルを彷彿とさせる。色を免れるとあるように、免色は髪の毛が綺麗な白色となっている。この髪の毛が白色という設定は『スプートニクの恋人』で一晩で白髪になったミュウを彷彿とさせる。免色は主人公の「私」が住む雨田具彦の家の真向かいに住む謎の富豪である。この向かいに住む謎の富豪という設定はきっと『グレート・ギャツビー』のジェイ・ギャツビーのオマージュだろう。この『グレート・ギャツビー』は村上春樹が翻訳していて、ノルウェイの森の中でも出てくる。村上春樹がお気に入りの小説だ。

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

 

妻に去られるという設定といい、特にねじまき鳥クロニクルに雰囲気が近い。主人公が画家というのは今までになくて、作中で語られる絵画論はそのまま小説論としても読み解けそうだな。肖像画専門というのは、レンブラントを彷彿とさせる。顕れたイデアが何を意味するのか。

 

 

二重メタファー

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

 

 メタファーに、二重メタファーと謎めいた存在が出てくる。地下世界の部分は『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』を彷彿とさせる。二重メタファーはジョーオーウェルの二重思考からヒントを得ているのか。

 

 

 なかなかエロい『騎士団長殺し

 

 

いつもの村上春樹作品に較べて変珍なエロが多め、「エロと怪異ときどきごはん」の連続なのだ。

 

引用元:村上春樹秘宝館『騎士団長殺し』がエロ満載なわけ - エキレビ!(1/3)

 

米光一成さんが面白い記事を書いている。引用したように、『騎士団長殺し』はなかなかエロい。性描写が多いことで知られている村上春樹作品だが、その中でも『騎士団長殺し』は多い方じゃいないかなと思う。個人的には『ノルウェイの森』が一番性描写が多いと思うのだけど、それに匹敵するんじゃないかな。そして性描写のレパートリーが多い。まず上巻開始わずか17ページで主人公が人妻と関係を持つという。これには思わず笑ってしまった。展開が早すぎるぞ。あとテレフォンセックスというのもでてくる。

 

騎士団長殺し』と東日本大震災

 

 様々なモチーフが盛りだくさんの物語のわりには、作家が書き残したことが多いという読後感が残った。例えば東日本大震災については最後に出てくるだけだし、難民や排外主義など現代世界が向きあっている大きな問題は書かれていない。 

 引用元:

村上春樹新作を読む 『騎士団長殺し』3識者に聞く|エンタメ!|NIKKEI STYLE

 

この記事で翻訳家の鴻巣友季子さんが述べているように、『騎士団長殺し』では東日本大震災への言及が少ない。東日本大震災が『騎士団長殺し』中に出てくるのは、二巻の最終章であり、しかもサラッと触れられるだけである。この程度の言及であれば作品中に出さなくても良かったんじゃないかなと考えてしまう。もう少しストーリーに絡めて言及する必然性があれば良かったんだけど...唐突に出てきた感が否めない。もっと掘り下げて書くべきだったのではないかと思う。

 

 果たして第3部はあるのか!?

1Q84 BOOK 3

1Q84 BOOK 3

 

 今までの『1Q84』や『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』などの作品に比べて物語が収束して、円団を迎えている。続編はなくてもいいような気がするけど、エピローグがないからやっぱり第三部は存在するのかな。

 

 

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

 
 
騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

 

 

『ノルウェイの森』が好きな人におススメの小説

ノルウェイの森』みたいな小説が読みたい!

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

 

 『ノルウェイの森』は赤と緑の表紙が印象的な言わずと知れた村上春樹の代表作だ。タイトルはビートルズの名曲「ノルウェイの森」から来ており、主人公ワタナベと直子、緑の恋愛模様を通じて生と死、喪失と再生を叙情的に描いている。暗い内容、性描写の多さから人を選ぶが、世界観に共感する人は深く心を揺り動かされる小説になっている。この小説は単行本と文庫本を合わせると1000万部以上売り上げている。恋愛の痛みや喪失感をここまで描き切った作品は『ノルウェイの森』ぐらいしかないんじゃないだろうか。そんな響く人には響く村上春樹の『ノルウェイの森』だが、心に響いた人は『ノルウェイの森』のような感傷的な小説が読みたくなることがあると思う(実体験)。そこで『ノルウェイの森』のような、恋愛の喪失感を叙情的に描いた小説をちょっとまとめてみた!まずは村上春樹作品から『ノルウェイの森』に似た系統の作品を紹介!

 

『螢』

螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)

螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)

 

まずは『螢・納屋を焼く・その他の短編』から「螢」という短編を紹介したい。『蛍』は『ノルウェイの森』の原型となった短編小説で、『ノルウェイの森』の第2章、第3章にあたる。『ノルウェイの森』はこの『螢』を下敷きに膨らませた小説となっている。『蛍』にはワタナベや直子といった登場人物は出て来ず、『僕』や『彼女』となっている。短編と長編の違いを楽しむのも良いかも。

 

 

スプートニクの恋人

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

 

  こちらは村上春樹の長編作品。この『スプートニクの恋人』はノルウェイの森』の変奏といえる小説となっている。比喩が過剰に使われた文体で綴られていて、スプートニクは旅の同伴者と同時に、孤独な衛星、分かり会えない孤独な人々を意味している。「ぼく」やすみれ、ミュウはそれぞれに喪失と孤独を抱え、向き合っている。『ノルウェイの森』と関連させて読むと解釈が深まるかも。

 

 

ここからは村上春樹ではなく別の作家の作品を紹介!村上春樹チルドレンと呼ばれる作家の小説が割と多め。

 

パイロット・フィッシュ』

パイロットフィッシュ (角川文庫)

パイロットフィッシュ (角川文庫)

 

過去の恋愛が心に引っかかっている 主人公。『ノルウェイの森』と同様に生と死について描かれている。

 

 

秒速5センチメートル

 『君の名は。』で注目を集めている新海誠が『秒速5センチメートル』を自らノベライズ。雑誌のインタビューでも村上春樹に影響を受けたと語っている新海誠監督。この『秒速5センチメートル』は新海誠が注目を集めるきっかけとなった作品で、新海誠版『ノルウェイの森と言える作品だ。この小説版では映画では詳しく描かれなかった最終章が深く掘り下げて描かれている。タイトルが意味するのは桜の花びらが落ちるスピードのことである。時間とともに移ろいゆく貴樹と明里の二人の心の距離を叙情的に描いている。貴樹は失われた過去の恋愛の呪縛から逃れることが出来ず、自己愛ゆえに周りの人を傷つけてしまう。この『秒速5センチメートル』では、過去の恋愛を引きずり、感傷に浸る自分に陶酔している姿を、叙情的な映像と村上春樹的なモノローグで極限まで美しく描いている。自己陶酔を受け入れてくれるから、この『秒速5センチメートル』は多くの人に愛されているのかなと思う。ちなみに『秒速5センチメートル』は男子には凄くはまるみたいだけど、女子にはあまりうけが良くない(主人公うじうじしすぎとか)。男子には影響が大きく、『秒速5センチメートル』を観たり、読んだりしたあとにポエマー(詩人)になってしまった男子が多数報告されている。

 

 『言の葉の庭

 

 『秒速5センチメートル』に引き続いて、こちらも新海誠の映画のノベライズ。こちらも随所に村上春樹ぽさが漂っている。『ノルウェイの森』では印象的な雨のシーンが多いが、この『言の葉の庭』も雨が重要な要素となっている。ちなみに『ノルウェイの森』の最初のタイトルは「雨の中の庭」というものだったらしい。これは偶然かな。

 

 

『真夜中の五分前』

真夜中の五分前―five minutes to tomorrow〈side‐A〉 (新潮文庫)

真夜中の五分前―five minutes to tomorrow〈side‐A〉 (新潮文庫)

 

 こちらも村上春樹に影響を受けた作家・本多孝好の作品。村上春樹チルドレンの一人とよく言われている。読んでいると村上春樹の影響がひしひしと感じられる。文体や比喩、モチーフに至るまで村上春樹の影響が見られる。双子が出てくるあたりは、『1973年のピンボール』を彷彿とさせる。恋人を失った主人公の喪失と再生をミステリー的な要素も絡めて描いた新感覚の小説だ。ミステリー的な『ノルウェイの森と言えるかも。恋人を交通事故で失った「僕」は一卵双生児のかすみに出会う。この出会いがきっかけで「僕」は新しい一歩を踏み出すことになるのだが運命の輪は「僕」を奇妙な世界に追いやる。最後には驚愕のエンディングが待ち受けている。真夜中の5分前というタイトルや5分が意味することがとてもお洒落。偶然かもしれないけど、新海誠の『秒速5センチメートル』といい、数字を効果的に使っていく点で共通している。

 

 『四月になれば彼女は』

四月になれば彼女は

四月になれば彼女は

 

 失われてしまった恋、冷めてしまった恋、人を愛するということは何かといった、愛に関する哲学をお洒落に描いた恋愛小説。言い回しの随所に村上春樹ぽさが感じられる(~たのは~の頃だったみたいな言い回しとか比喩の部分)。村上春樹に影響を受けたかどうかについての記事やインタビューがないので本当のところは分からないけど、読んだ感じから『四月になれば彼女は』は村上春樹の影響下にあると勝手に思っている。

 

 

『プールの底に眠る』

プールの底に眠る (講談社文庫)

プールの底に眠る (講談社文庫)

 

 こちらはメフィスト賞を受賞した白河三兎のデビュー作。金沢21世紀美術館の「スイミング・プール」という作品(プールの底から上をのぞき込める体験型のアート)に着想を得て書かれたらしい。随所に村上春樹ぽさが感じられる。ミステリーだけに収まらない名作!

 

 

 『ラヴレター』

ラヴレター (角川文庫)

ラヴレター (角川文庫)

 

 日本を代表する映画監督・岩井俊二の名作を本人が小説化。奇妙な文通から始まる、心揺さぶる恋物語

 

 

以上、『ノルウェイの森』が好きな人におススメの小説のまとめでした。是非是非気になる作品は読んでみて!

 

 

 

イメージの迷宮 / 『快楽の館』 アラン・ロブ=グリエ

イメージの反復

 

 

『快楽の館』はヌーヴォー・ロマンを代表する作家:アラン・ロブ=グリエの小説だ。この『快楽の館』はタイトルからするとただの官能小説のように見えるが、人を選ぶ前衛小説となっている。青い館で行われる夜会と舞台、老人の不可解な死、女を手に入れるために奔走する男。謎に惹きつけられてページをめくっていくが、さらに謎が深まり、真実は一つにならず、色々な解釈が生まれる。決してミステリーのように一つの真相に至らない。一人称は「ぼく」のはずなのに、知りえないはずの光景まで記述されてゆく。まるで夢を見ているよう。そして「意識の流れ」の技法が使われていて、思考がとりとめもなく流れていく。小説内で起こる出来事は時系列に並べられることを拒絶し、ただイメージや場面が反復されてゆく。ある場面が複数の視点で繰り返し描かれている。『去年、マリエンバードで』のようにイメージの迷宮に迷い込んでしまう。読んでいると、出口のない迷宮に迷い込んだ気分になる小説だった。

 

 

快楽の館 (河出文庫 ロ 2-1)

快楽の館 (河出文庫 ロ 2-1)

 

 

 

去年マリエンバートで [Blu-ray]

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官能的な変身譚 / 『フラミンゴの村』 澤西祐典

ある日村の女たちがフラミンゴに

 

ある日妻がフラミンゴになっていたという変身譚。有名な変身譚と比較してみると中島敦の「山月記」とは違って、村中の女達が何故フラミンゴになってしまったかという理由には触れられていない。カフカの「変身」のように、変身してしまった理由は明かされず、ただただ不条理な状況下での人間心理が描かれている。赤い鳥『フラミンゴ』というのは作中でも出てくるメーテルリンクの『青い鳥』との対比なのだろうか?カフカの変身と大きく異なるのは、変身してしまったものの目線ではなく残された男たちの目線で進行するところだ。フラミンゴ(女たち)の内面は描かれずに、男たちの狼狽している様子や、不条理な状況にいかに対応するかが描かれている。特に村八分などの極限状況での人間心理や疎外に重点が置かれているように思えた。女たちがフラミンゴになってしまった理由は最後まで明かされることなく物語の幕は閉じてしまう。不条理な状況下での人のありかたが描かれている

官能的なラストシーン

カフカの「変身」とは違って、この『フラミンゴの村』は官能的な一面も持っている。特にラストシーンは絢爛なイメージで官能的な場面が綴られている。

 

 

フラミンゴの村

フラミンゴの村

 

 

2017年はウディ・アレン監督の映画が2回も映画館で観れる

ついつい観たくなってしまうのがウディ・アレン監督の映画だ。シニカルだけどユーモアに溢れているおしゃれな映画。脱力してゆったりと観れる映画の一つだ。タイトルの通り今年はウディ・アレン監督の映画が2回も映画館で観れる!『カフェ・ソサエティ』と『アニーホール』だ!

 

『カフェ・ソサエティ』はウディ・アレンベスト級の映画だったので、言わずと知れた名作『アニーホール』もスクリーンで観れるのは非常に喜ばしい。ありがとう午前10時の映画祭!