日々の栞

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特別な日に何を願う? / 『バースディ・ガール』 村上 春樹

特別な二十歳の誕生日

バースデイ・ガール

バースデイ・ガール

 

 今日は成人の日だ。僕は自分の二十歳の誕生日についてよく覚えていない。形式的ではあるけれど、未成年から成人への境目。合法的にお酒だって飲める。二十歳の誕生日は特別なものに思えたけれど、特に何もすることなく終えてしまったように思う。本当に記憶がない。もっと特別なことをしておけば良かったかなとちょっと後悔している。

 

村上春樹の『バースデイ・ガール』はそんな特別な誕生日に起こった不思議な出来事を描いている。この短編はもともと『バースディ・ストーリーズ』という誕生日に関する小説を村上春樹自身が集めたアンソロジーに収録されたものだ。この『バースディ・ガール』に鮮烈なカット・メンシックのイラストが組み合わされて、大人の絵本として生まれ変わった。これまでに村上春樹とカット・メンシックのコラボ作品としては『ねむり』・『パン屋を襲う』・『図書館奇譚』があり、この『バースディ・ガール』は第四弾めだ。この『バースディ・ガール』でのカット・メンシックのイラストは鮮烈な赤色のトーンで統一されていて、『バースディ・ガール』の奇妙な世界感に馴染んでいる。この絵を眺めているだけでも楽しい。誕生日プレゼントとしても良さそうな本だ。この『バースディ・ガール』で描かれているのは、ある女性の二十歳の誕生日に起こった特別な事。主人公の女性は、ひょんなことでこの特別な誕生日にレストランで働くことになる。最初、主人公はシフトを入れていなかったが、同僚が寝込んでしまい、誕生日に働くことになる。客足はあんまりなかったけれど、マネージャーが突然の腹痛で病院に運びこまれるというトラブルが発生する。主人公はマネージャーから一つお願い事を託される。それは、レストランが入っているビルに住むオーナーに晩御飯を届けるというものだ。簡単な仕事に思えるが、この出来事が彼女の誕生日を特別なものに変える。

 

特別な日に何を願う?

晩御飯を届けに行き、女性は不思議な言葉遣いをするオーナーに会う。オーナーは今日が彼女の二十歳の誕生日だと知ると、何かプレゼントをあげようという。そのプレゼントというのは、ひとつ願いを叶えてあげるというものだ。そして彼女はある願い事をオーナーに伝える。その彼女の願いが何であるかは最後まで明かされない。彼女はその誕生日の出来事を回想し、「僕」と語り合う。果たして彼女の願いは叶ったのか、願ったことに後悔はないのかについても詳しい内容は明かされることはない。彼女の願いが明かされないからか、不思議な余韻をのこして『バースディ・ガール』は幕を閉じる。果たして彼女は特別な日の夜に何を願ったのだろう?「人間というのは、どこまでいっても自分以外にはなれないものだ」というセリフが凄く印象に残った。何を願っても、自分の延長線上にあるものにしかなれない。人はみな自らの人生に何か期待して、あるいは何かの願いを込めて生きているのではないか。その願いが叶ったかどうかなんて死ぬまで分からないだろう。あなたは特別な誕生日に何を願う?

 

 

バースデイ・ストーリーズ (村上春樹翻訳ライブラリー)

バースデイ・ストーリーズ (村上春樹翻訳ライブラリー)

 

 

ウディ・アレン監督『Wonder Wheel』の公開が待ち遠しい

ウディ・アレン監督の新作『Wonder Wheel』

natalie.mu

『カフェ・ソサエティ』に続くウディ・アレン監督の『Wonder Wheel』が楽しみだ。ストーリーは1950年代のコニーアイランドを舞台に繰り広げられる人間ドラマであるらしい。一年に一回のペースでウディ・アレン監督の新作を観るのが慣習になってきてる。過去の作品も大体観てしまったし、はやく新作が観たい。アメリカでは2017年12月1日に公開しているので、日本でも来年中には公開されるだろうな。ここ最近春ぐらいにウディ・アレン監督作品が公開されているので(カフェ・ソサエティ、教授のおかしな妄想殺人)、来年も春先に公開されるのだろうか。予告編を観て待機!(英語は分からないけれど)。

 

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ゲスの極み男のモラトリアム / 『個人教授』 佐藤 正午

 佐藤正午作品の中でNo1のダメ男

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いつの時代にも女にだらしないダメ男はいる。太宰治の小説にもよく出てくる。というよりも太宰治自身もそんな感じだが。女をとっかえひっかえして、挙句の果てに妊娠させてしまう。そんなダメ男が『個人教授』の主人公・松井英彦だ。佐藤正午の小説の中でもNo1のダメ男だと思う。松井英彦はとにかく女にだらしなく、色んな女性と関係を持ち、ついには妊娠させてしまう(しかも2人も!)。しかも清々しいまでに自己中心的な男で責任も取らず、休職して仕事もせず夜な夜な飲み歩いている。まさにゲスの極み。タイトルが『個人教授』となっているように、ダメ男松井英彦の師匠である「教授」という人物も出てくるのだが、こちらもダメ男である。この「教授」なる人物は定職につかず、夜な夜な飲み歩いている。「教授」と呼ばれているが、実際は教授ではなく、松井英彦が一方的に慕っていて「教授」と呼んでいるのである。この主人公・松井英彦と「教授」の一方的な師弟関係は夏目漱石の『こころ』の「私」と「先生」の関係を彷彿とさせる。

 

ダメ男のモラトリアム

そんな札付きのダメ男・松井英彦は新聞記者を休職して無為に過ごしている。松井は佐藤正午の小説にありがちな自己中心的な人物として描かれている。松井のモラトリアム生活に花を添えているのは「教授」と「夫人」と謎の探偵だ。「教授」は前述のとおりダメ男である。だけれど「教授」の講義は何故か魅力的である。酒場でする他愛もない話がユーモアにあふれ輝いている。やっぱり佐藤正午の小説の会話は洒脱でいつまでも読んでいたい。「個人教授」という同じタイトルの映画のように、松井は年上の人妻「夫人」に恋をしている。松井と「夫人」は契約をかわして関係を持つようになった。いわゆる男娼というものだが、松井は真剣に恋に落ちている。松井を調査しているときに本人に気づかれた探偵も良い味を出している。尾行中に西瓜を買っているというのがまず面白い。こんな風に個性豊かな登場人物が物語に花を添えている。

 

松井の前から人が次々と去っていく

夫人、宮口みちよ、西沢ふみこ、教授。松井の前から次々に人が去っていく。恋人関係にあった宮口は子どもを生まないことに決め、一夜だけの関係の西沢は子どもを生むことを決意する。 もはや二人とも松井を必要とはしていないのだ。夫人も松井との関係をきれいさっぱり清算する。松井だけが新たな一歩を踏み出せていないように思える。だけど、最後の最後で仕事に復帰することになり、新たな一歩を踏み出すことを余儀なくされる。夫人や教授がいない街で松井はどのように生きていくのであろうか?

 

 

行方不明者というモチーフ

ジャンプ (光文社文庫)

ジャンプ (光文社文庫)

 

 この小説のメインストーリーは妊娠して行方が分からなくなった女の行方を主人公が追うというものだ。その女性探しが主人公の自分探しに通じてくる。松井と関係を持ち、子どもを身ごもった女たちはそれぞれ考え、自分の意志で生き方を決めていく。ある人は子どもをあきらめ、一方は子どもを産み自分で育てていくときめた。この小説で出てくる男たちはほとんどダメ男だけれど、女性たちはみんな芯が強い。行方不明というモチーフや、女性の意志や決断といい、この『個人教授』には『ジャンプ』に通じるものが多く感じられた。

 

 主人公がゲスすぎて感情移入しにくいので一般受けはしなさそうだけど、個人的には好きな青春小説だ。この小説は第二回山本周五郎賞の候補になっていて、吉本ばななの『TSUGUMI』と競って惜しくも受賞を逃している。村上春樹の初期作品が好きな人ならきっとハマると思う。

 

 

個人教授 (角川文庫)

個人教授 (角川文庫)

 

 

 

書店ブックカバーコレクション (大阪編)

スタンダードブックストア

大阪が誇る個性派書店。

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蔦屋書店

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書店ブックカバーコレクション(大型書店編)

 まずは大型書店のブックカバーから!

ジュンク堂

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紀伊国屋書店

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TSUTAYA

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 ブックファースト

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続いて大阪の個性派書店のブックカバー。

 

スタンダードブックストア

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大阪の地図がモチーフになっている。スタンダードブックストアの場所もちゃんと書かれている。

 

蔦屋書店

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人生は空騒ぎ / 『恋のロンドン狂騒曲』 ウディ・アレン

 軽いラブコメディと思いきや...

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 ウディ・アレン監督の映画といえば、ユーモアに富んだ会話と、「人生は無意味だ」といったシニカルな作風で知られている。この『恋のロンドン狂騒曲』はウディ・アレン映画の中でも諦念に満ちた映画だ。ウディ・アレン初心者には勧めにくい激苦映画。観る前は『恋のロンドン狂騒曲』というタイトルからラブコメ的なものを想像したけれど、観てみるとなかなかシニカルな内容。人生は死ぬまでの空騒ぎに過ぎないを体現するかのように、登場人物たちはそれぞれの妄念に憑りつかれてドタバタ劇を繰り広げていく。

 

登場人物はそれぞれ何かに憑りつかれたように生きている。アルフィは死を恐れ、永遠の若さや自分の子どもを残そうとすることで死に抗おうとする。小説家のロイは新作の小説が書けずに、犯罪的行為に手を染めていく。ロイの妻のサリーも夫婦関係が上手くいかず、ギャラリーのオーナーに惹かれていく。一方でサリーの母で、アルフィの元妻であるヘレナはスピリチュアルな方面に走り、怪しい占い師にはまっている。みんながみんなそれぞれの幻想に振り回されていき、とち狂った行動を起こしていく。そして破滅的な結末を迎えてしまう。現実を直視している登場人物はそれぞれが不幸な結末に至る中で、幻想に浸り続けているヘレナが一番幸せなように描かれている。最後のシーンではハッピーエンディングを迎えているような演出になっているけど、むしろバッドエンディングである。それも、人生のやるせなさが詰まった激苦エンディング。人生は現実を直視するには辛すぎる。きっと、幻想がなければ人は生きられないのだろう。

 

恋のロンドン狂騒曲 [DVD]

恋のロンドン狂騒曲 [DVD]

 

 

最近、佐藤正午が気になる

最近、直木賞を取った佐藤正午

 

月の満ち欠け 第157回直木賞受賞

月の満ち欠け 第157回直木賞受賞

 

 最近、『月の満ち欠け』で直木賞を受賞して、注目を集めている佐藤正午。僕も以前から名前を聞いたことがあったけど、実際に読んだことはなかった。この機会に『ジャンプ』を読んでみたけれど、凄く面白かった。派手さはないけれど、洒脱な会話や凝った構成に惹かれた。『Y』も読んでみたけれど、これも良かった。村上春樹伊坂幸太郎が好きな人ははまると思う。次は『小説の読み書き』の中で紹介されていた『取り扱い注意』と、最近新装版がでた『夏の情婦』を読んでみたい。